第55話 オレとクラスメイトの妹と
翌日。
オレが昨日ブックマークした期待の新作『エルレッジの島』はポイントもPVもまったく増えないまま放置されていた。
だが、作者は律儀に毎日一話ずつ更新しており、評価されてないにも関わらず、こうして地道に更新していることをオレは嬉しく思っていた。
まあ、勝手に「オレだけはこの小説の才能を評価してるぜ」ってのでマイナーな作品を応援するファンみたいな心情になっているのかもしれないが。
いずれにしろ、やはりそうした自分だけが知っている作品を評価されたい気持ちというのはある。
なんとかできないかなと、そんなことをぼんやりと思っていたその時であった。
「やあ、誠一君。ちょっといいかな?」
「ん? お前は……」
ふと誰かが話しかけてきて、オレはそちらを振り向く。
そこにいたのは眼鏡をかけた、いかにもガリ勉といった雰囲気の男。
「勤太(きんた)か? どうしたよ」
「そう、この僕、勉野(べんの)勤太(きんた)だよ。久しぶりだね、誠一君」
そう言ってなぜだかフルネームを名乗る勤太。
こいつはいわゆるクラスに一人はいるガリ勉、クラス委員長的な男子だ。
以前はまるで接点のないクラスメイトだったのだが。
とあること――というか人物がきっかけで、なぜかオレはこいつと(勝手に)親友ということになってしまった。
なお、オレは別段こいつのことを親友だと思っていないし、友達かどうかと問われると「うーん……」と返答に困る相手なのだが、勉野はそんなのまるでお構いなしにオレに話しかけてくる。
「実はちょっと君に相談があってね。今日、僕の家に来れないかな?」
「え”」
思いもよらぬ誘いにオレは素で潰れたような声を出した。
なぜにオレが勤太の家に? まさか友情を深めようとかそういうあれか!? と思わず身構えるが、
「実は……妹のことで相談があったね」
「妹? つーか、お前妹がいたのか!?」
「あれ? 言ってなかったかな? 一個下の学年に妹がいるよ」
そうだったのか。知らなかった。というか、こいつの家庭事情とかまるで興味なかったからな。
で、その妹さんがなにか?
「実は最近僕の妹が小説を書く事にハマっていてね。それでぜひ君にアドバイスをしてもらいたいんだ」
「……へ?」
◇ ◇ ◇
その後、なんやかんやあって放課後の帰宅。
オレは勤太に案内されるまま、彼の家にやってくる。
「……結構ボロいんだな」
「まあね、うちは親が貧乏なものでこのあばら家暮らしさ」
勤太に案内されてたどり着いた先は本人も認めるあばら家。
築年数かなりいっているのではないかと思える程の古い木造の一階建て。
「まあ、気にせず入ってくれ。お茶くらいは用意するから」
「はあ」
そう言ってガラガラと戸を開くと、その向こうから小学生くらいの子供が二人ドタドタと走ってくる。
「わー! 兄ちゃんおかえりー!」
「わー! お兄ちゃんそっちの人誰ー!?」
「彼は僕の親友の矢川誠一君だ。お前達も挨拶しなさい」
「はーい! お兄ちゃんの親友なんて珍しい!」
「っていうか初めてかもー! 誠一お兄ちゃんよろしくねー!」
「あ、ああ、どうも」
ここで親友じゃありませんと突っ込むのも野暮なのでやめておいた。
その後、勤太の案内に従いオレは彼女の妹の部屋の前へと向かう。
「この向こうに妹がいる。すでに話は済ませているから、よければ入って妹にアドバイスしてあげてくれ。じゃあ、僕はお茶の用意をするよ」
「はあ……」
そう言って勤太は台所へと向かう。
さすがにここまで来ては引き下がれないと覚悟を決めてオレは部屋に入る。
「失礼しまーす。勤太……さんの友人の誠一と言います。どうぞよろしく」
「あ、あわわ、は、はじめまして! お待ちしていました! 私は勤太お兄ちゃんの妹で勉野(べんの)宮古(みやこ)と言います! き、今日はどうぞよろしくお願いいたします!」
扉を開けた先にいたのは黒髪の小柄な少女。
高校一年生と聞いていたが見た目の印象から中学生と言われても間違えるほどの幼さ。
だが、それよりも驚いたのは少女の可憐な可愛さだ。
小動物っぽい仕草に、オレを見た瞬間顔を赤くして恥ずかしがるなど、仕草もそうなのだが、なによりもあの勤太の妹とは思えないほど可愛かった。
え、これ普通に美少女じゃね? とオレが呆気に取られていると、勤太の妹・宮古は何やら慌てふためきノートパソコンをオレの前に差し出す。
「あの、その、こ、これが私の書いてる小説になります……! よ、よければ、ぜひ見てください!」
「あ、ああ……」
そう言って差し出されたパソコンの画面をオレは凝視する。
参ったな。確かにオレはなろう系小説はよく読むが、だからといって他人の作品を評価できるほど偉い訳じゃなく。
オレの意見なんて、せいぜい個人の感想くらいなものなんだが……。
そう思いながらも宮古ちゃんの書いた小説を眺めるオレであったが、そのタイトルを見た瞬間、思わず立ち上がる。
「エルレッジの島!?」
それは先日オレがなろうサイトにて絶賛したあの小説であった。
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