第58話 ユフィとドロシー
「どうも、ユフィです。いつもギルがお世話になってます」
ユフィは白いワンピースを翻し、もう一度お辞儀する。
「お前は俺の親かよ」
「そう言う意味で行ったんじゃないわよ! 私たちは家族みたいなものなんだからいいでしょ! ――えーっと、ギルと同じクラスの方?」
するとドロシーは満面の笑みで握手を求める。
「‥‥‥ドロシー・ゴートよ。ギルとは同じクラスで今は‥‥‥まぁ私の方が世話をしてるって感じね。魔術なんかも教えてもらってた時期もあるわ。まぁ、クラスの中では割と付き合いは深い方かしらね」
そんなこといつも言ってねえだろうがこいつ‥‥‥。
「そ、そうなの、よろしくね。ギルが迷惑かけてないといいけど‥‥‥。そういえば私も昔魔術を教えてもらってたなあ、懐かしい!」
ユフィはドロシーの手を握り返す。
握手‥‥‥だよな?
「ユフィさんはギルの幼馴染なのよね。まあ、数少ない幼馴染ならそういう経験も自然にあるわよねえ。‥‥‥昔からギルはお節介で大変だったんじゃない? 迷惑かけられたりとか。私なんかしょっちゅうよ。ま、それだけ一緒にいるって話ではあるんだけどね、同じクラスだし」
「いや~そんなことないよ、ギルは根が優しいからねえ。一見興味なさそうに見えても、ちゃんと見ててくれてるもん。私にはわかってるから」
「‥‥‥そう、良く知ってるのねギルのこと」
「あはは、いやいや私達、唯一の幼馴染ですから。そりゃお互いのことよーく知ってますよ」
2人がニコニコしながら会話を進める。
な、なんだか、速攻で仲良くなったな‥‥‥なんだったんだ最初の不穏な感じは。
しかし、後ろからクロがポンと俺の肩を叩く。
「大変だねえ、ギルも。まあ、手当たり次第に手を出すから悪いのさ――って、ああ、無自覚か。困ったもんだねえ、君も」
「は? どういうことだよ」
「千年前は戦争だ何だって戦いに明け暮れて、女の子ってもんを知らな過ぎたからねえ。鈍感でも無理はない」
クロはニマニマと俺を見つめる。
「うるせえよ。‥‥‥ったく何が言いてえんだよ」
「ちゃんと青春しているじゃないか、ってことさ」
クロは俺の頭をガシガシと撫でる。
「や、やめろ、恥ずかしい!」
くそ‥‥‥うぜえ‥‥‥!
すると、クロは急に神妙な顔になり、俺を引き寄せる。
「――でだ。そういう諸々は置いといて、もちろん、わかっているだろう?」
「何のことだよ」
「大会さ。青春を取り戻すというために学校に入ったんだ。目的を履き違えたらだめだよ」
「‥‥‥」
これは‥‥‥魔術のことを言ってるのか。
何か見抜かれてるなあこりゃ。
「全力は出さない‥‥‥と思う」
「と思う? わかってるのかい? 入学前にも話したけど、この魔術の後退した時代では君の力はあまりに強大すぎるんだよ。――また利用されたくないだろ?」
「‥‥‥わかってるよ。ただ‥‥‥特異魔術は使うことになる、と思う」
クロの目が鋭くなる。
「そんな必要性がある大会なのか?」
「別に大会で勝つのが目的じゃねえよ。ちょっと、叩き潰してやらねえといけないやつが居てな」
「‥‥‥」
少しの沈黙。
――そして、クロがはぁっと溜息をつく。
「まったく、君はお人よしと言うかなんというか。千年前から変わらないねえ。ま、それが君だから仕方のないことかもしれないけど。じゃないと、英雄なんていう役目を背負って戦うなんて出来る訳ないしね。――まあ、精々気を付けるんだよ。前もいった通り、私は君たち人間の諍いに関与することはないんだから」
「わかってるよ。‥‥‥悪いな心配かけて」
「いいってことさ、私たちの仲だろう?」
ま、唯一俺のことを千年前から知っていてくれているこいつの存在は、かなり大きい。
感謝してもしきれないほどに。
