第83話 勝負
「さあ、注目の対戦カードの時間がやって参りました! 大番狂わせが多い中、この2人の実力は折り紙付き!! まずはこの方! 雷を自在に操り自分の身体すら厭わない超攻撃型の魔術師!! ロキ・ポートマン!!」
会場のボルテージがヒートアップするのとは裏腹に、ロキは至って冷静に会場へと入っていく。
相変わらずクールだな。だが内心はメラメラ燃えてそうだ。
「そしてお待たせ致しました! もうこの人の説明は不要でしょう! 本大会ナンバー1の呼び声高い、"魔剣士"、グリム・リオル!!」
司会の紹介と同時に、会場中が一気に湧き上がる。
今までの歓声とは比べ物にならないほどの盛り上がりだ。
さすがはサラブレッド‥‥‥その実力は皆知っての通りってことか。
レンとの試合を見たときはその実力はある程度測れたが、あれが全力とは思えない。
しかも、7色の刀を使うという話だが、あの試合で見たのは6色のみ‥‥‥。
まだ奥の手を隠しているのは確実だ。
一方でロキは殆ど手の内を晒してしまっている。
どう戦うんだロキ。
2人は中央で相まみえる。
「噂は聞いてるよ、ロキ・ポートマン。いい勝負をしようじゃないか」
リオルが握手をしようと手を差し出す。
しかし、ロキは応じない。
「‥‥‥ふん。俺は仲良しごっこをしにこの場に来たわけじゃない。慣れ合うつもりはないぜ」
「そういうつもりで言ったわけではないんだけどね。‥‥‥でも、君を見ればわかるさ。相当張り詰めた魔力をしている‥‥‥やる気は十分って訳だ」
「貴様だってそうだろう? 俺たちの戦いは長くは続かん、すぐに決まる。俺の雷が貴様に届くのが先か、貴様の切っ先が俺の喉を掻ききるのが先か。その違いだ」
するとリオルはやれやれと肩を竦める。
「本当に戦闘狂という感じだな。‥‥‥俺はこの後、決勝でギルフォードと戦うと決めていてな。ここで負ける訳にはいかないのさ」
ロキの顔色が変わる。
「‥‥‥あの野郎の試合は俺も見たさ。授業でも散々猫かぶりやがって‥‥‥俺はそれが許せねえ‥‥‥! お前を倒して、決勝であの野郎に引導を渡すのは俺の役目だ」
「ふっ、面白い‥‥‥。お互いに全力で戦う理由は十分という訳だ。言っておくが、君のことを俺は甘く見て戦うつもりは毛頭ない」
ロキはパキパキと指を鳴らす。
「――当然だ。貴様はせいぜい、黒焦げにならないように気を付けるんだな。気を抜けば、コインは簡単に裏返るぜ」
2人の間に緊張が張り詰める。
軽く笑みを浮かべ、戦いを心から楽しんでいそうなリオルに対し、険しい表情で勝利を渇望するロキ。
態度は正反対のようで、勝ちへの執念はお互い同じ。
実力はリオルの方がおそらく上‥‥‥それでも飛び道具のないリオルに、ロキの電撃を避ける手段があるのかどうか。
注目の1戦で間違いねえ。
「――さあそれでは両者、準備はよろしいですか? ‥‥‥それでは準々決勝第3試合、始め!」
カーンと、勢いよく鐘が鳴る。
リオルは早速白い刃を出し、顔の横で切っ先をロキに向けて構える。
瞬間、ロキが先に動き出す。
「"雷爪"!」
5本の電撃がリオルを襲う。
しかし、それを悉くリオルは弾く。
さすがの剣速‥‥‥! ロキの飛び道具をものともしない。
これはロキも近接戦闘にしないと勝ち目はないか‥‥‥?
弾いた衝撃で巻き上がる煙に乗じて、ロキが一気に切り込む。
煙に紛れ、ロキの姿が消える。
次の瞬間、リオルの後方からバチバチと音を立て、光り輝く一筋の線が振り下ろされる。
「ウオラア!!」
刀が激しくぶつかりあう音が響く。
「ほう、刀か‥‥‥! 俺に刀で勝負を挑もうと‥‥‥!?」
「やってみなきゃわかんねえだろうが!」
ロキは雷刀イカヅチでぐいぐいとリオルの白刀を押し込んでいく。
「ぐっ‥‥‥!」
イカヅチは予想より重く、リオルの白刀による素早い打ち込みでも威力を殺し切れない。
咄嗟にリオルは紫に切り替えイカヅチを斬り付けながら後方へと下がる。
――が、ロキもまたすぐさまイカヅチを手の中から消滅させると、再度魔術を発動し、イカヅチを再生成する。
「リセットする判断が早いな。やっぱり手の内を見せすぎるのは良くないな」
「くだらん。俺に手の内を見せないで勝てると思っているのか」
「‥‥‥決勝の為にも俺は最後の刃だけは見せない。俺の切り札は隠したまま君に勝つよ」
「――ほざけ、その余裕、次の一撃で粉々に砕いてやるよ」
「いいだろう。俺も次の一撃で君を粉砕してみせよう」
リオルはぐっと、腰を落とし、納刀するようにして無刀を構える。
対するロキは、イカヅチを正面にどっしりと構える。
緊迫した空気が流れる。
勝つのはリオルの居合か、ロキのイカヅチか。
刹那、ロキが勢いよく斬り込む。
リオルまで残り3m――しかし、そこがリオルの射程範囲だった。
僅かな所作で、リオルは無刀を引き抜くと、一瞬にしてロキを斬りつける。
その動きを肉眼で捕らえられたものはそう多くないだろう。
瞬間、ロキのイカヅチはバラバラに破壊され、ロキの身体に無数の切り傷が現れる。
「ぐっ‥‥‥!! まだだ‥‥‥!」
ロキは後方に倒れざまに、"雷伝"にてリオルに電撃を食らわせ一矢報いようと魔術を発動させる。
ロキの手の間に、稲妻が光る。
――しかし、リオルに見抜かれていたのか、リオルはすぐさま紫刀でロキの腕を斬り付ける。
リオルに攻撃が届く前にその腕はだらりと下へ垂れさがる。
両腕が機能しなくなった‥‥‥!
