第122話 騎士
中に入ると、そこは会議室だった。
大きな窓に、豪華な内装。
部屋の奥には巨大な地図が広げられている。
有事の際にはここで戦略を練っているのだろうか。作戦会議室、と言ってもいいかもしれない。
部屋の中央には長机が用意されており、数名の騎士達が一列に座っている。
青い鎧を着た男騎士が1名。
黒いローブを羽織った女魔術師が1名。
そして軽量な装備を身に着けた魔道騎士らしき男が1名。
見るからに位の高そうな騎士達だ。
エレディンが勢いよく扉を開けたせいでその視線が一斉にこちらへ注がれる。
エレディンはそんな視線も気にせずやあっと手を上げると、一人ひとり指を指しながら確認する。
「えーっと、異形狩り部隊総隊長に‥‥‥魔術騎士と一般騎士それぞれの騎士長‥‥‥オーケー、みんな揃ってるね。おつかれ」
「それって‥‥‥」
この国の騎士のトップたちじゃねえか‥‥‥!
おいおい、俺たち場違いじゃねえのかこれ‥‥‥。
余計なことを言うなよと釘をさしたエレディンの意味がようやくわかった。
こんなところ、一学生が来ていいようなところじゃねえ‥‥‥!
エレディンの奴、ここで"アビス"について意見をまとめる気なんだ。
手前に座る黒いローブを着たブロンドヘアの女性が声を上げる。
「長旅ご苦労様、エレディン団長。で、そっちの2人はどちら様な訳? 一般人をここに入れるってことは余程の事態なのよね?」
鋭い眼光でその女性は俺たちを睨みつける。
「あはは、アニスは相変わらず怖いな。彼らは今回の"アビス"の件の重要参考人でね、情報提供のためにはるばる来てもらったって訳だ」
「だとしても、ここに連れてくる意味はあったのか? どうせまたお前の独断だろ」
そう口を挟んだのは、軽量装備を身に着けた黒髪の男だ。
「独断とは、あはは、耳が痛いな。‥‥‥だが、別に連れてきたからと言って悪いことなんて1つもないだろ? 君たちにとっては生の情報を聞ける。俺にとっては自分の好奇心を満たせる。一石二鳥だろ」
エレディンは腰に手を当て、自信満々にそう言い切る。
「ハッハッハ。我らが団長、エレディンの横暴な態度は今に始まったことでもあるまい。2人とももう慣れておるだろう?」
一番高齢そうな、白髪のオールバックの男が穏やかに擁護する。
青い鎧‥‥‥恐らく一般騎士か。
他の2人に比べ、紳士的な雰囲気を感じる。
「それはわかっていますよ、ロイドさん。私たちはこいつに振り回されてばかりですからね。まったく、何でこんな奴が団長を引き継げたのか‥‥‥」
「強い人がトップに立つ。シンプルな話よ。そこに私は疑問はないわ。――しっかり仕事さえしてくれればね」
その棘のある言葉に、同意の念を込めたのか黒髪の男は肩を竦める。
「あー、ご歓談中悪いが、本題に移っていいか?」
そうして俺とクロは席に座るよう促されると、言われるがままに席に着く。
スピカさんも俺たちと対面するように席に座る。
「――改めて、皆良く集まってくれた。とりあえず俺たちの自己紹介からはじめようか」
そう言ってエレディンは右の方を見る。
「君たちからみて左端から。彼女は知っていると思うが、
2人の美人はその紹介を黙って聞く。
「で、黒髪の不愛想な男は魔術騎士の騎士長、アーノルド・ローゼンバーグ。そして、俺の隣に座っている白髪の老人は一般騎士の騎士長、私の一番の理解者であるロイド・アークマン氏だ」
「ハハハ、ワシだけ敬われるとむず痒いな」
全員、数々の修羅場を潜り抜けてきた眼をしている。
俺を見る目も、当然の如く厳しい。
さすが騎士の中でも最上位に位置する者達と言ったところか‥‥‥。
「――そして最後、歴代最強にして今日の魔術社会において、こと戦闘においては所謂日陰者である非魔術師でありながら彼ら強者たちを一挙に束ねる、剣に愛された男。騎士団長兼剣聖、エレディン・ブラッドだ」
