第5話 勝つためなら
昼休み中、彼に電話をかける。まだ仕事中だろうから、出なくて当たり前だった。代わりに「明日、会えない?」とメッセージを入れた。部活後にスマホを開くと、「いいよ。」とだけ返信が来ていた。
いつも通り、互いにワイシャツ1枚になる。私は彼の背に顔をうずめた。彼のワイシャツから、うっすらとタバコの匂いがして、私はそれを自ら吸い込んだ。今の私には好きな匂いだった。箱を開ける彼の手を止める。
「今日は、ゴム、要らない。」
彼は、驚きが隠せず、目が点になっている。
「友達がね、彼氏とヤったんだって。」
彼はこの一文で、全てを悟ってくれた。
「愛羅ちゃん。」
「ん?」
「愛羅ちゃんは、まだ高校生だし…」
「いいの。これは、私が決めたこと。誰に何と言われようと、何を聞かれようと、貴方の名も顔も。そもそも存在を出さない。だから、お願い。」
今まで何度も抱き合ってきたのに、こうやってちゃんと目を合わせて話すのは、初めてだった。間違った選択をしていることは熟知していた。真理に勝つ手段は、勉強や部活など、身近に転がっていた。でも、今さら誰もが出来るような勝ち方を選ぶのはなんとなく嫌で、さんざん抱き合ってきたのにそれすら水の泡になり、バカをみてしまう気がしたから、こうするしかなかった。
こうすると決めた以上は、素直に自分を見れなくて、故意にこの手段を選んでいる自分に対し、自然とにじみ出てくる涙をこらえているせいで、喉が変な音をたてた。そして、いざとなるとどうしても溢れてしまう涙を、彼にバレないように静かに流しながら、私達はいつもよりも激しく抱き合った。
悪道 街灯り @tukiakari1225
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