第184話 騒ぎ

 その後、止めに入った騎士達に連れられ、運営本部に連れ戻された。


 もちろん、上級生や先生にかなり強めに怒られた。


 メインは上級生達の監督責任であったが、俺達も止めるどころかむしろ積極的に加担したことを咎められた。


 まあ、当然だな……。


 成り行きとは言えさすがに他校と戦い、しかも魔術まで使ったのはまずかった……。


 見回り担当としても、「次はない」と釘を刺された。


 一番不憫だったのはベルだ。


 唯一俺たちを止めようと右往左往していたのに、一緒に怒られるはめになってしまった。今度なにかお詫びをしないと償いきれない……。


 俺たちがお叱りから解放されたのはもう日差しも傾き、夜になろうとしていたころだった。


「おいおい、探したぜどこ行ってたんだよ」


 本部から出た所で、きょとんとした顔をしたレンに声を掛けられる。


「あー悪いな、ちょっと面倒に巻き込まれててな……」


「面倒?」


 レンが不思議そうに首をかしげる。


「実は――」


 俺は、見回りの途中で、アマルフィスと三対三の戦いを繰り広げたことをレンに報告した。


 すると、しばらく黙って聞いていたレンが、いきなり大きな声を出す。


「うらやましいなああおい!!!」


 俺とベルは咄嗟に耳を塞ぐ。


「レン君、声が……」


「わ、悪い、ベル。ついな……」


「声うるっさいな……何がだよ」


「お前達だけずるいじゃねえの、そんな楽しそうなイベント! あーくそ、俺も行きたかった!」


 レンは悔しそうに顔をゆがめ、ぎりぎりと歯を食いしばる。


「レン君は来なくて正解だったよ……。こってり怒られたし……アハハ……」


 ベルが暗い顔で乾いた笑いを漏らす。


「いや、まじでそれは悪かったよ……」


「いいじゃねえか、怒られたって! そんな経験殆ど出来ねえぜ? それに、アマルフィスと戦えるなんて三校戦くらいでしかありえねえんだし、こういうチャンスをものにしねえと無理だろ?」


「お前ならそう言うだろうとは思ってたよ」


 そして、俺も同じようなものだ。


 俺もその点に少し魅力を感じてしまったからこそ、三対三なんてものに参加してしまったわけだ。


 レンが運が悪いのは相変わらずだな。


「くそ、魔道人形を動かすのであんなに疲れてさえいなければ……!」


 レンは悔しそうに拳を握りしめる。


「――はあ、過ぎちまったものはしょうがねえな。……で、この後はどうするんだ?」


「この後は普通に見回りだよ。私達怒られて時間無駄にしちゃったし、せめて最後まで全うしないと」


「まじめだなあベルは」


「しょうがねえだろ、元はと言えば俺の責任だしな、真面目に見回るさ。レンも行くだろ?」


 レンはニッと笑みを浮かべる。


「もちろんよ! 何か楽しそうな事件が――もとい、何か問題があったら困るからな。俺達でこの学校の安全を守ってやろうぜ!」


「目立ちたいからって自分から問題は起こすなよ……俺が言えた義理じゃねえけど。……とりあえず正門の方から見回ろう。そろそろパレードの時間だし、余り騒ぎは起きないかもしれねえけどな」


