第58話 オレとポイント操作
「は、はあ!? な、なに言ってんのよ! 証拠もないのに勝手なこと言うのよ、このオタクが!」
オレがその単語を口にした途端、紗栄子と呼ばれた少女は明らかに動揺した様子でオレを罵る。
この反応……やはりか。
一方でその単語を耳にした宮古ちゃんはなんのことかと首を傾げていた。
「あの、ポイント操作……って、なんですか?」
彼女がそう呟くとオレが説明するよりも早くオレの隣にいた華流院さんが告げる。
「ポイント操作。簡単に言えばツールなんかを使って自分の小説に大量のポイントとブックマークなどを与えてPVなどを操作することよ。なろうはどれだけの人に閲覧されたか、またポイントを与えられ評価されたか、ブックマーク、感想、その他色々が重なり、それらのポイントが多いほど注目され日刊ランキングなどにも掲載される。特に日刊ランキングに載った小説はそれだけで多くの人の目に止まりPV数を含めて、注目度がうなぎ上りになっていくわ。ポイント操作はその最初の注目度を自分で人工的に操作するやり方よ」
「えっ、そ、それってしてもいいんですか……?」
恐る恐る尋ねる宮古ちゃんに華流院さんはハッキリと告げる。
「当然ダメに決まってるわ。これは悪質なルール違反。なろうに投稿している作家――いえ、小説を書いている人間なら一番してはいけない行為よ。単純に自分の作品のポイントを水増しするだけじゃなく、真面目に努力して書いている人達に対する最低の侮辱よ」
華流院さんの断言に宮古ちゃんは息を呑み、そして紗栄子は視線を逸らしている。
この反応、やはりこの紗栄子という子はポイント操作をしているのか?
それを確かめるべく、オレは現役のなろう作家でもある晴香さんにこのことを問い詰めてもらおうと思ったのだが――
「そ、そうだねー。ぽ、ポイント操作とかー、い、一番やっちゃいけない最低の行為だよねー」
ん? 見ると、晴香さんは気まずそうに視線を逸らしていた。
というか妙に落ち着きのない態度でそわそわしている。
まさか、晴香さん……アンタ……?
「う、うっさいわね! 何の証拠もなしに人をポイント操作した犯罪者みたいに言うなー!!」
「じゃあ、してないっていうの?」
「そ、それは……」
華流院さんの強い口調に紗栄子は口ごもる。
それに叩きつけるように華流院さんは続ける。
「そもそもあなたみたいな素人がいきなり書いたような作品が上位に食い込むことがおかしいのよ」
「はあー!? そっちこそ、その主張はおかしいんじゃないんですかー!? 現になろうのランキングでも数話あげたやつが上位に食い込むなんて珍しくないですよ。むしろ、最初のスタートダッシュが一番ランキングで上がりやすいんだから、アタシのだってそうでしょう? それでポイント操作とか決め付けるそっちの方が失礼よー!」
「確かにそうね。けれど、そうした作品には決まって味があり、独自の設定や目を引く何かがあるわ。あるいはなろうで人気の作家の新作など色んな要素が噛み合ってランキング上位になる。けれど、あなたの作品にはそのどれも当てはまらない。読んでいて違和感しかないのよ」
「なっ! ふ、ふざけんな! それだけで人の作品をポイント操作とか言いがかりもいいところよ!」
「そうかしら。まあ、確かにあなたがポイント操作をしていないなら“このまま過ぎる”はずよね」
「それどういう意味よ?」
意味深な華流院さんの発言に紗栄子は眉をひそめる。
紗栄子がもしもポイント操作をしていないなら、このまま過ぎるはず?
どういう意味だろうかとオレも思わず考えこむが、それより早く華流院さんが告げる。
「まあ、いずれにせよ。あなたの作品は日刊ランキングで10位内に連日入って目立っていることだし、結果はすぐに出るわ」
華流院さんのその発言に苛立った様子を見せる紗栄子であったが、すぐに負け惜しみだと思ったのか鼻を鳴らす。
「ふんっ、いずれにしてもそんな言いがかりのためにアタシを読んだのなら迷惑よ。宮古、アンタも覚えてなさいよ。つーか、アンタの作品未だにポイント20にも満たないクズ作品ばっかりなんだから小説書くのやめたらー? アンタ才能ないし、アンタの小説読んでる奴なんか誰もいないのよー」
「お前……!」
「い、いいんです、誠一さん……。紗栄子の言ってること、本当……ですから……」
そう言ってオレ達から去っていく紗栄子に一言文句を言ってやろうとするが、宮古ちゃんに止められ、オレはそのまま紗栄子を背中を眺める。
あいつ、自分の作品で調子の乗るは別にいいが、宮古ちゃんの作品を貶すのはいくらなんでも横暴だろう。
そもそも彼女の作品は決して駄作なんかじゃない。
少なくとも彼女の書いている小説を楽しみにしている読者がここに一人いるんだと胸の内で告げる。
そうして、彼女の姿が完全に去った後、華流院さんが晴香さんへと向き直る。
「で、アンタもポイント操作やったの? クズ作家」
「は、はあああああああああああー!!?」
あ、うん。
実はそれオレも気になっていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます