②
同日 正午頃 帝都 グラーフェンヴェルグ市庁舎前
「はぁーっっ!?」
帝都北部。カイザーブルク城にもほど近いグラーフェンヴェルグ市の市庁舎。
四階建てで、白っぽく加工された煉瓦が積み重なってできた建造物だ。正午ということもあり、天高く上がった太陽から放たれる光がその壮麗さを際立たせている。
その前にある少し開けた広場に、二人の男がいた。一人は面食らったように叫ぶ茶髪の少年。もう一人は市庁舎の玄関に背を向けながら、後頭部を掻く赤毛の青年。
「なんでわざわざ、俺達が盗賊退治なんか!」
「しょうがねぇだろー。参事会のおっさん共がうるせぇんだ。酒場で毎日どんちゃん騒ぎしてるようなら、市から
「俺は酒場でどんちゃん騒ぎなんてしてねーっつーの! お前だけで行けや!」
「分かんねぇやつだなー。ここまでのこのこ付いてきたんだから、今日はこのまま俺に従ってくれよ。給金はうんと弾むからさ」
洗練されていない言葉遣いで言い争う二人の男。道行く人々はその様子と彼らの服装を一瞥するや否や、じろじろと視線を向ける。その無数の視線が意味するところは好奇心とか軽蔑とか
少年の方は背中に折り畳み式の
それに加えて、彼らはその武装に対して不似合いな程の軽装だった。鎧や兜など付けていないし、農民の作業着と同じような茶褐色のチュニックという衣服を纏っている。しかも服は皺ばかりでヨレヨレの状態。大都会である帝都の、それも帝城に近いこの場所では浮いても仕方のない二人だった。
「ちっ。ここで面倒ごとを起こすのは御免被る。場所を変えるぞ、ゲルト」
「……分かったよ、ジグムント。けど、ぜってー付いていかねぇからな!」
ジグムントと呼ばれた青年は周囲を見回してから、少年に対して小声で言った。赤毛を肩ぐらいまで長く伸ばしていて、その服装からも野性的な印象を抱くが、整った顔からはまだ幼さを隠しきれていない好青年のような雰囲気も感じ取れる。
ゲルトの方は、茶髪を無造作に伸ばしただけのまだまだ幼い少年といった風貌。
しかし周囲を警戒して、足早に広場を離れようとする二人の眼は普通の人間のそれとは全く異なっていた。何度も死線を潜り抜けてきた
傭兵として、食い扶持の為に自らの命を賭ける。
金の為に、自分の為に戦うからこそ、周囲を注視することを忘れない。
周りの人間がどう動くか理解しているからこそ、その裏をかける。
敵どころか味方すらも裏切って、狡猾に振舞う。
全ては金の為に、自分の為に。
彼らの鋭い眼はそんな、飢えた狼のそれに酷似していた。
やがて二人は帝城や市庁舎、貴族や騎士の邸宅が集まる旧市街を抜けて、東市街の方へと向かった。それも東市街の中心部は避けて同じような小路を何度も進んでいったので、もはや周囲に人通りは見られない。そこでゲルトが言った。
「おい、もう話しても良いだろ。とにかく、参事会のお偉いさん方がなんで俺達みたいな傭兵に盗賊狩りの依頼を出すんだ! 自分の街の問題だろ?」
納得できないとばかりにゲルトは不満を爆発させる。それに対してジグムントはどう説明したら良いかと、また後頭部を掻きながら応えた。
「いや、正確に言えば参事会じゃなくて筆頭役人のホルストって奴が依頼してきたんだ。なんでも東市街の一角が盗賊のねぐらになっちまってるみたいで、帝国騎士団の方も盗賊退治に後ろ向きなんだとさ。だから俺達、傭兵の出番ってわけ」
「帝都を護るはずの騎士団が、なんで盗賊を放置するんだよ? ……しかも、東市街ってことはこの近くにそのねぐらってのがあるんじゃねえか?」
ゲルトがそう言って不安そうに首を左右に動かしていると、ジグムントは笑った。
嗤ったという方が正確か。悪戯な笑みを浮かべて、青年は告げる。
「ああ、盗賊のねぐらってのは俺たちの目の前にあるぜ?」
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