「そうだね、人が多いのもそっちの方だろうし。今度はしっかり見回りしよ、魔術はなしだからね!」


「わかってるよ、ベル」


◇ ◇ ◇


 パレードの準備は順調に進んでいるようで、ホムラさん達が校舎の方に集まっているのが見える。


 じきに始まるだろう。


 パレードのスタート地点は噴水広場で、そこから校内をぐるっと回り、正門から出てロンドールの街を回る。


 そのため、早く見ようと正門付近には昼間より人だかりが出来ていた。


 それでも、各出し物にはまだ客がかなりの数残っており、パレードだけが目的ではない人も沢山いるようだ。


 と、その人だかりの中に見慣れた姿を見かける。


 シルクハットに、派手目のローブ。


 その男は、きょろきょろと辺りを見回し、小走りに人ごみへと消えていく。


「リンデ・アーロイ……?」


「どうしたよ、ギル」


「いや、なんでもない……」


「今のリンデさんだよね?」


 ベルが俺の雰囲気を察して声を掛ける。


「ああ……。ショーはもう終わったのかな」


「夕方ので最後だったみたいだよ? まあさすがにパレードとは被らせられないよね」


「なるほどな」


 ということは、最後に出し物でも回ろうとしてるのか。

 にしてはどこか落ち着きがなさそうで、焦っている様子だったが……。


「おい、ギル! 霊薬の試飲だってよ!」


 レンが高いテンションで俺の肩を叩く。


「ああ、ユンフェのクラスだろ? 昼間に行ったよ」


「まじかよ! 誘えよ~~!」


「倒れてただろ……。そういうのに興味あるのか?」


「当たり前よ。ジャックっつったか? たしか霊薬飲んで新人戦で戦ってたやつ居たよな? あれ見たときから気になってたんだよな~」


 レンは物欲しそうな顔でユンフェのクラスを眺める。


「二年から錬金術の授業も始まるみたいだが、お前の不器用さじゃ無理だしな」


「言われんでもわかってるわ! だからこそ興味あるんだろ~? ちょっと見て行かねえか?」


 レンはそう言いながら俺の肩に腕を回す。


「まあ見回りのついでだしいいけどよ。ベルもいいよな?」


「うん、いいよ。見回りには変わりないしね」


「よしゃ!」


 俺たちは再びユンフェの元を訪れる。


 昼間よりは少し人が少ないように感じるのはやはりパレードの方に人が掃けているのか。


「おーい、ユンフェ」


 しかし、反応がない。


「おかしいな、昼間は外で客引きしてたんだが……」


 俺たちはそのまま中に入り、辺りを見回す。


「おーい、ユンフェ? また来た――」


「やめなさい、なんなのよもう!!」


「ユンフェの声……!」


 怒声を上げていたのは、ユンフェだった。


「どうした!?」


「ギ、ギル……!」


 慌てて声の方に駆け寄ると、そこには強引にユンフェに絡む客の姿が。

 両手が瓶で塞がっているユンフェの服を、何やら強引に引っ張っている。


「おい、離れろ!」


「ひっ!」


 俺は客の腕を強引に引き剥がすと、足を掛け横転させる。

 腕をねじ上げ、そのまま地面に押さえつける。


「おいおい、ひでえ客だな……大丈夫だったかよ?」


「大丈夫ユンフェちゃん?」


「え、ええ……」


 ユンフェは気持ち悪い物を見る目で、地面に押さえつけている男を見る。


「なんだってんだよ……堂々と迷惑行為するのは止めて欲しいんだが」


「う……はは……はははは!!!」


 地面に押さえつけている男が、不意に不気味な笑い声を上げる。


 明らかに異様だった。


「うげ、何笑ってんだこいつ……気持ちわりいな……」


「ちょっとばかり面倒な客みたいだな。俺がこいつを本部まで連行する――」


 と、押さえつけていた客の腕が、俺の視界に入る。


 手首には、朝から何度も見かけたあの模様。


 五芒星の中に、瞳のマーク。


 またかこれか……。

 この模様……どこで見たんだっけ……。


「うわああ、何してんだ!!」


 またも叫び声。


 今度の声は、試飲コーナーの方から聞こえてきた。

 次いで、パリン! っと何かが割れる音が響く。


「なんだなんだ次から次へと!?」


 更に割れる音が続く。


 どうやら別の客が瓶を次々と割って暴れているようだ。


「おい、止めろ! 暴れるな!」


 レンが暴れ始めた客を地面に押さえつける。


「物を割るんじゃねえよ! 誰か怪我したらどうすんだ!」


「あははは!」


 この男も、心底楽しそうに笑う。


「ギル君……この人達何か気味悪い……」


「確かに普通じゃねえな……」


 こいつら仲間か……?


「……レン、そいつの身体に何か模様掘られてないか?」


「模様? ……あ、首に何かあるな……何だこれ? 目……?」


「まじか……」


 おいおい、何かおかしなことになってきたな……。

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