第78話 2日目開始

「ふぁー‥‥‥」


 俺は朝の陽ざしに自然と目を覚まし、ぐーっと背筋を伸ばす。


 目覚めはばっちりだ。

 身体の調子も悪くない。


 今日は新人戦2日目‥‥‥8名によるトーナメント戦だ。


 身の回りの支度を済ませ、制服を着る。


 俺たちの制服は複数個支給されているため、昨日破けたりボロボロになってしまった生徒も新品の制服を着て今日の試合に挑むことができる。


 食堂に向かうと、レンやドロシーの姿は見えない。

 今日の出番がないことに加え、ドロシー何かは昨日2試合もしたから疲れがたまってまだ寝ているのかもしれない。


「おはよ‥‥‥」


 俺は欠伸をしながらミサキやロキ、ベルがバラバラに座っている席の真ん中に座り朝ご飯を食べ始める。


「おはようギル君」


「おはよ~、緊張するねえ」


 すると珍しくロキが声を発する。


「お前が2日目にまで残るとはな」


「‥‥‥? 意外か?」


「わかりきっていることを聞くな。お前にそう言う野心がないことくらいはわかってるつもりだ」


 ふーん‥‥‥。

 興味ないふりしてい意外と見てんじゃん周りのことも。


「ま、ちょっといろいろあってな。もし決勝までお互い上がれたらよろしくな」


「そ、そうですよ! ロキ君はいいですけど、私とミサキちゃんとギル君は同じ山‥‥‥絶対に準決勝では当たるんですよ‥‥‥今から胃が痛い‥‥‥」


 ベルは胃の辺りを擦る。


「あはは‥‥‥ベルのそれは嫌味にしか聞こえないね」


「全員を倒すのが忍びなくて今から緊張してんのか?」


「そ、そんなつもりは!」


 ベルは慌ててブンブンと手を振る。

 

「冗談だよ。まあ少なくとも一番の注目株はベルだろうからなあ。ウルラとしてはベルにみんな期待してるだろ。問題は俺たちだよ‥‥‥リュークもユンフェもいなくなった魔の山‥‥‥俺とミサキの対決は誰も予想できなかっただろうな」


「そうよねえ。ま、そう考えると少し楽しいかも」


「言うようになったねえ、ミサキも」


「う、うるさいな! まったく‥‥‥私はもう行くからね。試合で会おう、ギル君」


 そう言ってミサキは一足先に食堂を後にする。

 それに続き、ロキもいつの間にか消えていた。


「ギル君、いつの間にミサキちゃんとそんなに仲良くなってたの? ああいうミサキちゃん見たの初めてだよ」


「秘密だ」


「?」


 ベルは不思議そうな顔で俺を見る。


「――とにかく、今日の俺とミサキの試合はしっかり見てくれよな」


「う、うん! ちゃんと両方応援するよ! 最初の試合だしね」


 そう、今日の試合は俺が第1試合なのだ。


 第1試合、俺VSミサキ。

 第2試合、ベルVSリリエール。

 第3試合、ロキVSリオル。

 第4試合、シャーロットVSゴウマ。


 どれも激戦必至だ。


 ここまで来たんだ、もう俺は力を極端に抑えるつもりはねえ。

 約束通り戦う、ただそれだけだ。


「‥‥‥ギル君、ちょっと変わった?」


「え、そう?」


「うん‥‥‥なんか、覚悟に溢れているというか‥‥‥前よりオープンな感じになったというか」


「そっか‥‥‥自分も変わるか‥‥‥」


 ホムラさんの思惑通りだなあ全く。


「まあ、お互い頑張ろうぜ!」


「うん、が、頑張ろう‥‥‥!」



 それからしばらくして、俺たちは演習場へと移動する。

 空は快晴。絶好の戦闘日和だ。


 泣いても笑っても、今日で新人戦は終わる。


「さ、行ってきなさい!」


 ドロシーは俺の背中を力強く叩く。


 それに合わせるように、レンも俺の背中を叩く。


「痛っ!!」


「あはは、なに情けない顔してるのよ! ちゃんと私達の分まで戦ってくるのよ」


「そうだぜ~ギル。昨日の約束、頼んだからな」


 レンはそう言ってニヤっと笑う。


「おう、任せておけよ」


 2日目の試合は、参加者はみんな控室に待機となり、観客席に戻ってくることはない。

 ここでの会話が最後になる。


「クローディアさんも見てるだろうから、しっかりやるのよ。‥‥‥あとまあユフィちゃんも」


「? あぁ、ありがとな。行ってくるわ」


 さあ、2日目の始まりだ‥‥‥!


 控室へ向かう途中、ホムラさんが俺の前に立ちはだかる。

 仁王立ちをし、腕を組んで笑っている。


 俺はあえて素通りしようと横を通り抜けると慌てて声を掛ける。


「ちょちょちょっと! 冷たくないかな!?」


「いや、スルーするのが最善手かと思って‥‥‥」


「だんだんと辛辣になってきてるねギル君‥‥‥」


 ホムラさんは苦笑いする。


「――で、実際のところどうなのかな」


 実際のところ‥‥‥ミサキのことか。


「きっとホムラさんが望む通りになると思いますよ」


「ほう――! やけに自信満々じゃない」


「ミサキも少し変わってきてますからね。‥‥‥まあ俺もですけど、この大会を通じて考え方が変わってきたのかもしれないです。‥‥‥あとは、俺が最後の後押しをするだけですよ」


 ホムラさんはニカッと笑みを浮かべる。


「そうかそうかい。それなら安心だ。ウルラが優勝するのは絶対条件だからね、頼んだよ、ギル君! 他の3人にもよろしく言っておいてくれよ!」


 そう言ってホムラさんは手をヒラヒラとさせ観客席の方へと戻っていく。


 言われなくても、やってやるさ。

 今や、俺とミサキの為だけの戦いじゃないんだ。


 青春をするのも楽じゃないな。


 ――だけど、あの頃の血を流し合う、怒号と悲鳴の響く戦いより、ずっと楽しい。

 それが今の素直な気持ちだ。

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