第57話 オレと晴香さんとデートと華流院さん

「晴香さん。今日の放課後、付き合ってくれない?」


「ふえっ!!?」


 その日、オレは健康肌が眩しい小麦色の肌の少女南條晴香さんに声をかけた。

 周りでは「な、なに!? 誠一君が告白!?」「あの二人ってそういう関係だったの!?」とかヒソヒソ話をし出し、目の前の晴香さんも顔を真っ赤にもじもじしだす。


「え、えっとそのぉ、い、いきなり誠一君から、そげんこと言われると……う、うちも困るたい……う、うちにだって心の準備というものが……」


 と、なにやら乙女チックな仕草をして恥ずかしがっていたが、こっちはそれどころではなかった。


「とにかく頼むよ。現役のなろう作家である晴香さんの力が必要なんだ。放課後、オレと一緒に来てくれ」


 オレがそう力強く頼むと晴香さんは一瞬息を呑み、真っ赤になるが、すぐさま満面の笑みで答える。


「も、もちろん! 誠一君の頼みならなんでも聞いちゃうよ! い、いやぁ、それにしても修学旅行の告白からめっきりだったけれど、まさかこんないきなりうちをデートに誘っ――」


 ん? デート? となにやら奇妙な単語が聞こえると同時に隣の席から『ドンッ』と台パンの音が聞こえた。

 恐る恐るそちらを振り向くと、華流院玲奈さんがにこやかな笑みでこちらを見ていた。


「なにやら随分仲良さそうね、誠一君。放課後、晴香さんとなにをするのかしら?」


「え、いや、それはあの、ちょっと言えないっていうか……」


「そーだそーだ! 華流院っち! 誠一君はうちと人に言えないようなことをするんだから放っておいてよね」


 オレが誤魔化し晴香さんがそう告げると、なぜだか空気が『ぴきりっ』と凍りつく音が聞こえた。


「へぇー……人に言えないことをするの……なら生徒会副会長として私もついていかないといけないわねぇー……」


「はあー!? なんでさー!? 華流院っちには関係ないでしょう!?」


「関係あるわよ! つーか、さっきから聞いてればなに!? なんでアンタと誠一君がさも付き合ってるかのような流れになってんのよ!」


「それはうちが誠一君と付き合ってるからだよ!!」


「はっ!? ちょっと待って! 晴香さん! オレいつ晴香さんと付き合ってるの!?」


「はいー!? 誠一君、修学旅行の時にうちに告白してたじゃん! 付き合ってるって! 自分で言っておいて忘れるとかありえないよー!」


「あ、いや、ちがっ! あれは違うっていうか、その! 晴香さんを守るための嘘であって……!?」


「誠一君、本気でこんなヘボ作家と付き合う気!? あなたには『異世オレハーレム』の作者がいるでしょう!?」


「なんでそこで『異世オレハーレム』が出てくるの!? 華流院さん!」


 と、気づくとそのような口論が始まり、気づくと華流院さんも放課後のオレの用事に付き合うこととなった。


◇  ◇  ◇


「それでこの子が誠一君が言ってた子?」


「ああ、小説家を希望してるらしくて現在なろうにいくつか作品を載せてるんだ」


「は、はじめまして! 私、勉野宮古と言います! よろしくお願いします」


「わー、緊張してて可愛いねー。うちは南條晴香。こう見えて現役のなろう作家だから、聞きたいことがあったらなんでも聞いていいよー」


「現役の作家さん! す、すごいです!」


「私は華流院玲奈。華流院家の跡取り娘であなたが通う南佐野高校の生徒会副会長を務めているわ」


「あ、えっと……ごめんなさい。どちらも知りません……華流院先輩……。生徒会長さんなら知ってるんですが……」


「ま、まあ別に気にしなくてもいいわ」


 そう言っているものの華流院さんは明らかに気にした様子だ。

 なお晴香さんは「勝った」と華流院さんにしたり顔をしており、二人はバチバチと火花を散らしている。

 やっぱこの二人を一緒に連れているのは間違いでは?


「で、誠一君。この子と会ってどうするの?」


「いやまあ、正確にはもう一人来る予定なんですがね」


「? どゆこと?」


 と、そんなことを言っていると向こうから人が来るのが見えた。

 オレや晴香さんよりも一回り小さな子で、宮古ちゃんと同じくらいの背丈。

 目はつり目で意地の悪そうな顔をしており、地味な印象が目立つ少女だった。

 その子は宮古に気づくとこちらに近づいてくる。


「よ、宮古ちゃん。つーか、アタシを呼び出して何の用? アタシ今忙しいんだよねー。アンタも知ってるでしょう? 最近投稿した小説が日間ランキングに載って感想もバンバン来てるのよ。だから、早いところ帰って続き書かないといけないのよ」


「ご、ごめんね。紗栄子ちゃん……。実は紗栄子ちゃんを呼んだのは私じゃなくってこっちの先輩で……」


「はあー? どういうこと?」


 宮古ちゃんの言葉に眉をひそめる少女・紗栄子。

 オレはそんな彼女に対し用意していた彼女の小説のページをスマホで開いて見せる。


「君がこの小説を書いた作者だね?」


「はあ? うん、そうだけど。なにー? お兄さんアタシの小説のファンー? もしかして未来の書籍化作家のサインでも欲しいのー? いいよいいよー、そういうことならいくらでも書いてあげるよー。なんならお兄さんの服にでも書いて――」


「いや、オレが聞きたいのはそういうことじゃないんだ」


 言ってオレはある確認を口にする。


「君――ポイント操作してないよね?」

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