先輩
「おー、やっぱりいたか。
おみやげ買ってきたぞ」
袋から出したのはキレイなペンダントであった。
「あ、ありがとうございます」
ポカンと口を開けているマサシにアダチはペンダントを見せて説明した。
「ははは、これも開運グッズだよ。
怪しさ満載だろ?
でも、一応データは取るんだ」
「お、なんだ? もしかして新入部員か!!?」
先輩は腰を抜かすほど驚いてみせた。
ふざけてるのか、マジでびっくりしたのか。
「10円玉で5回連続当てたんですよ。
神レベルとしか。
あ、こちら湊(ミナト)先輩、こちらも神レベルだぞ」
「どうも、ミナトです。 アダチのことよろしくお願いします」
「いやいや、まだ入部とかしてないんで」
神と言われて悪い気はしないが、運部に入る気はやっぱりしないのだ。
「なんだ、まだ部員じゃないのか。
ま、そらそうだわな。
しかし神レベルってんならこちらも黙っちゃいられない。
ちょっとお手合わせ願っちゃおうかな」
ミナトはポケットからまたカタチの違うペンダントと500円玉を取り出した。
「とりあえず1回勝負でどう?」
「あ・・・・・じゃ1回だけ」
500円に変わったところでやることは同じだ。
別にやりたくもないが、1回で気が済むなら先輩の顔は立てておこうか。
「いくぞ。オレはオモテだ」
「じゃウラで」
ミナト先輩の表情が急変した。
さっきまでのなごやかなムードは消え、ひんやりとした空気が張りつめる。
1回の勝負に全力を傾けるその姿勢はさすが先輩といったところか。
「ギュルルルルッ・・」
銀色の回転音が静寂の視聴覚室にひびく。
「ぬおおおぉぉっ・・・」
右手にペンダントを握りしめ、左手をまっすぐ突き出してオーラを送るミナト。
まあ、オーラが出てるのかどうかは知らないが、そんなところだろう。
やがて回転が弱まった 500円玉は傾くことなく、そのまま止まりそうになった。
「うぉっ!! マジか・・・!?」
ミナトは眉間にシワを寄せ、苦悶の表情を浮かべている。
何がマジなのかわらかないマサシ。
やがて回転が止まった 500円玉は 立ったままその動きを止め、、、
最後にパタリと倒れた。
ウラだ。
「オ・・・オレが負けた?
一応全力出したんだけどな」
「マジで神かもしれませんね・・・」
ミナトとアダチは顔を見合わせてうなずいた。
「えーと、、名前なんだっけ?」
「住田です」
「住田クン。 入部迷ってるようだが、自分のチカラはできるだけ正確に把握した方がいいぞ。
今回はたかが 500円玉が倒れただけの話だが、運ってのは今後の人生すべてに関わってくるものだ」
ミナトは熱く語りだした。
「たとえば大人になったら株取引とかやるだろ? あれだって結局は運なんだ」
「えー、そんなことないでしょ」
「いや、もちろん投資についてはいろんな知識も必要だしテクニックも学ばなきゃいけない。500円玉転がすのとはワケが違う。
ウォーレン・バフェットって知ってるかい? 投資王と呼ばれる資産家だ。
彼が成功したのは投資に関するするどい判断力を持っていたからだ。
しかし判断力ってのは未来を予言する力じゃない。いつだって失敗するリスクがつきまとうんだ。
10回投資すれば10回分失敗するリスクがある。
投資王と呼ばれる人物がこれまでに何度リスクと向かい合ってきたかわからないが、結局は勝ち残った結果 今の成功があるってことだ」
マサシは話についていけてない。
「身近な例で言えば、スマホゲームのガチャだってそうだ。あれも投資だろ?
常に爆死するリスクを伴っている。こっちは投資と違ってテクニックもへったくれもない。
リスクを減らすためにはどうしたらいいと思う?」
このレベルの話であればマサシにも理解できる。
「そう、運だ」
ミナトの熱弁とアダチの不敵な笑み、そしてよく知らないウォーレンなんとかも加わってマサシの心の扉は今まさにこじ開けられようとしていた。
「ガチャッ」
そのとき視聴覚室のドアが開いた。
「あれ、開いてるぞ?」
2人の男子が DVDのパッケージを手に入ってきたのだ。
「あ・・・ あれ誰だっけ?」
ひとりがミナトを指さしながら記憶をたどっていた。
「あれだよ、ミナト先輩だよ」
もうひとりは名前を思い出したようだ。
学年違いで名前が知られている。有名人ということか。
「あーーーー、ミナト先輩ね。思い出した!
あの防犯研究会だっけ? 通称「詐欺部」の!」
--- END -----
運が悪くてお困りのようですね 鈴木KAZ @kazsuz
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