「――!!」
リオルはそのままロキの全身を斬りつける。
重みに耐えかねたロキは、地面に片膝を着く。
「はぁはぁはぁはぁ‥‥‥!」
「凄まじい執念だ。倒れこみながら俺に一矢報いると――‥‥‥ッ?」
リオルの頬がスパっと裂け、血が垂れる。
リオルはそれに触れると、薄っすらと笑みを浮かべる。
「‥‥‥驚いた、俺の無刀のスピードに攻撃を合わせられるとは」
「かすり傷しか‥‥‥負わせられない‥‥‥なら‥‥‥世話ねえけどな‥‥‥!」
ロキは重みに苦しそうに耐えながら声を出す。
「ギブアップしてくれると助かるんだが」
「ぬかせ‥‥‥! ギブアップするくらい‥‥‥なら、死んだ方が‥‥‥ましだ‥‥‥!」
ロキは歯を食いしばりそう言い捨てる。
「君ならそう言うと思ったよ。だが、もう動けない相手に追い打ちをかける趣味は俺には――」
次の瞬間、ロキの身体にバチバチと稲妻が走り出す。
「‥‥‥!」
「この状態からでも‥‥‥貴様を殺すことはできる‥‥‥!!!」
あれは‥‥‥ダイス戦で使っていた術‥‥‥"雷豪"!!
さすがにこの至近距離じゃリオルでも捌けねえはずだ‥‥‥!!
「はっ、この期に及んでまだ使える魔術があったか‥‥‥! 底が知れないな‥‥‥!!」
リオルの顔に、焦りの色が浮かぶ。
「うおおおおおおああああ!!!」
加重された腕を強引に上げ、ロキの指先から青白い波動が放たれる。
すべてを焦げ付かす、雷の猛威。
轟くは全てを切り裂く雷鳴。
すべての観客が、まさかあのリオルが‥‥‥! と固唾を飲んで見守る。
――しかし、"雷豪"がリオルを覆いつくそうとしたその時、リオルの構えていた刀が光り輝くと、一筋の線となり"雷豪"を真っ二つに引き裂く。
"雷豪"を引き裂いたそれは、そのまま余波で会場の地面を抉り取り、ロキの後方の壁を破壊する。
両腕をまたもや焼き焦がしたロキは、唖然とした表情で前のめりに倒れる。
「化物‥‥‥かよ‥‥‥」
リオルのその手には、今まで見た事のない色の刀が握られていた。
それは刀より剣に近いもので、金色に光り輝いていた。
「俺に最後の剣を抜かせるとは、いやはや恐れ入ったよ。――だが、俺の勝ちだ」
リオルはコールブランドを腰のホルダーへと戻す。
急いで駆けつけた審判と救護班がロキの容態を確認し、すぐさまタンカーで治療室へと連れて行く。
「し、試合終了~~~! やはり強かった、グリム・リオル!! ロキ・ポートマン相手に一進一退の攻防!! 超ド級の魔術同士のぶつかり合い!! しかし終わってみれば一瞬の出来事でした! 制したのはグリム・リオル!! 両選手に大きな拍手を!!」
リオルとロキに大きな拍手が送られる。
あの高威力の"雷豪"をも貫き返す威力をもった金色の剣か‥‥‥。
あれは用心しないとだめだな。
リオルにとってあれをここで見せたのは誤算だったはず。
終わってみればかなりの短期決戦‥‥‥だが一歩間違えば負けていたのはリオルの方かもしれない。
無刀を構えた時点で遠距離戦に持ち込めばまだ勝負は分からなかったが‥‥‥ロキのプライドが許さなかったんだろう。
悔しいがカッコいいぜ、ロキ。
一方で、リオルは涼しい顔で観客たちの声援にこたえる。
そして俺の方を見るとまたあの笑顔だ。
こりゃ決勝までくるなリオルの野郎。
――俺も負けてられねえな。
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