第165話 不思議

「レン君ちょっと下手すぎない?」


「うるせえなあ、ミサキがうますぎるんだよ!」


 レンが操る魔道人形が、まるで屍の様にグネグネと身体を捩じりながら変な態勢で静止する。


 その横で、華麗にアクロバティックな動きをするもう一つの魔道人形が、軽やかに着地する。


「そうかなあ、ドロシーちゃんの方が上手いと思うけど」


「……悔しいけどミサキも中々やるわね……次は私とバトルよ!」


 項垂れるレンを押しのけて、ドロシーが今や地面に倒れ股の間から顔を出している魔道人形に触れる。


 と、そこで項垂れてぶつくさ言っていたレンが俺達の帰りに気付いたようで、パッと顔を上げる。


「お、二人とも! どうだった?」


「あ、おかえりなさい二人とも」


 元気よく出迎えてくれるレンとミサキ。

 それと裏腹に。


「ふん、楽しかった?」


 ドロシーはまだおいていかれたのを根に持っているのか少しツンとしている。

 

「おいおい、俺達のこのテンションが楽しんできたように見えるか?」


「んだよ、駄目だったのか?」


「いや、魔道人形は良かったんだが……なあ?」


「うん……」


 俺とベルはお互いに顔を見合わせて大きくため息を付く。


「な、なによ二人で通じ合ってる感じ出しちゃって。何があったのよ」


「帰ってくる途中によ、あの学校祭にゲストで来る有名人に絡まれたんだよベルが。なあ?」


「あはは、うん……なかなか凄い人だったね」


「まじで!?」


「ほ、本当なの!?」


 不機嫌気味にツーンとしていたドロシーも興奮気味に俺たちに寄る。


「えー何々、オースティン・メイアンにあったの、ギル君!」

 

 ミサキも感嘆の声を上げる。


 ドロシーは少しイライラしたように口を尖らせる。


「あんたばかり色々いい思いして気に食わないんだけど……! くうう!」


「あ、いや、オースティンの方じゃなくてだな……」


「え、それ以外ゲストなんていたかしら……?」


「酷いな……こりゃあのおじさんの想像通り誰も見に来ないパターンあるぞ……」


「だ、誰だったかしら……」


 真剣に頭を悩ませるドロシー。

 腕を組みながらウンウンと唸る。


 ――と、レンがポンと手を鳴らす。


「あー、マジシャンか! リンデなんちゃらとかいう」


「あー居たわねそう言えば。なんだ、オースティンじゃないの……。つまらない」


 がっくりとドロシーは項垂れ、つまらなそうに地面を見る。


「ミーハーなのにマジシャンの方には興味ねえのか?」


「ミーハー言うな! 別に興味ない訳じゃないけど、オースティン・メイアンと比べるとねえ……」


「あはは、まあ確かに二人は活躍の舞台が違うからねえ。ドロシーちゃんの気持ちも分からなくはないけど」


 ミサキもドロシーに同意する。


 ドロシーは指を立てて俺に寄る。


「いい? オースティン・メイアンは言わば冒険家! 冒険者とはちょっと違うけど、一人で世界中を旅してるのよ。片やリンデ・アーロイは簡単に言えば大道芸人よ。旅してるのは一緒だけど各地で芸を披露してるのよ。私は大道芸の方にはそんなに興味ないの」


