第84話 千年越し
その後、準々決勝第4試合、シャーロットVSゴウマはシャーロットの勝利で幕を閉じた。
お互いにそこまで名の知れた魔術師という訳ではなかったが、グリム・リオル世代の筆頭として、ロキとは同列に語られることもある魔術師だったみたいだ。
グリム・リオル、ユンフェ・タオ、リューク・エルバド、ベルベット・ロア。
彼ら世代ナンバー1の実力者の1つ下に位置するナンバー2たち。
いずれは自分が最強の魔術師になると彼らの名声の陰で爪を研ぐ者達だ。
今回の大会は彼らナンバー2達にとって希望となったのか、それとも新たな絶望の始まりとなったのか‥‥‥。
ベスト4にはウルラから俺とベルベット・ロア、コルニクスからグリム・リオル、アングイスからシャーロット・エイワスが残った。
俺とミサキがユンフェとリュークをそれぞれ倒したことで、ベスト4は当初の予想とは大分違ったものになってしまったに違いない。
このまま行けば俺は、ユンフェに続きベルやリオルまで倒すことになる。
いよいよ言い訳が出来なくなってくるな‥‥‥。
まあ今更という感じではあるが‥‥‥。
大会の後の騒ぎを考えるだけで少し面倒な気持ちが湧いてくる。
ホムラさんはテンション高く絡んでくるだろうし、サイラスはおちょくってくるだろうなあ。クロは面倒なことになりそうだなと嘆きそうだし、学校や魔術師界から何らかの形で接触されることもあるかもしれない。
「――‥‥‥はぁ」
そんなことを考えながら俺は頭を抱え、控室で配られた昼食をぼんやりと口に運ぶ。
それでも、ここまで来たからには優勝するしかねえ。
残された俺の目的は1つ。レンとの約束だ。
ベルもリオルも倒して、俺が頂点に立つ。
2日目の午前の部が終了し、1日目同様昼休憩を挟む。
控室に残っているのはベスト4に残った4名のみ。
皆集中力を高めていて、言葉を発する者はいない。
ベルと俺でさえ、ちょっと前までは適当な世間話をしていたが、今はもう話すこともなく自分のことに集中している。
――そう、何を隠そう準決勝第1試合、つまり次の試合‥‥‥俺の対戦相手はベルなのだ。
グリム・リオルに匹敵する力と知名度を持ち、原初の血脈であるロア家の少女。
千年前に共に戦ったエレナに瓜二つの少女。
ただ、ベルには可哀想だが俺は祖先であるエレナの魔術をほとんど知り尽くしている。
そのため、正直言って戦いやすい。
どうやら千年という長い月日の中でその特異魔術は大分様変わりしたようだが、その本質は変わらないだろう。
だがそうは言っても油断は出来ない。腐ってもエレナの子孫なのだから。
確かにベルの攻撃は何となく予想できはするが、実際しっかりとベルの試合を見たのは入学試験の時くらいで、昨日今日とあまりまともに試合を見れていない。一方で、ベルは恐らく俺の戦いっぷりを見て作戦を立ててくるはず。
相性次第で勝敗が簡単に覆るのが魔術師の戦いだ。
あまり気を抜いていると足元を掬われかねない。
攻撃を直接当てられれば俺が一発で勝利を収められるんだ、その縛りがある限りベルの攻撃パターンは大体予想が立てられる。
恐らく、得意の鎖を使った拘束をメインにした遠距離戦。
近距離戦ではベルに殆ど勝ち目はない。それはベルも分かっているはず。
あとはどれだけ俺の知らない魔術をベルが使ってくるかによるな。
――まあ、始まる前から深く考えたところでわかる訳がない。
俺は今まで通り出たとこ勝負で相手をねじ伏せるのみだ。
◇ ◇ ◇
昼休憩が終わり、とうとう準決勝が始まる。
会場のざわめきは昼前までとはまた更に打って変わって、ピリピリとひりつくような緊張感が漂っている。
