第56話 オレと勉野宮古

「え、あ、あの、私の小説……ご存知なのですか?」


「あ、ああ、まあな」


 というか、ご存知どころの騒ぎじゃない。

 ここ最近オレが読んだ小説の中では間違いなくトップレベルに面白い小説。

 むしろ、そこらの商業作品にも負けない内容だ。

 にも関わらず、まったくと言っていいほど評価されていない不遇な作品。

 まさかその小説の作者が彼女だったとは……。


「そ、それでどうでしょうか……? や、やっぱりつまらないですよね……」


「いや、そんなことはない! むしろ普通に面白かったよ! いや、普通にはいらない! 面白い!」


 オレがそう告げると、宮古ちゃんは驚いたような反応を見せると笑みを浮かべる。


「ほ、本当ですか? え、えへへ、嬉しいです」


 だが、すぐどこか落ち込むような表情を見せる。


「で、でも……私の作品、全然評価されてなくって才能ないかなって思ってたんです……。他にもいくつか小説を書いたんですけど、どれも全然反応もらえなくって……」


「そうなのか? よかったら他の作品も見せてもらっていいかい?」


「あ、はい。こちらです……」


 そう言ってオレは彼女の他の小説を読むが――それら全て高水準でまとまっており、なぜこれが評価されていないのか不思議になるほどの出来ばかりだった。


「面白いよ! っていうかなんでこれだけ面白いのに全然注目されないんだ……」


 オレはつくづくネット小説の不思議に首をかしげる。

 一方の宮古ちゃんはしかし、どこか自虐した様子で呟く。


「それは多分……私の作品が面白くないからです……だ、だから、お兄ちゃんの友達でネット小説をよく見ている誠一さんにアドバイスをもらいたくて……」


「面白くないって、そんなことないだろう! っていうか、ここまでよく出来る話ならオレがアドバイスすることなんて……」


「いいえ、そんなことないです……。だって私の友達がそう言ってましたから……」


「え?」


 宮古ちゃんの思わぬ一言に驚くオレ。

 友達が面白くないって? それは一体どういう意味かと問いかけると、


「……実は私の友達も私と同じで小説を書いてるんです……。でも、その友達の小説はすっごく人気で私なんかじゃ足元にも及ばなくて……それでその友達に聞いたんです……。どうすれば私の小説も人気になれるのかなって、そしたら返ってきた答えが――」


『アンタの小説はつまらないから無理よ』


 というあまりに辛辣な一言。

 宮古ちゃんの話を聞き、オレはため息混じりに腕を組む。


「……その友達の小説って今読めるか?」


「え? あ、はい。同じなろうに掲載しているので、えっと、これです」


 そう言って彼女が見せたのは日間のランキングで上位に食い込んでいる作品だった。


「確かに人気だな……」


 そう呟き、早速オレは作品に目を通す。

 まだ6話程度しか掲載されていないにも関わらずポイントはすでに4000を超えている。ブックマークも500以上。

 日刊ランキングも十位位内をキープしている。

 よっぽどの作品ということかと期待して読むが――


「……なんだこれ?」


 それは小説と呼ぶにはあまりに稚拙な文章の羅列。

 読めないことはないが、展開もかなりいい加減でなろうの悪いところを凝縮して書いたような内容。

 主人公を含め、キャラも展開もなろうで腐るほど見てきたものの焼き増し。

 特にこれといった斬新さもなく、なぜこれが日間で上位に食い込んでるのかよくわからないような内容だ。

 あえていいところを上げるとするなら、一話の文章量が低いので読みやすいってくらいか……。

 まあ、この読みやすさがなろうにおける人気の一つとも言えるが、にしてもこれで上位は……と思わず首をかしげたくなる内容だった。

 少なくともオレの目から見れば、宮古ちゃんの書いた作品の方がよっぽど面白く、小説として評価されるべき作品だ。

 それにこの作品。一話目公開からいきなりPVの数が跳ね上がりすぎている。

 確かにそういう作品もあるが、無名の子の――しかも初めての作品が2~3話でいきなり日刊上位に食い込むのは何か違和感が……。


「わ、私のその子の小説を読んだんですけど……や、やっぱりそういうのじゃないと小説で人気を取るのって無理ですよね……だから、誠一さんに相談して――」


「その前に宮古ちゃん。この小説を書いた子なんだけど、この子が宮古ちゃんには才能がないって言ったんだよね?」


「え、あ、はい、そうです……。アンタみたいな小説で人気なんか獲れないって……」


「なら、明日この子と話させてもらえないかな? もちろん宮古ちゃんも一緒に」


「え?」


 思わぬ提案に驚く宮古ちゃんであったが、オレはこの日間ランキングに載っている小説を見て、ある可能性に思い当たっていた。


「少し、その子に聞きたいことがあるんだ」

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