第33話 見回り

「あー本当ムカつくわねロキ!! あんたよりムカつく奴がいるとは思わなかったわよ!!」


 ドロシーはプンプンしながらカチャカチャと特訓の準備をする。


「まあまあ、確かにムカつくけど」


「あんたも結構怒ってたでしょうが!」


 ぐっ‥‥‥それを言われると辛い。


「‥‥‥でも何が目的なんだろうな。確かに魔術もかなり卓越してるし‥‥‥あんなすさむ必要ないきがするけど」


「ふん、知らないわよ。ああいう奴に限って卒業したら闇落ちするのよ。絶対アカザのリストに載るわね」


「アカザのリスト‥‥‥?」


 はてなを浮かべる俺に、ドロシーが呆れた様子で溜息をつく。


「あんたって本当常識的なこと知らないわよね‥‥‥古代人か何か?」


 ぎくっ。

 鋭すぎだろ。


「アカザのリストっていうのは、簡単に言えば指名手配の魔術師のリストよ。犯罪だったり、反逆行為だったり、とにかく罪を犯した魔術師の名前が記述されてるのよ。捕まえると魔術界から報奨金も出るのよ」


「へー、要は悪人のリストって訳ね」


「そうそう。賞金稼ぎを専門にしてる魔術師もいるくらいだからね。魔術を心得ている犯罪者なんて一般人からすれば脅威以外のなにものでもないから」


 確かにそうだ。

 俺たちは言わば歩く兵器みたいなもので、危険極まりない。

 

 そんなのが犯罪者とか世も末だな‥‥‥。


「さ、もうあんなクソ野郎のことは忘れて特訓しましょ」


「おう、じゃあ――――って、あれカイン先生じゃねえか?」


「えっ」


 俺が指さした先に、今日もまたカイン先生が歩いている。


 昨日同様、ぐるぐると図書館周りを散策し、本館の方へと消えていく。


「毎夜毎夜なんなのよ‥‥‥」


「まあ見つけるたびに隠れてる俺たちもどうかと思うけどな‥‥‥」


「こんな夜中に抜け出したら何言われるか分からないでしょ!!」


「まあそうなんだけ――」


 とその時、後ろの茂みが揺れるのを感じる。


 俺は咄嗟にドロシーの口を手で覆う。


「×△〇〇〇◇!?!?」


 急に俺に口を抑えらえ、パニックになったドロシーが顔を真っ赤にして手足をバタバタさせる。


「しーっ! 誰かいる‥‥‥」


 俺の忠告を聞き、ドロシーがやっと静かになる。


 しかし、どうやら気付くのが少し遅かったようで――


「誰かいるのか‥‥‥? "ブライト"」


 瞬間、ブライトの魔術で俺たちの姿が光の下に浮かびだされる。


 俺とドロシーは余りの眩しさに顔を覆う。


「なんだお前ら‥‥‥こんな時間に」


「いや、あの――」


 こいつ‥‥‥確か――キース!

 試験の時の監督官だった奴だ。


 キースは目に隈をたっぷりと作っていて相変わらず不健康そうな見た目だ。


「門限はないとはいえ、こんな時間に抜け出すのは正しいこととは思えんな」


「せ、先生こそこんな時間になにを‥‥‥」


「私は‥‥‥見回りだ」


「見回り? それってカイン先生と同じようにですか?」


 その時、キース先生の額がピクリと動く。


「カイン‥‥‥先生? いや、あの人は見回りの当番には指名されていないはずだが‥‥‥」


「「!?」」


 俺とドロシーは互いの顔を見合わせる。


 カイン先生は見回り当番じゃない‥‥‥?

 ということは何で毎日のように図書館に‥‥‥。


「――今日抜け出していたことは不問にする。ただし、そのカイン先生について詳しく教えろ」


「‥‥‥」


 ドロシーは図書館の地下の話、自分たちの特訓の話、そしてカイン先生が毎夜現れることをすべてキース先生へと伝えた。


 それを聞いたキース先生は、何やら考え込んでしばらく黙り込んでしまった。


 この反応‥‥‥まじで地下室絡みなのか‥‥‥?


 カイン先生が何をしていたのか‥‥‥疑惑だけが積みあがっていく。


「助かったよ、二人とも。ただし、このことは誰にも言ってはいけない。いいね」


「誰かにいったとしたら?」


「ちょ、ちょっと何言ってんのよギル! ここはわかりましたっていうところでしょ!」


 そうなんだけど‥‥‥何となく俺は引っ掛かってしまっていた。


 何かは分からないが、不思議な感覚だった。


 キースは軽くため息を付く。


「別に私に強制力などない。お前たちを辞めさせる権限も、懲罰を与える権限もない。ただ、お願いするだけだ」


「‥‥‥わかりました。口外はしません」


 そう約束すると、キース先生は引き続き見回りへと戻っていった。


「なんだったのかしら‥‥‥やっぱりカイン先生って地下室について何か知ってるのかしら」


「というか、先生たちは全員知ってるとみるべきだろ。やっぱり図書館の地下には何かある‥‥‥そしてカイン先生はそれに何やら興味があるってこった」


「興味って‥‥‥何をする気なの? まさか侵入しようとしてるとか‥‥‥」


「――さあな。でもこれ以上は首を突っ込まないほうが俺は懸命だと思うぞ。のちのち厄介なことになりそうな予感がする」


 ‥‥‥といっても、既に巻き込まれてしまっているような気はするが。


 どちらにせよ、静観するのが今は無難だろう。


「さ、今日の特訓をはじめようぜ」


「う、うん…‥‥」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る