第77話 1日目の終わり
「それでは、ベスト8の紹介を行います!!」
今日の試合結果により、2日目へと歩を進めた生徒たちが、会場に一同に会する。
誰も彼も、このロンドールに相応しい魔術師たちだ。
もちろん、前評判から結構変わっていることもあって、一概に観客全員が納得しているなんてことは無いわけだが。
俺たちは横一列に並ばされる。
会場中から、応援やら罵声やら、何ともつかない地鳴りのような声が響く。
「では左から! ウルラ所属、ミサキ・ニカイドウ!」
一歩前に出て、お辞儀をする。引きつった笑みを浮かべるミサキに、歓声が送られる。
もちろん、リュークをあれだけ完封したんだ、かなりのファンがついていてもおかしくない。
当のリュークは心中穏やかではないだろうが‥‥‥。
「同じくウルラ所属、ギルフォード・エウラ!」
ミサキの時より小さい歓声がまだらに聞こえてくる。
俺の場合、あまり気持ちのいい勝ち方をしなかったからな‥‥‥アイドル的人気のユンフェを倒してしまったし、覚悟はしていたが‥‥‥。
――とその時、生徒用の応援席からかなり大きな声が聞こえる。
「ギ、ギル~~!! その‥‥‥あの‥‥‥わ、私の分まで頑張ってねー!」
ひときわ大きいその声の主はユンフェだった。
遠くで良くは見えないが、なにやらもじもじとしながらも大きな声で手を振ってくれている。
周りの仲間に無理やり座らされ、困惑気味のようだが‥‥‥。
しかしその様子に、周りの観客たちもつられて声を上げ始める。
ユフィやドロシーの声も微かに聞こえる。
ユンフェ‥‥‥圧が強すぎてちょっと怖いけど、結構いい奴だよな。
俺はそれにこたえるように手をあげる。
すると、ユンフェは顔をそむけるように身体を捩じる。
わかりやすいなあ‥‥‥。
「続きまして、アングイス所属、リリエール・エンジェル!」
こいつは‥‥‥確かユンフェに突っかかってたやつか。
それにしてもあの精神状態で勝ち上がってくるとは、実力は申し分ないのだろう。
彼女はユンフェがアングイスの1位だと言っていたが、こいつも十分に力がありそうだな。
「ウルラ所属、ベルベット・ロア!」
呼ばれた瞬間、割れんばかりの大歓声に、ベルはオドオドと目が泳ぐ。
ペコペコと周りに頭を下げている。
本当戦闘中以外はだめだめだな‥‥‥こう見ると本当にエレナの子孫とは思えん。
まあそれがベルのいいところではあるんだけど。
「同じくウルラ所属、ロキ・ポートマン!」
ベルとは対象的に、ロキは特に手を上げることもなく、つまらなそうにツンツンとしながら斜に構えて腕を組んでいる。
なんて偉そうな男なんだ‥‥‥自分が最強だと疑っていなさそうだ。
腕はあのアシェリーの回復魔術で全快したようで、すっかり元通りだ。
明日の試合は問題なさそうだな。
「その隣、コルニクス所属、グリム・リオル!」
ベルと同じくくらいの歓声が上がり、会場が揺れる。
グリムは落ち着いて手を振ると、それに応える。
今までもこうやって注目を浴びて戦い抜いてきたのだろう。
今日の試合も、レンには悪いが決して本気というわけではなさそうだった。
要注意だな。
「アングイス所属、シャーロット・エイワス!」
彼女ははしゃぐようにぴょんぴょん跳ねながら会場中に手を振る。
可愛らしい見た目に、あまり魔術が得意なようには見えないが‥‥‥。
魔術は見た目はあまり関係ない。そう言う先入観は捨てるべきだろう。
こいつの試合は見られなかったからな、一体どんな魔術を使うのか‥‥‥。
「そして最後、ゴウマ・サイゲツ!」
明らかに肉体派の筋肉をした男が、ウオオオオオオっと雄たけびを上げ片手を突き上げる。
それに呼応するように、会場のボルテージもいっきにあがる。
男人気がすごいのか、野太い歓声が上がる。
すげー暑苦しい‥‥‥。
「以上、8名!! 明日の準々決勝が待ち遠しいですね‥‥‥!! それでは、最後に今日戦ったすべての生徒に大きな拍手を! 以上で初日の全日程を終了します、ご来場ありがとうございました! そして参加した生徒もお疲れ様!!」
こうして、波乱の新人戦1日目は終わりを告げた。
予想以上に前評判通りに行かなかった戦いに、観客たちも興奮半分、不満半分と言った感じだろうか。
その波乱の展開が果たして吉と出るか凶とでるか、全ては明日の試合にかかっているだろう。
「じゃ、明日も応援に来るから、しっかり戦えよ」
クロはそう言って俺の背中をバンバンと叩く。
「いってねえな! 別に来なくてもいいって全く‥‥‥なんかやることあるんじゃねえのかよ」
