あいとはしんじるとは 何か

朝倉れい

あい.1

『私が誰かを愛するの。』なんて、言えた事じゃなかった。

誰にも愛されることのなかった、愛など触れたこともなかった、独りよがりだったんだ。


『私の知らない愛を、誰かには味わってもらいたいの。』見苦しいだけだった。

本当は、愛される人を妬み、羨んでいるだけに過ぎなかったんだ。


『愛がほしいの、触れたいの。一度でもいいから、偽物でもいいから、愛を感じてみたいの。』

そう、きっとこれが僕の本音だ。


誰かが誰かを愛するように、愛は「与える人」と「与えられる人」がいる。


私は、もう少しで××年目の誕生日を迎える。この××年のうち、どれくらいを『愛』のために費やしてきただろう。

存在すらしないと思っているそれを、触ることもできないそれを、

いつから探していたのだろう。


いつしか愛を「与えられる人」より「与える人」になった方が早いのではないかと、

もう残りの人生で愛を見つけることは、不可能なんじゃないかと、

諦めた時もあった。


ああ、彼ならなんて期待してしまった私は馬鹿だ、大馬鹿だ。

『本気で好き』なんて言葉を鵜呑みにし、まんまとそれに乗っかってしまった。

手の平で踊らされているのではないかと疑心暗鬼になる毎日は、こんなにも辛いものだったか。


ひと夏の為?周囲の目の為? 独りだと思った時そこに私がいたから?落ちていたガラクタに情でもわいたのか?

ああ、何にせよ思い悩む日々は変わらない。いつまでたっても不安の嵐。


ついこの間までの『裏切られる不安』ではなく、『虚偽なのか真意なのか確認できないぎこちなさ』が今の私だ。


彼は忙しい。真面目な人だ。性格もよく、悲しいことには悔し泣きするような人だ。

これが全て偽りだというのなら、私は何を信じればいいのだろう。


いつだか映画で見たシーン。

広い世界に、創られた心を放り込む。すると瞬く間に何万人もの心が騙され操られる。

偽物の心は誰かの思惑で創られたものであり、決して正義ではない。

その心に魅せられた人々は、次々と真っ暗闇のステージへ堕ちていってしまう。

そのステージは、人々の目に美しく涙するような舞台に見える。

だが実際はどうだ、そんなものは存在などしない。そこにあるように思い込まされた、真っ黒な誰かの手の上だ。

ただどうする?真実は誰にもわからない。もしかしたら悪に見える手の上は、本当に天国のような楽園かもしれない。

踊らされている事実など何処にもなく、ただ目の前の幸福を受け入れられていないだけではないか、と。


そう、ここにはいくつもの選択肢がある。私こそ、その選択権を持っているのだ。私が中心だ。


そう思えたらなんて楽だろうか。

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