それは会場だけに留まらず、もちろん控室もだ。
俺とベルはお互いに言葉は発さずただ頷き、会場へと入っていく。
「さあ、とうとうこの時がやってきました!! 早いもので新人戦、とうとう準決勝の時間です!! 選手入場!! もう彼の実力を疑う者はいないのでは!? ウルラ所属、突如現れた期待の超新星、英雄の名を持つ男!! ギルフォード・エウラ!!」
ウオォォォ!! っと雄たけびのような歓声が一気に噴き出す。
前の試合までにはなかった俺に対する観客の反応に、俺は思わず唖然と周りを見渡してしまう。
「随分と受け入れられたな‥‥‥」
悪気はないだろうが、急な手のひら返しは少し笑っちまうな。
――まあ、悪い気はしねえ。
ユンフェを破り、リュークを破ったミサキを破った男‥‥‥。
関節的ではあるが、優勝候補を2人破ってここまで来たってことだからな。もう観客の中では優勝候補と考えて見ている奴も少なくないのかもしれない。
その期待に答えてやろうじゃねえか。
「続きまして! 正真正銘、6英雄が1人エレナ・ロアの血を継ぐ少女!! 本大会優勝候補筆頭!! 説明不要の圧倒的な実力は本大会でも健在!! 同じくウルラ所属、鎖の魔女‥‥‥ベルベット・ロア!!」
これまた大きな歓声が、会場を包む。
もう声を出してない奴なんていないんじゃないかという程の大歓声だ。
その歓声の中を、普段のベルからは全く考えられない程冷静に歩いてくる。
その顔つきは、まさにエレナそのものだ。
俺は懐かしさのあまり、ついついベルの顔に見入ってしまう。
「――どうしたの、ギル君?」
「あっ、いや‥‥‥。やっぱ戦闘前とは別人だなって」
するとベルはフフっと笑う。
「昔から戦いが始まるとアドレナリンが溢れ出てくるのか、不思議と気持ちが落ち着くんだよね‥‥‥。冷静な自分と興奮状態の自分が共存しているような不思議な感覚。可笑しいかな」
「可笑しくはねえけど‥‥‥。また相変わらず天才じみたこと言ってやがるな、お前は」
「相変わらず‥‥‥?」
おっと、つい口を滑らせてしまった。
やっぱりどうしてもこのベルを見ているとエレナと勝手にだぶらせてしまう。
気を付けないと‥‥‥。
「あーいや、ゴホン、気にするな。‥‥‥それより、ベルと戦うことになるとは‥‥‥」
「びっくりだよね。正直ギル君の力は信じてたけど、ギル君のことだからもっと早い段階でわざと負けるのかな~なんて思ってたから‥‥‥ここまで来るなんて意外だったよ」
「ははは‥‥‥よく言われる‥‥‥」
「私、ギル君とは戦って見たかったんだ」
「なんで?」
「ギル君にはなんか同じ匂いを感じていたから‥‥‥。どうも他人とは思えなくて‥‥‥。変だよね」
ベルの‥‥‥ロア家の血がそう思わせるのか。
単にベルが俺に親近感を覚えているだけなのか、それは分からない。
だが、千年の時を超えて戦えるなんて夢みたいじゃねえか。
エレナから脈々と受け継がれてきたロアの血が、今俺の目の前に居る。
千年ぶりにエレナにリベンジするみたいで少しテンションが上がるぜ。
お前の子孫の力‥‥‥身をもって体感させてもらうぜ‥‥‥!
「わからなくもないぜ。俺もベルと戦うのを楽しみにしてたよ、ずっとな」
「あはは、それは良かった。どっちが決勝に行っても恨みっこなしだよ?」
「おう、もちろんだ」
俺とベルは硬くグッと握手を交わすと、所定の位置につく。
会場が静まり返る。
「――それでは、準決勝第1試合‥‥‥‥‥‥はじめッ!!」
準決勝の開始を知らせる鐘が、今鳴った。
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