「いいのいいの、こういう日くらい。ねえ、ユフィちゃん」
「はい!」
ユフィは満面の笑みを浮かべる。
「頑張ってよね、ギル。私の幼馴染はこんなに凄いんだぞって自慢するんだから、ちゃんと優勝してよ」
「なんだよそれ」
俺は思わず笑ってしまう。
「何で笑うの!?」
「いやあ、何となく。――わかったわかった。好きなだけ見て行けよ」
「勝手にそうさせてもらうよ! 頑張ってね!」
そう言ってクロとユフィは宿へと戻っていった。
‥‥‥とはいえ、わざわざ村から応援に来てくれたんだ、下手な試合は出来ねえなあ。
レンから託された思い、ミサキと本気でぶつかる約束、応援してくれるユフィ‥‥‥。
それに今日負けて行った奴らの格を落とさないためにもちゃんとした試合をしねえとな。
大会が始まる前まではこんなこと考えもしなかったなあ。
良くも悪くも自分のことで精一杯で‥‥‥多少はお節介とは言われるけど、それでもまだ俺は自分の為に闘っていた。‥‥‥俺も、人らしくなってきたってことかな。英雄ではなく、1人の魔術師として。
「お、ミサキ」
俺は正面に立っていたミサキに声を掛ける。
ミサキは俺の声に気付くと振り返る。
「あれ、ギル君。どうしたの?」
「やったな」
俺はミサキに拳を突き出す。
ミサキはきょとんとした顔の後、あぁっと呟くと、コツンと拳を合わせる。
「そうだねえ。お互いお疲れ様」
「本番は明日だな‥‥‥俺はもう覚悟は出来てるぜ?」
「本気なんだね、ギル君は」
ミサキは少し憂鬱そうにそう言う。
「私は‥‥‥正直やってみないと分からないかな。ギル君の本当の力もまだ見れたわけじゃないし‥‥‥。私の力を使っても、本当にギル君なら大丈夫なのかどうか‥‥‥私は不安なの」
まあそりゃそうだよな。
今までの生き方を否定するような戦いをするんだ。
「お前の不安何て明日の試合で吹っ飛ばしてやるよ。‥‥‥とにかく約束通りお互い勝ち上がれたんだ。明日は本気でやろうぜ」
「そうだね‥‥‥少なくとも今日よりは本気の戦いが出来そう。それだけは楽しみよ」
ミサキはニコっと笑う。
俺がやることは変わらねえ。
と、そこへ後ろから近づく足音が。
「どういうことだ貴様! やっぱり手を抜いて俺様と戦ったっていうのか!?」
声の主はリュークだった。
あれだけ完敗した手前、話しかけるのすら恥ずかしいだろうに‥‥‥よくもまあ。
「あ、いやーえっと、そういうつもりじゃ‥‥‥」
「そういう話にしか聞こえなかったがなあ‥‥‥!!」
「おいリューク、いい加減俺たちに突っかかるのは止めろよ。大人しくリオルでも応援してな。お前は負けたんだよミサキに」
リュークはイライラした様子で俺の前まで来てガンを飛ばす。
「納得いかん‥‥‥!! あんなのただの相性だ!! もっと違う奴と戦っていれば、お前らウルラ何か俺様の足元にも――」
「やめろ」
その言葉に、リュークはびくっと身体を強張らせる。
低く威厳に満ちた声をだしリュークを制したのはグリムだった。
急に静止されたリュークは動揺して目を見開き、グリムの顔を見つめる。
「グリム‥‥‥」
「見苦しいぞ、リューク。あれはお前の完璧な負けだ。今更ぐちぐちと恥ずかしくないのか」
「だが――」
「だがも何もない」
「ちぃ! うるさい奴が増えやがって‥‥‥! さっさと戻るぞ! いいか、これで終わりじゃないからな! 本当の戦いは三校戦だ! 覚悟しておけ!」
「三校戦は仲間になるだろうが‥‥‥学校対抗なんだから‥‥‥」
するとグリムも振り返る。
「ギルフォード‥‥‥だったか。試験の時以来だな」
「そうだな。こっちは何度も話聞かされて初めてな気がしねえけどよ」
グリムは俺の目を見る。
その眼はまっすぐと俺を見据えている。
「お前とは明日戦うことになりそうだ。――楽しみにしているぞ」
そう言って二人は俺たちの前から姿を消した。
戦うことになりそう‥‥‥ってグリムの奴は確か反対の山だったよな?
俺が上がってくると思ってるってことか。
そして自分が勝ち上がることは確定してる‥‥‥と。
はっ、上等じゃねえか。
受けて立ってやるよ。
「ま、まあ、なんかすっきりしたねこれで。リュークさんの煽りも跳ね返せたし」
「ミサキのおかげでな。‥‥‥というか、そんなこと言う奴だったかミサキって?」
ミサキは少し笑う。
「あはは。どうかな、少しずつ変わってきてるのかも。誰かさんのせいでね。‥‥‥明日はよろしくね」
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