第5話 たった一つの冴えたやり方
「クライアントのリストと犯行現場90分圏内の人間とを照合、絞り込めたよ!」
興奮気味に話すミヤさんをよそに、ボクの脳裏にふと冷え切った考えが浮かんだ。
いや、ボクは何か物凄い思い違いをしているんじゃないか?
通常の犯人の見つけ方である消去法は、果たしてそもそも社会のルールが違うこの場所で正しいのだろうか?
オーディエンスとのやり取りは続いている。
再生を続けている監視カメラの映像は、途中大きく乱れた。
「あれ? なんで再生されないんだろう……? データが消去されてる? カメラに異常が、リブートされた……?」
戸惑ったミヤさんの声。
「なら、犯人は……」
「……この監視システムに詳しい人間……!」
……待て。もっとよく考えろ。『システムに詳しい人間』であれば、こんな監視社会で完全犯罪が可能などと思うだろうか?
逆に考えて、どんな条件が揃えば犯行が可能か?
常に自分が監視されている可能性がある、そんな人間がカメラのリブートだけで痕跡を消せたと思うか?
まず凶器からは指紋を検出させないだろう。その入手ルートも誤魔化しているに違いない。手製のナイフだとか。
また、返り血でも浴びてれば周囲の人間がいやでも気付く、それも向こうは見越しているだろう。
証拠が残っているとは思えない。
ボクはオーディエンスや、被害者のクライアントと紐づけられた位置情報がプロットされた地図を見つめる。
案外このクライアント一覧も犯人によって修正されているかも知れない。
「どうしよう? 時間が経てば経つだけ遠方に逃げられる。追跡も困難になってしまう……」
「位置情報……追跡……」
何故それに気付かなかったのだろう。
「この位置情報って、なにかのデバイスから発信されてたりする?」
「ああ、これだよ」
腕元の銀のブレスレットをミヤさんは見せる。
「I.D.と位置情報はこれで紐付けされてる」
「そのGPSって、手動でオフにできる?」
「そりゃ、最低限のプライバシーがあるから……一応ね……って、あっ!」
自分が事件発生時、被害者と一緒にいた、あるいは犯行現場の近くにいたという情報ほど犯人が抹殺したいものはないだろう。
「犯人なら、今、間違いなく位置情報を切ってる!」
ボクらの声がシンクロした。結構長い言葉なのに一字一句同じだった。
反抗時刻の付近で、位置情報がオフにされた端末をサーチする。
結果、そんな端末は一台限りだった。
対象は今も位置情報を遮断している。
「けど、GPSが切ってあったなら追跡もできない。どうしよう?」
問題は、ヤツは多分、信号を途絶させたままどこかへ逃げおおせる可能性が高いこと。
いや、一つ方法が残っている。
「プログラムって作れる? あるパッチを大急ぎで作って欲しい。それと……」
そのプログラムの概要を伝えるとミヤさんは自信ありげに頷いた。
「オーディエンス! デバイスに急遽このプログラムを入れて、付近の端末をスキャンして欲しい!」
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