エレディンは誇らしげに胸を張る。
しかし、他の人の目線は冷ややかだった。
「また言ってるわよあの団長」
「昔からそうだからな。もう慣れたよ」
「ハッハッハ、若く自信に溢れる男は嫌いではない」
三者三葉の反応に、エレディンは一向に構う気配はない。
そのカリスマ性とは裏腹に、圧倒的人気という訳でもないらしい。
「‥‥‥それで、そっちの2人は?」
アニスさんの視線が俺たち2人に向けられる。
「ああ、そうだな。左の彼はロンドール魔術学校の生徒、ギルフォード・エウラだ」
「ほう、ギルフォード‥‥‥」
「大層な名前を授かったものね」
やっぱそこに引っかかるよなあ。
久しぶりの反応に懐かしさすら覚える。
自分の名前を、昔の自分の名前が由来だと思われる奇妙な感覚は誰にも分るまい。
するとアニスさんが何かを思い出したかのように眉を潜める。
「‥‥‥ちょっと待って。確か今年のロンドールの新人戦で優勝した子もギルフォードだったような‥‥‥」
「良く知っているな。うちのギルはまさに、新人戦を制したギルフォードその人さ」
クロが自慢げに言う。
「なんでクロが自慢げなんだよ‥‥‥。でも本当良く知ってますね、新人戦なんて」
「君ねえ、一応ロンドールの新人戦はそこそこ大きめのイベントなのよ? わかってる? ‥‥‥だからチェックはしていたのよ、軽くね。確かその大会で誰かを大怪我させたとかでちょっとした騒ぎになっていたような――」
っとそこまで言ったところで、隣に座るスピカさんの視線に気付き、慌てて話を強引に区切る。
「ま、まあいいわ。確かに優秀な子みたいね。エレディン団長が多少気に入るのも無理はないけど、所詮学生でしょ?」
「おっと、流石の俺もただの少年をこんな会議の場に連れてはこないさ」
「どういうことよ」
「ギルフォードは吸血鬼と戦い、そしてそれを退けた強者ということだ。英雄の名を継いでいるのは伊達じゃない」
「え‥‥‥!?」
アニスさんは驚愕した様子で目を見開くと、机を思い切り叩き、立ち上がる。
「吸血鬼を‥‥‥この子が‥‥‥!? 地上最強と言われる生物よ!? 私達の異形狩りの存在意義でもある‥‥‥!」
エレディンはニヤニヤしながら頬杖をつく。
「おやおや、異形狩りの総隊長ともあろう君がそんな情報すら知らなかったのか?」
アニスさんは少し引きつった顔で答える。
「‥‥‥もちろん、サイラスとリザからカリストの件は大まかに事の顛末だけ報告を受けていたわよ。‥‥‥ただ、まさかこんな子供だったなんて」
そう言いながらアニスさんはまじまじと俺を見つめる。
「それにしても、まさか本当に‥‥‥。君が直接吸血鬼と戦ったってことよね?」
「えっと、まあ‥‥‥もちろんエレディンさんに助けてもらってやっとですけど」
そう言っておかないと何となく追及が激しくなりそうで、俺は咄嗟にエレディンの名前を出す。
「エレディン団長が‥‥‥そう。それなら多少は納得できるわね。‥‥‥こんな子供がそもそもエレディン団長と共闘とは言え吸血鬼と張り合えたこと自体驚きだけど‥‥‥」
その納得っぷりから、アニスさんのエレディンの強さに対する信頼の高さがうかがえる。
「彼らを呼んだ理由がわかっただろう? 彼らは貴重な情報源って訳さ。なんなら、君の所の組織以上に情報を持ってることだろう」
アニスさんは悔しそうに唇をかみしめる。
「それが本当なら、その通りね‥‥‥。エレディン団長に気に入られるのも納得だわ。――それじゃあそちらの女性は?」
「彼女は――‥‥‥」
エレディンの言葉が、一瞬途切れる。
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