 熱弁するドロシーの横で、レンが腕を組みながら目を細めてニヤーっと笑う。


「俺はリンデ・アーロイ気になるけどなあ~。どんな人だった?」


「うーん……ありゃ変人だな」


「へ、変人……」


「そうだね、何か私に縋ってきたし……」


「「縋ってきた!?」」


「そうなんだよ。実は――」


 俺は魔道人形の話、そして街であったリンデ・アーロイの話を簡潔に説明する。


 遠くで聞き耳を立てていたロキもその話を聞いてフンと鼻息を漏らす。


 すると、押し殺していた笑いが徐々に大きくなり、レンが大声で笑いだす。


「アッハッハッハ!! 災難だったなあそりゃあよお! だが嫌いじゃねえぜそういう道化師は」


「本人は道化師ってつもりじゃないみたいだけどな。マジシャンと呼ばれるのも気に入らんらしい」


「まあそれは災難だったわねって感じだけど、魔道人形の方は無事直りそうでよかったわ」


「残してった二つも問題なさそうだな――お前らが戦わせて遊ぶくらいには」


 俺がそう切り出すと、三人とも苦い顔で笑みを浮かべる。


「いやー暇でな……なあ?」


「そ、そうよ動作確認よ。ねえ?」


「うんうん、使ってみないとねえ、あはは」


「……一つ壊れたってのに呑気な奴らだぜまったく……」


 ギクシャクと身体を強張らせる三人。

 すると話題を変えるようにレンが声を張り上げる。


「そ、それにしても! さすがギルの幼馴染だなあ、あれを直せるのか」


「――いや、というより工房主のサーチェスさんにおんぶにだっこで手伝ってもらうみたいな感じだったけどな」


「それでも十分だろ? いやー良かった、本番には余裕で間に合いそうだな」


 そう言ってレンは満足げにぐるぐると腕を回す。


「そうね、これで何とかなりそう」


「あとはちゃんと動かせるかだな」


 俺はレンの方を見る。


「さっきの感じ……レンは無理そうだな。練習が必要じゃねえか?」


「ぐっ……そうくるか……」


「ちょっとやってみろよもう一回」


「俺かあ? 出来っかなあ……」


 レンが憂鬱そうに魔道人形の方に歩いていく。


 ――と、不意に誰かが声を掛ける。


「やぁやぁお疲れだよ君たち!」

「ご苦労ご苦労!」


 同じような声色で、同時に話しかけてくる2人の少女。

 一瞬同じ人間が二人に分身したのかと見間違うほど、完全に同じ容姿をした、栗色の髪をしたロングヘアとショートヘアの2人組。


「――っと……」


 ウルラクラス三年の双子。

 ミレイとカレン。ウルラ名物とも呼べる二人組だ。


 ショートヘアの子がミレイさん、ロングヘアの子がカレンさん。


 ミレイさんはスラッしとしてボーイッシュな感じだが、カレンさんはどちらかというと柔和な体つきをしている。それ以外は本当に瓜二つだ。


 さすがに入学してから大分経つこともあり、二人の違いは見分けがつくようになっていた。


「あ、どうもっす、ミレイさんにカレンさん」


 ベルと同じか少し大きいくらいの2人はどこに行くにも常に一緒で、それ故に学校ではかなりの有名人である。そして、2人とも三校戦に出られるだけの実力を持っているのだ。


 注目度はホムラさんに引けを取らない。


「相変わらず2人ともかわいいっすね〜」


 ニヤッとした顔で近づくレンに、ミレイさんがシャーっと警戒した顔をする。


「君は相変わらずナンパ野郎だな!」


 対照的に、カレンさんは全力で嫌な顔をする。


「モテないよそんなだと」


「ほら、カレンが嫌悪な眼差しを向けている……! 大丈夫だよカレン、ナンパ野郎は放っておこう」


「軽蔑……」


「な、なんかすいません……そんなつもりは……」


 またもや項垂れるレンの後ろからミサキが声をかける。


「どうしたんですかお二人とも。進捗確認か何かですか?」


 するとミレイさんとカレンさんは同時にかぶりをふる。


「ホムラちゃんとあいつを追ってきたんだけど――」


「あいつ……?」


 カレンさんは頷く。


「そう。二年の子が逃げ出しちゃってね。実力はあるのに不思議ちゃんで――」


「あ、いたぞ……!」


 ミレイさん指を差す方を見ると、魔道人形のあたりに急に見た事もない男が現れる。


「なんだあ?」


 その男は、ただぼうっと空を眺め、魔道人形の近くで立ちすくんでいた。

 桜色の髪が、ぼさっと無造作に伸びている。


 独特の雰囲気を纏ったその男は、その表情からは何を考えているかわからない。


 レンは俺たちの方を振り返る。

 が、誰も知らず首を横に振る。


 こんな人ウルラに居たか……?

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