第15話 暗黒騎士とイフリート
目が覚めると村長の家にいた。
窓からは朝日が差しこみ、鳥の囀りが聞こえてきて清々しい気分だ。
……いや、何だろうこのスッキリした感じは、ぐっすり眠った事によるスッキリじゃなくて、もっとこう意識じゃなくて身体的に、中身が入れ替わったと言うか一皮向けた、みたいな……上手く言えないがとにかく初体験のスッキリ感だ。
あ~、ていうか何でここにいるんだ??確か俺は雪山に行って、それでアイリさんが…………、
「ブ――――――――――ッ!!!!!!」
しまった、思い出しただけで鼻血が出てしまった。恐るべき破壊力、やはりおっぱいは最強だな!
いや、アホな事考えてる場合じゃないな、布団血で汚しちゃったよ……。
先日泊まった時と同じならカマセさんと村長もこの部屋で寝た筈だが姿は見えない。
多分先に起きたんだろう、とりあえず下に降りてみよう。
で降りてみると、
「ライトさん、おはようございます」
「ライト様、おはようございます」
「カマセさん、村長、おはようございます。…………で、あの、何してるんですか??」
挨拶してきた二人は現在、居間に繋がる扉の前にいて、
何やら村長は困り顔、カマセさんは笑顔でニコニコしている。
「実は、その……」
「はい?」
何だろう、村長がすごく言いにくそうにしている。
「ユリウス様とソエルさんから話があるそうですよ?」
とカマセさん。
「あぁ、なるほど。それでわざわざ外にいたんですね。スミマセン村長、姉さんとソエルが迷惑掛けて」
「い、いや、迷惑なんてとんでもないですじゃ。むしろ、何も力になれなくて申し訳無い」
「?」
力になれないって何の話だ?
「やはり、魔王になられる方は器が違いますね。この状況でその落ち着きよう、さすがライトさんです」
「??」
この状況で??
いや、待てよ……。何か分からないが物凄く嫌な予感がしてきた。まるで扉を開けたら確実に死ぬ、みたいな。
何の変哲も無い扉が、酷く歪んで見える。
と、言っても行くしかないよな。
取っ手に手を掛けると、
「ライト様、どうかご武運を」
「お気をつけて、ライトさん」
二人が言う。
何だこのボス戦前みたいな雰囲気は……。
「まぁ、頑張ります」
そう言って扉を開けた事を俺は瞬時に後悔した。
居間に入り、まず目に入ってきたのは、それぞれ闇と炎の魔力を吹き出しながら、腕を組んで仁王立ちする姉さんとソエル。
まるで生身の仁王を前にしたようなとてつもない殺気を感じる。
いや、仁王とか言ったけど、アレだ、魔界的には暗黒騎士とイフリートと言った方がいいかな?
まぁ、どっちにしろ、殺される事に変わりは無いけどさ。
↓イメージ
――――――――――――――――――――
『
『
二人は仁王立ちでこちらを睨み付けている。どうやって生き延びる?
ライトLv1・HP10・MP0
作戦・命を大切に。
コマンド
戦う←
逃げる
調べる
話をする
土下座する
賄賂を送る
―――――――――――――――――――
どうしよう……何でキレてるかよく分からないが、とりあえず土下座しておくか?
いや、ここは一旦逃げて、
と思い一歩下がろうとした瞬間、
ガチャリ、
と外側からカギをかけられた。
アレだ、イベント戦闘は逃げられない!ってやつだ。
…………よし、外の二人は後で経験値の足しにするとしようか。
しょうがない、今度こそ土下座、と思いきや、
「ん“~、ハァハァ、ん“ん“~~!」
くぐもった女性の声が聞こえてきた。苦しそうと言うよりはどこ嬉しそうな声だ。
バーサーカー二人組の後ろには八人掛け程度の丸テーブルが置かれてあるのだが、声はそちらから聞こえてきた。
よく見ると何かモゾモゾと動いている。白く透き通っていて肉付きがいい………足だな。その上半身は布団で簀巻きにされている。
あれはアイリさんか?
「ん“~~!ん“ん“~!!ハァハァ」
何かスゲー嬉しそうな声を出している。勘違いだと思いたいが、昨日の変態ぶりを見るに間違いないだろう。
何なんだこの状況?
てゆうか、何でこの人達は無言で睨み付けてくるんだ??
