最終話「今ある全てで」
世界に平和が訪れた。
あらゆる国の調査期間が、
そして、新たな未来に向かう人々は忘れてゆく。
極東の島国で、世界を守って戦った少女のことを。
だが、
一生忘れないし、一瞬たりとも忘れられない。
「あ、え、お……おおう。忘れちゃった。どうするんだっけか、みこっちゃん」
「アホか、何度目だ! ったく、要領悪いな、お前」
今日も今日とて、
格納庫でケイジに固定された"
そんな彼を、シートに座る
「何度も教えたろ、手順を400番台からやり直せ。シミュレーターを一度リセットするぞ」
「うう、スパルタ……もっと優しく教えてくれてもいいじゃん。……わたしの、彼氏? だし?」
「おい待て、なんで疑問形なんだ」
「いやあ……でも、恋人なんだよね?」
「おっ、おお、おう……そりゃ、お前……はっ、恥ずかしいから言わせんなよ!」
華花は、高校を卒業したら閃桜に就職すると言い出した。それも、深界獣対策室でのパイロット志望だという。
もう華花は、戦わなくてもいいのだ。
その身体にはまだ、神の奇跡が宿っている。しかし、淵を完全に破壊して封じたあの日から、彼女は一度も変身していない。
その必要がもうないからだ。
そして、二度と変身させない。
華花が守り抜いた地球を、今度は尊たち一人一人の人間が守ってゆくのだ。
「……ラピュセーラーって、なんだったんだ? なあ、華花。お前、なにか聞いてないのか?」
「あ、それ? んと、聖オオエド教会の人たちは、奇跡の力だって言ってたよ?」
「そんだけかぁ? じゃあ、なんでタケルじゃなくてお前なんだ」
「……わたしが死にそうだった、からかなあ」
華花の両親は、ブロークンエイジで押し寄せた深界獣に殺された。華花もまた、両親の死を突きつけられたまま、瀕死の怪我で終わりを受け入れるしかなかったのだ。
そんな中、謎の光が彼女に宿った。
どうやら神は、用意された
それが
だが、常識では考えられない再生力で、華花は生き返った。
そして、しばらくは普通の女の子の日々が続いたが……激しさを増す深界獣の驚異に、とうとう彼女の中の救世主が覚醒したのだった。
「多分ね、みこっちゃん。瀕死のわたしを助けるために、ラピュセーラーは力を使い切っちゃったんだと思う。それで、あれから何年もの間ずっと眠ってて、突然目覚めた」
「なるほど、な。ラピュセーラーとは話せないのか?」
「ラピュセーラーはあくまで力、エネルギーでしかないから……だから、わたしが器になって形を与えることで、初めて正義の味方になれるんだよっ」
だが、もうその必要はない。
これからは華花は、普通の女子高生として過ごせばいいのだ。勿論、これからも護衛を続けるので、尊はすぐ側にいる。そのために女装もやむなしだ。
華花は見ててもどかしくなるどんくささで、シミュレーターを再開させた。
「そいえばさ、みこっちゃん。こないだのテレビ見た? あの記者さん、えっと……
「ああ……父さんの真実を話して、全てが濡れ衣だったって説明してくれてる」
「あの人も、大事な、大切な人を失ったって」
「だからこそ、なのかもな。戻ってこない人のために、今いる人を救えたら……そう思ったんじゃないかな。俺は感謝してる。俺も一歩間違えれば、以前の狭間さんみたいに暴走してたかもしれない。――っと、ストップ! 終わりだ、華花。お前、撃墜されたぞ」
「えっ? ……やっちゃった?」
「盛大にな」
悪びれずに笑う華花を見て、尊は肩を
うららかな午後の時間が、ゆっくりと流れてゆく。
今日は出動もなさそうで、整備員たちの仕事ぶりもこころなしかのんびりとしていた。
だが、それもこの瞬間までだった。
突然、けたたましいサイレンと共に館内放送が響き渡る。
『東京湾にて謎の巨大生物出現! 深界獣の可能性があります! 深界獣対策室、出動願います! 繰り返しかえします――』
あっという間に、誰もがいつもの緊張感を取り戻す。
尊も直ぐに、華花をシートに固定するハーネスを外してやった。彼女と入れ替わりに座って、キャットウォークの方へと恋人を見送る。
直ぐに実戦モードで起動すれば、ガスタービンの心地よい振動が唸り出した。
「ねえ、みこっちゃん! みこっちゃんは……あの新型には乗らないの?」
「ん? ああ、俺はいい。こいつでいい……こいつがいいんだ」
見れば、
最新鋭機に乗ることで皆、普段のパイロット技術を以前の何倍も発揮していた。
当然、尊にも乗り換えの話があったのだが、断った。
"羽々斬"には、いざとなればアビスドライブ搭載の"
「じゃあ、ちょっと行ってくる!」
「ほいきた! みこっちゃん、ガンバだよ! 美味しいご飯作って、待ってるからね!」
「お前の料理、なあ……ま、将来に期待しとくさ」
「えー、なんでぇ!?
「……それな、華花。すっげえ間違ってると思うぞ」
苦笑しつつ、キャノピーを閉じてケイジの
舞い上がる風圧にスカートを抑えつつ、華花が最後まで見送ってくれた。その手が、握りこぶしに親指を立てて突き出される。
同じサインを返して、尊は終わりの見え始めた戦いへと飛び出してゆくのだった。
「よし、システム・オールグリーン! "羽々斬"、出るぞっ!」
武装を確認しつつ、眩しい斜陽の光へと尊は機体を進める。仲間たちも一緒で、これからも戦いは続くだろう。しかし、それも永遠ではない。
もう、深界獣が出てくる淵は永遠に閉ざされたのだ。
同時に、あの恐ろしいアビスドライブを生み出す超エネルギーも、失われた。
だが、そんなものに頼らずとも、人類は今あるもので豊かにやっていける。それを証明するためにも、尊はこれからも"羽々斬"で戦い続けるのだった。
神装戦姫ラピュセーラー ながやん @nagamono
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