第7話 川埼の場合、その後
山岸が自分と同じ、夢が現実になる能力を持っていると知ってから一週間経った。
夢の中では何気にいろんな男子が出てきた。
同じ日文科で割と仲のいい遠山や、高校の頃から仲が良くて学部は違うけど同じ大学に入った吉田、はたまた元彼の進一なんかも出てきた。
今までだったら「これは現実になるかもなぁ」という兆候がありそうな夢ばかりだったのに、どれもせいぜいキャンパスでバッタリ会ってちょっと話す程度で、告白とか色っぽい展開になることはなかった。
夢が現実にならなかったわけ。
正直に言えば、あたしだって女なんだからそりゃ彼氏だって欲しいし、こんな女でも告白してもらえるのはすごくうれしい。うれしいんだけど、夢が現実になるってところは引っかかるし、夢が現実になった場合、別れの夢を次に見ることになるのはちょっと切ない。
そう考えると、面倒のない今みたいな状況は悪くないのかもしれない。
今日は1限から4限までみっちり講義があったうえに、バイトまでしてきたから正直疲れてる。
お風呂入ってとっとと寝ちゃおう……その前にちょっと横になりたい……。
「川埼ー」
振り向くと山岸だった。
「なんだ、山岸かぁ。なんか用?」
「なんだよ、その用がないと声かけるなよ的な扱いは」
「だって山岸じゃん。そんな扱いしたって傷ついたりしないでしょ?」
「そうだけどよ。もう少し扱いってもんがあるだろ」
「はいはい。で、何?」
「帰りだろ? ちょうど見かけたから一緒に帰ろうと思って」
相変わらず気安いというか。そこがまぁ山岸のいいところではあるんだけど。
「んー、まぁいいけど」
「よし、じゃ帰るか」
と2人して並んで正門を抜け、駅の方へ向かって歩いて行く。
「……」
「……あのさ」
「なによ?」
「俺、なんか悪いことでもしたか?」
「別に。なんか悪いことした自覚でもあるの?」
「だって、お前さっきから一言もしゃべんないじゃん」
「あたしが年がら年中しゃべってるような女じゃないこと知ってるでしょ?」
「知ってるけどさぁ。なんかしゃべったってよくね?」
「……最近どうなの?」
「どう、って言われてもなぁ。まぁ、フツーだよフツー」
「普通って何よ」
「普通って言ったら普通だってば。講義に出てバイトして家帰って寝る、みたいな」
「アンタ、変化のない生活送ってるのねぇ」
「そういう川埼はどうなんだよ」
「アタシ? そうねぇ……普通ね」
「お前だって普通なんじゃんか」
なんてくだらない話をしているうちに駅に着く。
「川埼、このあと何かあるの? 時間早いしお茶でもしていかね?」
「そうね……用事もないしお茶しよっか」
ということで、駅ビルの中にあるスタバに入る。いつもは割と混んでいる店なんだけど、今日は空いている。とりあえず、隅のテーブル席を確保。
「……川埼さぁ、最近なんか変わった?」
「別に変わってないわよ? 普段どおりいつもどおりのあたしだけど?」
「そうか……気のせいかなぁ……」
「なによ」
「……最近、川埼が美人というか可愛いというか……その……好みのタイプに見えてな……」
なに、この展開。もしかして、これ現実になるパターン?
「俺と付き合ってくれないか?」
キター! やっぱりこの展開かー。どうしよう。そりゃ山岸なら見た目も悪くないし……というか好みのうちに入るし、一緒にいて楽なんだけど……受け入れたら現実に……でも最近現実化しないから大丈夫かな……。
「き、急に言わないでよ、そんなこと」
「ごめん。でも、最近ずっと気になってて……その……誰かに先を越されたらって思ってな」
「……いいわよ。……山岸の彼女になったげる」
「良かったー。いつもの調子でアンタは友だちとか言われたらどうしようと思ってヒヤヒヤしてたんだよ」
山岸ってこんなこと言うヤツだったか? ま、いっか。山岸ならあたしも不満はないし……。
ハッ!
目が覚めた。時計を見たら1時間くらい寝落ちてたみたい。
今度はまた山岸かぁ。いかにも現実になりそうなパターンだけど、ここんところは夢も現実になってないし、夢で終わるかな? ちょっと残念……いやいやそんなことないってば。
なんてことを思いつつ、シャワーを浴びてベッドで寝直した。
翌日。
結果から言うと、夢が現実になっちゃった。
山岸と付き合うことになった。
ということは、この夢は山岸は見てないってことになる。
このまま行くと、次は山岸と別れる夢をみるはず……。
と思ってから早2カ月。一向に別れる夢を見ることもなく、むしろラブラブな状況になってきちゃった。
これはこれでいいんだけど、この後あたしと山岸はどうなっちゃうんだろう……。
ある夜、また夢を見た。
山岸があたしの部屋に遊びに来て、成り行きであたしと山岸が一線を越えそうな夢。ギリギリ一線を越える前に目が覚めた。
今までこんな夢を見たことなかったんだけど、これは現実になるのかなぁ……。あたしにもさすがに見当がつかなかった。
で、翌日。
本当に山岸があたしの部屋に遊びに来た。というか、帰りに寄っていく流れになってしまった。まったく夢の通りに……。
「瞳って思ってたよりずっとキレイ好きだったんだな」
「思ったよりって何よ。イメージのまんまでしょ?」
「その辺に座ってて。お茶出すから」
とりあえず紅茶でも出そうか。と準備していたら、突然背後から山岸に抱きしめられた。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
「瞳……」
そのまま強引にキスされて……。こういうのに弱いの知らないはずなのに……。
「瞳……お前が欲しい……」
「そ、そんなこと言われたって……」
マズい。ここまで完全に夢の通りだけど、この先は夢で見てないのよね。さぁ、どうするあたし!
「ちょ、ちょっと待って透。あたしの言うことをよーく聞いて」
「な、なんだよ急に」
「よーく聞いてよ、透。これ、昨日あたしが見た夢のまんまなの。これだけ言えばわかるでしょ?」
「ま、マジか」
「ウソ言ったってしょうがないじゃない……そのあたしは別に最後までいってもごにょごにょ……」
「でも、なんかに操られてるとかじゃないぞ? 好きになったから告白したんだし」
「そこからすでにあたしの夢の通りだったのよ」
「マジかー」
「残念ながらホント」
とりあえず、一線を越えることは逃れられた。それがいいのか悪いのかはさておき。
夢であることを言えば、夢の通りにならないこともわかった。
でも、これからどうなるんだろう?
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