「あの、姉さん?」
「……」
返事が無い、ただの殺戮兵器のようだ。
「ソエル?」
「……」
返事が無い、ただの召喚獣のようだ。
駄目だな、やっぱり土下座か、と思い膝をつこうとしたところで姉さんが口を開いた。
「ライト、お前、剣で切り殺されるのと炎で焼け死ぬの、どっちがいい?」
「…………ごめん、何て?」
姉の台詞とは思えないあまりにもあれな台詞に頭が受付拒否してしまったようだ。
何?朝ごはんはパンとご飯どっちがいいって?
「分かった、両方だな」
言うが早いか姉さんはスラリと剣を引抜き、ソエルの両腕が強烈な炎に包まれた。
「ちょ、ちょ、ちょ、待った待った待った!!!」
「そうか、遺言くらいは聞いてやらないとな」
「いや、違くて!」
殺す気マンマンじゃないっすか。
「な、何で怒ってるんでしょうか?」
ブン!
「え?」
上目遣いで聞いた俺の額の横を何かが通り抜け、
ドゴォォォォォン!!!!!
と凄まじい衝撃音が鳴り響いた。
チラリと後ろに目を向けると、後ろの扉が消し飛んでいて、周りの壁が燃えている。
この事態を予測していたであろう村長とカマセさんがバケツで消火活動を行っていた。
目が合うなり村長は青い顔になり、カマセさんは相変わらず笑っている。羨ましいとか思ってるんだろうなこの変態。
「オ“イ“」
と物凄くドスの効いた低い声で呼び掛けられる。
「な、なんでしょうか、ソエルさん?」
「なんでしょうか、じゃねぇよゴラ!!あんなことしといてよくヘラヘラ出来るな、えぇ?この腐れヤリチン野郎がぁ!!!」
ガッ!と襟首を締め上げながら至近距離で睨み付けてくるソエル。
怖いし熱いし何なのマジで?
あんなことって何だ?あんな事もそんな事も心当たりないんだが……。
「…………ごめん、何の事だか、さっぱり分からないんだけど?」
「分かった、死にたいのね?今すぐ殺してあげる」
「いやいやいやいや、俺を殺したらソエルも死んじゃうんでしょ!?」
「助かりたいが為に私の名前を出すとはとんだクズ野郎ね。契約者がこんなゴミだったと知って今すぐ死にたい気分よ!!」
「は、はぁ?…………ふざけんなよ!!!」
何で怒っているか分からないがこの言い分にはさすがにカチンときた。
俺もソエルの襟首を掴み上げ、睨み合いながら叫ぶ。
「俺と自分は一心同体だって言ったのはお前じゃないか!!俺が死んでお前が助かるならいくらでも死んでやるよ!!!」
「俺の命なんかよりお前の方が何倍も大事に決まってるだろうが!!!!」
それに対してソエルは、
「なっ、何言って!?」
と一瞬驚いた顔をしたが、しかしすぐに横を向いて、
「フ、フン!口だけならいくらでも言えるわよ。本気だなんて証明出来ないでしょ!」
いいや、出来るね。無理矢理で悪いけど俺もイラついてるからな、
「してやるよ」
「は?」
「してやるって言ってるんだよ!」
「って、ちょ、待っむぐぅ!?」
振り向いたソエルの唇を奪い、無理矢理に憑依させる。
『な、何?いきなり何のつもりなのよ!?』
ソエルの問いには答えず、言葉にならない想いを心に浮かべる。
考えてる事が筒抜けのこの状態なら分かってくれる筈だ。
心の中は全てが紛れもない本心なのだから。
『……はあ、期待させてこれって、貴方やっぱり酷いわね』
『えぇ?伝わらなかった!?』
『そうじゃないわよ……(だってこれ愛情じゃなくて友情とか尊敬じゃない)』
『え?ごめん、聞こえなかった』
『何でもないわよ馬鹿!』
『馬鹿って言わわれた……。』
『そんな事よりユリウスにも教えてあげないとまずいわね。そうだ!良い機会だからユリウスとも契約を結びましょうか』
『そんな事って……。いや、それより契約って精霊と結ぶものなんじゃないの?』
『普通ならそうね、けど貴方はそうじゃない。』
『精霊王の加護を持っているでしょう?』
ライトの契約~最弱の少年は美少女な精霊達と共に最強の魔王へと成り上がる~ 五味葛粉 @m6397414
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