第161話 嫌な二人組
「やあ久しぶりだね、ギルフォード君」
「ご無沙汰っス」
路地には待ち伏せしていた二人の男。
ちゃらい茶髪の男と、それにいつもセットで現れる恐らく後輩であろう緑の髪をしたやる気のない死んだ眼をした男。
彼らはこのロンドール魔術学校に魔獣が現れ、エリーに禁書を奪わた時に会ってからちょくちょく顔を合わせている。
最後に見たのは新人戦の時だったか……。
今日もキャンサーは腕に抱えた器に入った丸い食べ物を細い棒で刺して掬い上げ、口に放り込みモグモグと食している。
二人と会うとろくな話がないため、俺は全力で嫌な顔をする。
「酷いなギルフォード君、そんなに私達に会うのが嫌かね」
「そりゃこんな食い意地張った女好きに何度も会ったら、健康的な青少年は嫌っスよ、普通」
気怠そうに口走ったサジタリウスを、キャンサーがギロリと睨む。
「――後で覚えてろよサジ」
「…………」
そんなやり取りを適当に聞き流しつつ、二人の様子を眺める。
いつも通りの青い鎧――ではなく、今日は私服のようだ。
鎧を着ていないのは騎士だと悟られない為か。
あれだと目立つしな。
少なくとも、俺の帰り道に張り付いていたあたり、俺を目当てにやってきたのは間違いない。
「待ち伏せっぽいですけど、何か用ですか? 俺もいろいろと忙しいんですけど……」
魔道人形の件もある、あまり長居はしたくないのが正直なところだ。
「嫌だなあ、ギルフォード君も人が悪い。君がちょうど今、用事を終えてもうやることがなく、あとはただ帰るだけだというのは私がしっかりと見ていたんだよ。……まあ、実はあの別れた少女と付き合っていて、デートの途中だから急いで戻りたいというのなら止はしないが」
そう言ってキャンサーは不敵な笑みを浮かべる。
まるで勝ち誇っているようだ。
あれがエレナの子孫であるベルだと知った上でからかってやがる。
俺はため息交じりに答える。
「――まさにその通りでして……なので俺はこれで。お疲れさまでした」
二人の間を抜けるように大通りの方へと歩みを進める。
「うそうそうそうそ! 悪かったよ!」
キャンサーは必至で俺の制服の裾を掴み、強引に引き留める。
「本当先輩は子供に対して扱い歪んでますよねえ」
「うるさいな!」
「はあ……で、何か用ですか? 仕方ないから一応聞きますけど」
「最初からそうしてくれるとありがたい。あーおほん……一応報告というか、君にも警告をしておけと上から言われていてね」
「警告……?」
こいつらの警告と言えば一つしかない。
『アビス』絡みだ。
「ここじゃちょっとアレだ。場所を移そう」
俺は二人に連れられ、さらに路地の奥へと入っていく。
大通りから大分離れ、人が来る気配は微塵もない。
見る人が見れば悪漢に連れ込まれたロンドール魔術学校生という構図だな……。
程よく人気のない場所まで辿り着くと、キャンサーはパチンと指を鳴らす。
防音の結界が俺たちをすっぽりと包むように張られる。
「――で、なんですか、警告って……」
「その前に、うちのリーダーにあったみたいだな」
「あースピカさんですか?」
俺の脳裏に、赤い綺麗なストレートヘアが思い出される。
「あの人過保護っスからねえ、ギルフォード君にも大分構ってちゃんだったんじゃないっスか?」
「さすが上司のことよく理解してますね。なかなかでしたよ。……まあいい人でしたけどね」
確かにあの過保護っぷりはさすがのクロもタジタジだったな。
純粋に心配してくれているのは分かったが。
「あっ、でも今のは言ったらだめっスよ? 殺されるんで……」
「そんなことする人には見えなかったですけど……」
「そりゃあギルフォード君が
サジタリウスはうんざりした様子で肩を落とす。
あの温和というか母性の塊のような人がそんなことするのか……?
……でも同僚には容赦ないのかもしれない。
職場での人柄が想像つかないな。
「私とサジがグリム君の敗北を伝えたときの様子と言ったらそりゃあもう……君には償ってもらいたいくらいだよ」
「酷い大人たちだな、人のせいにすんな!」
「――とまあ冗談はさておいて……ここからが本題だ」
急にキャンサーは真剣な顔つきになり、俺をじっと見る。
「カリスト、そして王都での話は聞いている。なかなか大変だったみたいだな」
「……ええ、まあ」
話は伝わっているか……スピカさんの同僚だもんな。
騎士団長――エレディン・ブラッドとの戦いも伝わっているんだろうか。
「騎士団長の意向も、これからの騎士団の『アビス』との闘い方も変わらない。あくまで私達騎士団が総力を挙げて対処するというのは大前提での話――という上で聞いて欲しい」
俺は静かにキャンサーの話に耳を傾ける。
「これは事件に関与してしまった君だから話すという事を念頭に置いてくれ」
回りくどいな……何が言いたいのだろうか。
少し嫌な予感がする。
「ええ……それで一体何が……」
「――
「それが何か……珍しいことなんですか?」
「ゾディアックは王が直接任命する、いわば選ばれし騎士達だ。そう簡単に入れ替わることは無い」
「じゃあ何が――」
その問いに、キャンサーは間を置かずあっさりと答える。
「殉職だ。アビスを追っていたリブラとアクエリアスの二人が殺された」
「殺された!?」
するとサジタリウスが少しうろたえた様子で口をはさむ。
「せ、先輩、そこまで言えとは言われてないッスよ……」
「そこまで言ったほうがこの小僧も奴らの危険性を理解するだろ」
サジタリウスは軽く肩を竦め溜息をつく。
「ま、それもそうっスけど……」
「すでに首を突っ込みすぎだからな……それが君の意図するところではなかったとはいえな」
「死因は……?」
「魔術での戦闘の末の戦死……。死体は二人ともバラバラだ」
「エリー・ドルドリス……」
キャンサーはゆっくりと頷く。
「運び屋風情が調子に乗ってるという訳だ」
キャンサーの顔、口調は淡々としていたが、その拳が強く握られるがわかる。
「吸血鬼のネクロが歩き回ってるという情報は今のところない。奴らの言う下準備とやらがまだ完了していないんだろう。ただ、前より明らかに好戦的になってきているのは確実だ。追っていた二人が殺されるほどにな」
「…………」
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