第59話 オレとアカウントBAN

「ちょ、なんでうちがポイント操作したってなるのよー!!?」


「じゃあ、やったことないの? 過去に一度も? 本当に?」


「うっ、そ、それは……」


 と、なにやら言いにくそうに口ごもる晴香さん。

 やがて観念したのか小声でボソリと呟く。


「そ、そのぉ、なんていうか……ぽ、ポイント操作っていうか……ち、ちょーっと家族や友人にうちの小説をブックマークしてもらったり、ポイント入れてもらっただけだし……。や、やってもらったのはうちの知り合いだけだし……うちはツールとか使ってそんな大体的にやってないし……っていうか、これくらいならセーフ、だし……」


「とおっしゃっていますが、どうでしょうか? 華流院さん」


「限りなく黒に近いグレーね」


「なんでよ!? 言っとくけど、それは『一攫千金』の前の作品よ! 書籍化した『一攫千金』にはそういうの頼んでないから! あれはちゃんと自力でポイント獲得して出版社の目に止まった作品だから!」


「ふんっ、口では何とでも誤魔化せるわ。この不正作家」


「だから違うって言ってるでしょうー!!」


 その後、晴香さんと華流院さんの言い合いが始まり、オレと宮古ちゃんは仕方なく二人の喧嘩を仲裁するのだった。


◇   ◇   ◇


 それからしばらく経ったある日のこと。

 いつものように昼休み、なろう小説をスマホで検索していた時、廊下の向こう側からドタドタと何かが走ってくる音が聞こえた。


「華流院先輩はここですかー!?」


 見ると扉を開けてやや小柄な少女が顔を出した。

 ん、あれは確か……先日会った宮古ちゃんの友達(?)の 柏木(かしわぎ)紗栄子(さえこ)か?

 一体何の用かと戸惑うオレを尻目に紗栄子はズカズカと二年生のオレ達の教室に入り、優雅に小説を読んでいる華流院の隣までやってくる。


「何の用かしら?」


「何の用? それはこちらのセリフですよ。先輩、アタシの小説に何したんですか!?」


「何って何?」


「とぼけないでください!!」


 見ると紗栄子は尋常じゃないほど頭に来ている様子だ。

 一体どうしたのかと思わず問いかけようとした瞬間、その答えが紗栄子の口より語られる。


「アタシの投稿した小説が削除されたんですよッ!!」


「え?」


 怒りのまま叫ぶ紗栄子の一言に、オレは慌ててスマホでなろうに掲載されていた紗栄子の小説を検索する。

 無い。

 確かに何もない。

 ランクキングも確認すると、昨日まで日刊ランキング上位10位をキープしていたはずの彼女の作品が【この作品は削除されました】と無情な一言が記されていた。


「それだけじゃなくアタシのアカウントまでBANされたんですよ! どーするんですか!? これじゃあ、もう二度となろうで書けないじゃないですかッ!!」


 そんな怒り狂う紗栄子を前に華流院さんは読んでいた本を閉じ「はぁ」と大きなため息をつく。


「だから言ったでしょう。あなたが不正をしていれば、それはすぐに形となって現れる。仮に不正をしていなければそのままでしょうって」


「どういう意味よ!?」


「そんな不正をしていてなろうサイトがあなたやあなたの小説を看過するはずがないでしょう」


「ッ!?」


 華流院さんの一言に思わず後ろに下がる紗栄子。


「あなたの作品が削除されたのもアカウントが消されたのもポイント操作が運営にバレたからよ。最近のなろうは特にそうしたポイント操作には厳しいのよ。ツールを使って日刊ランキングにずっと掲載されていれば、そりゃ目を付けられて当然よ。別にこれはあなたに限った話ではないわ。なろうではよくある話。ポイント操作をして自分の作品を目立たせようとする連中は後を絶たない。けど、一時の注目のために今後なろうでの一切の活動ができなくなるリスクを考えれば、自分がどれだけバカな真似をしたかあなたには理解できたかしら?」


 そう言って華流院さんは席を立ち、紗栄子を指差す。

 華流院さんかのその指摘に彼女も思わず顔を歪め、悔しそうに歯ぎしりをする。


「いずれにせよ。これで今後あなたはなろうでの掲載はできなくなった。あなたがバカにした宮古さんの作品は未だなろうに掲載されているわ。けどあなたの日刊ランキングを獲った作品はもうない。すでにない作品とわずかだけど人に読まれポイントの評価を与えられている作品。果たしてどちらが上かしらね」


「……さあ、それはどうでしょうか。先輩」


 だが、しかし紗栄子はそんな華流院さんの皮肉に対し、なにやら意味深な笑みを浮かべて笑う。


「どういう意味よ?」


「別に小説を掲載できるサイトはなろう一つじゃないでしょう? 他にも色々あるじゃないですか、たとえば……ヨムカクとか」


 ヨムカク。それはなろうに匹敵する大手小説サイトだ。

 最近ではヨムカクでしか読めない作品などもあり、なろうに劣らずの人気サイト。ってことはまさか、こいつ!?


「次はヨムカクで掲載するってこと? 呆れたわね。そこでも似たような真似をすれば当然BANされるわよ」


「それは安心してください。アタシも同じ真似をしてサイトにBANされるのは勘弁ですよ。それにこれはこれで逆に“利用できますよ”」


「……どういう意味かしら?」


 紗栄子のその一言に今度は華流院さんが眉をひそめる。


「なぁに、簡単なことですよ。なろうで人気作品でしたがあまりに過激すぎてBANされました。だから今度はヨムカクで掲載します。こうすれば、なろうでブックマークしていた人達はアタシのヨムカクでの作品に新たにブックマークしてくれますし、それによってヨムカクユーザーもアタシの作品に注目してくれるでしょう」


「……アンタ」


 にやけながらそんなことを呟く紗栄子を華流院さんは睨む。


「そんな怖い顔しないでくださいよぉ。ネット小説なんて所詮、目立ったもの勝ちでしょう? 話題性や表面的な人気が取れれば、あとは勝手に書籍化ですよ。アタシだってこう見えて最終的には書籍化目指してるんですから、このやり方なにか問題ありますか?」


「大アリよ。そんな不正だらけのやり方で書籍化を狙うなんて、どこまで姑息なの?」


「不正? いやいや、今度のやり方は別に不正じゃないでしょう。BANされた作品を単に他で掲載するだけですよ。仮にそれで人気が出てランキング上位で書籍化されてもなんら問題ないじゃないですか? これって不正ですかぁ?」


 紗栄子の煽るような言い方に最初は怒りを見せていた華流院さんの顔からドンドンと表情がなくなり、氷のような冷酷な仮面が現れる。

 あ、これはいかんやつだ。

 華流院さんの場合、怒りが顔に現れている時よりも、ああして表情がなくなる方がより一層キレてるんだよな。あくまでオレの経験談からだけど。


「……いいわ。そこまで言うなら白黒つけてあげようじゃない。あなたのそのやり方が正しいかどうか」


「はあ? どうやって決着付けるって言うんですか、先輩。もしかして先輩が小説書くんですか?」


 華流院さんが小説?

 その意外な展開に思わずオレまで身を乗り出すが――


「いいえ」


 しかし、華流院さんの答えは全く予想外のものであった。


「勉野宮古。あなたが駄作と罵った彼女の作品をあなたよりも先に書籍化させてみせる。それが私からあなたへかける勝負よ」

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なろう小説をディスっていたら隣にいた学園一の美少女が絡んできた 雪月花 @yumesiro

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