でもそれはこいつにとってお同じことで、過去のことで俺に恩を感じている。
だから、俺たちは口に出してお礼を言ったりなんかしない。そういう関係だから。
そんなシリアスな話をしている横で、まだユフィとドロシーは仲良くなんだか知らんが会話を続けていた。
と、その時、アビスのあの女‥‥‥エリー・ドルドリスの言葉を思い出す。
「なあ、クロ」
「何だい?」
「千年前から俺みたいに生き続けてる奴って居ないって前いってたよな?」
「何だい藪から棒に。もちろん、居ないさ。ただ、私の知っている範囲では、だけどね。君を千年眠らせていたのは私ともうとっくの昔に死んだギフリッドのなせる技だからねえ。少なくとも私達が関与しているのは君だけさ。どうしたんだい突然」
「いや、実は――」
俺はアビスの一件をクロに掻い摘んで説明した。
禁書の存在、アビス、ゾディアックの連中、そしてエリーが言っていた彼について。
「へえ、そんなことが。侵入して魔獣が暴れた事件があったとは聞いていたけど、そんな裏があったとはねえ。ゾディアックの連中は‥‥‥まあ出来たのは割と最近だね。あ、いや私の感覚からしたらだが。それにしても君を気に掛ける彼とは‥‥‥」
クロは眉間に皺を寄せ考える。
「‥‥‥正直心当たりはないね。君以外の人間に殆ど興味がなかったというのもあるが。――まあでもその"アビス"とやらは気にかけてみることにするよ。怪しい匂いがプンプンする‥‥‥関わっていないといいが」
「? 何か気になることでも?」
するとクロは軽くため息をついて否定する。
「いや‥‥‥まあ私達の話さ。とりあえず彼というのに心辺りはない。悪いね」
「別にいいさ。奴らも今は厄介ごとで忙しいらしいからな。しばらくは気にしねえよ」
そうこうしているうちに、早くも第1試合の時間が近づいていた。
新人戦は2日日程で行われ、今日はベスト8決定まで進むらしい。
とりあえず今日を生き残ることが、ここに居る全生徒の目標だ。
1回戦はアングイスのジャック・ヴェルフェとコルニクスのリューク・エルバド‥‥‥。
一応優勝候補に名を連ねるリュークの闘い、俺たちを煽るだけの実力があるのか見させてもらおうじゃねえか。
そしてそれが終われば、我らがドロシーの試合だ。
何故か一方的に負けられないと執念を燃やしている相手との一戦。
これまたコルニクスのカエラ・ホーキンス。
彼女もまたなかなかの魔術師だと評判だ。というか、この学校に入学出来ている時点で優秀な魔術師には違いないんだ。
全試合制限時間は1時間。
ギブアップありで、審判が続行不能と判断した際に試合が終了する。
――つまり、ギブアップしなければ、試合が終わる条件や気絶や負傷で試合が出来なくなったときのみということだ。
なかなかスリリングな大会だが‥‥‥新人戦みたいな大会には国一番の治癒魔術師が呼ばれているらしい。
カイン先生を治した、かなりレベルの高い魔術師だ。多少の無茶は効くのだろう。
激しい戦いが、繰り広げられることは間違いない。
俺たちはクロ、ユフィに別れを告げ、選手控室へと向かう。
「ユフィと大分打ち解けてたなあ」
「‥‥‥そう見えたかしら?」
ドロシーの眉がぴくぴくと動く。
「え、違うの‥‥‥」
「まあ、少なくともお互いどう考えているのかは分かり合えたわね」
「そ、そうか‥‥‥。ドロシーは2試合目だろ? 準備はいいのか?」
「もちろん。万全な状態よ。――絶対負けないわ。見てなさいよね」
ドロシーは落ち着いた表情でそう言い切る。
もう戦闘態勢に心が切り替わってるみたいだな。
「おう‥‥‥絶対勝てよな」
俺はドロシーと拳を合わせる。
さあ、新人戦の始まりだ。
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