第8話 現実になりました

 あれから数日経った。

 正直言って、自分の中ではまだ整理がついていない。

 今までは自分の見た夢が現実になることしかなかったのに、他人の見た夢の通りに自分が動くなんてことを考えたことがなかったからだ。

「なんでまた川埼は俺の夢なんて見るんだよ……」

 一人ごちる。

 と、ふと気がついた。

 俺が川埼に告白してから2カ月が経っている。その間に川埼もおそらく夢を見ているはずなのに、どうしてお互いがお互いの夢の通りに動いてたんだろう。同時進行であれば、どっちも夢だと気がついていいはず。

 だいたい、お互いが夢の通りに告白し合ってるっていうのもおかしい。

 もしかして、俺と川埼だけ同じ期間に違う時間で生きていたのか?


 一線を越える寸前まで行った日から何日か経った。

 あたしの中では残念2割、ホッとした8割っていったところかな。でも、山岸が同じ夢を見ているとは思わなかったし、自分が他人の夢の通りに動くとも思っていなかったから驚いているっていうのもある。

 なんとなくモヤモヤしていると、ふと気がついた。

 あたしが山岸に告白してから2カ月が経っている。その間に山岸も同じ夢を見ているはずなのに、どうしてお互いの夢の通りに動いてたんだろう。

 だいたい、お互いが夢の通りに告白し合ってるっていうのがおかしい。

 なんでそんなことになったんだろう……。


 モヤモヤした気分が続いたまま、山岸とたまたま会う機会がなかったからそのままになってたんだけど……。

「川埼ー」

 あ、山岸の声だ。

 振り向くと山岸がこっちに向かって走ってきていた。

「そんな走らなくてもわかるわよ。どうしたっていうの」

「と、とりあえず久しぶりだな」

「えー、あー、そうね。言われてみれば。何日会ってないっけ?」

「4日くらいか?」

「でもそんなもんかぁ……って、だからあたしを呼び止めて何か用?」

「もちろん。話がある。とりあえずこの後時間あるか?」

「えー、まぁ。今日はバイトもないし、一応時間はあるわよ」

「じゃ、ジングルでも行って話をしないか。ケーキくらいは奢ってやる」

「別にケーキなんていいわよ。ま、ジングルは行くけど……」

 ということで、いつもの記憶にあるように2人並んでキャンパスを出て、ジングルの方へ向かう。

 お互い無言だったけど、あたしから話すのも何か変だったし、話すこともなかったので、そのまま店に。

 奧のテーブル席が空いていたので、そこに陣取る。

 マスターが頃合いを見計らってオーダーに来てくれる。

「アイスのアールグレイ、ストレートで」

「じゃ、アイスコーヒーを」

「ケーキいらないのか?」

「……そしたら、フルーツタルトを2つ」

 オーダーを取るとゆっくりした足取りでカウンターの中に戻るマスター。

「で、話って何よ?」

「……お前も気がついてると思うけど、2カ月前からの一連のこの流れ、おかしいよな?」

「……うん……それは思ってた……」

「どうしてこんなことが起こったのか俺もわからん。ただ、この2カ月と数日は俺と川埼の時間軸が別になってたのは間違いない」

「やっぱりそう……なのかな」

「そうとしか考えようがない」

 良いタイミングでお茶とケーキが運ばれてきた。タルトが美味しそう。

「とりあえず、お茶しよう?」

「そ、そうだな」

 2人は無言でお茶に口を付け、ケーキを一口頬張る。

 んー、やっぱりここのケーキ美味しい!

 なんて言ってる場合じゃないか……。

「多分なんだけど」

「うん」

「夢が現実になるっていうのがお互いに知らなかった時点では、時間の歪みなんてなかったんだよ。それがたまたま一緒になって同じ夢を同時に見たところから、流れがどうもおかしくなったんだと思う」

「それで?」

「結果的に自分たちが自覚しない状態で、時間が勝手に2つに分かれて同じようなことが起こってしまったんじゃないかと」

「まるっきりオカルトね」

「自分でも頭がおかしいんじゃないかと思うくらい妙な話だけど、説明しようがない」

 まぁ、山岸がそう言うんならそうなんだろう。あたしはその辺のことはよくわからないし、起きちゃったことをどうこう言うつもりもない。

「で、あたしとしてはひとつとても重要なことをはっきりさせたいの」

「なんだよ」

「山岸はあたしのことをどう思ってるわけ?」

「どうって……その……」

 口をつぐんでしまった。この件は言うべきじゃなかったかな……でも、あたし的にはとても重要。はっきりさせておきたい。

「どうってどうなのよ」

「そりゃまぁ……川埼は俺と気も合うし、一緒にいて疲れないし……その……見た目もストライクだ……」

「で?」

「で、って何だよ」

「そんなあたしは山岸にとってなんなの?」

「……わかったよ言えばいいんだろ、言えば! 川埼が好きだ!」

 ホッとした。そこは夢じゃなかった……んだよね……・

「ちなみにこれは夢?」

「夢で見ていない。川埼だって見てないだろ?」

「うん、見てない」

「……だから、その……本気だ」

 あたしにとっては、時間の歪みとか2カ月間のことはどうでも良かった。今、夢と関係ないところで山岸がどう思ってくれてるかだけ知りたかった。

 で、うれしい言葉を聞けた。うれしい。

「良かった……山岸、ありがとう。あたしも山岸のこと好きだよ」

「それは夢か?」

「夢じゃないわよ。アンタだって夢見てないでしょ?」

「見てない」

「だから、あたしも本気の本気だよ」


 こんなオチが待ち受けていたのか。

 俺と川埼の夢の能力で遠回りしたけど、結局2人がくっついたってだけのオチだったなんて。

 できればストレートに、もっと雰囲気のある告白にしたかったような。

「あたしたち、3回目でやっと普通のカップルになれたんだよ?」

 言われてみればそうだ。最初こそ告白にはならなかったけど、お互いに同じ夢を見ていたから起きなかっただけの話で、今日は3回目の告白になるんだな。

「えらい遠回りになったな」

「そうね」

「今度は別れる夢を見ないようにしないとな」

「もう、そんな夢を見ても乗り越えられるわよ」

「やけに自信があるな」

「だってこんなに遠回りして彼氏彼女になったんだよ? これ以上にイベントが起こると思う?」

「まぁ、起こってもらっちゃ困るな」

「でしょ? だから大丈夫」

「そういうことにしておこうか」

「できれば、この夢の能力もなくなってくれるといいんだけどな」

「対処法は学んだでしょ? 能力あっても大丈夫よ」

「それもそうか」

 そうだな。本来うれしくて幸せな場面で、いろいろ茶々入れるのも野暮ってもの。素直に喜んでおこう。

 夢で出会って、現実でカップルになった俺らに乾杯!


Fin 

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夢で逢いましょう 飯島彰久 @cbcross

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