女子高生殺し屋豊田世梨華(超能力プラス)

魔女っ子★ゆきちゃん

女子高生殺し屋豊田世梨華(超能力プラス)

少女が朝食の食パンに、マーマレードをこんもりと山盛りこれでもか、とばかりに塗りたくり、さあ食べようかとその小さなおちょぼ口を大きく開いたところでした。


そのニュースが、テレビから流れてきたのは。


彼女達の住む近隣で起こった殺人事件を報じたものです。


ここ半年のうちで4件目。全て、若い女性(14〜22歳)が性的な暴行を受け、殺されるという事件。


少女の正面の席に座っていた母親が、

「世梨華、気をつけてね?」

と声を掛けるも、世梨華と呼ばれた当の少女は黙々ともぐもぐと食パンを食べ続け、無事完食致しました。


右手の甲で口元を拭い、甲に付いたマーマレードをペロリ。


食パンと時計を交互に見て、もう一枚食べるかどうかを悩んでいましたが、

「もう出掛けるわ」

と、席を立ちます。


「今日はずいぶん少食なのね」

と目を丸くする母親。そしてもう一度、

「世梨華、本当に気をつけてね?」

と声を掛けました。


こくん、と頷きながら、

「大丈夫!危ないことはしないから……」

と言いながら、部屋から出ていきました。


豊田世梨華とよた せりかちゃんは高校1年生。おかっぱの髪は、カラスの濡れ羽色。ちょっぴりツリ目だけれど、真っ黒くろの大きな瞳に。小さな鼻におちょぼ口。


その小さな口で、どれだけ入るの?ってくらい、いっぱい食べます。もっとも、今日は少食でしたね。四枚切の食パン二枚しか食べてなかったし(あとサラダにコンソメスープに牛乳をコップ2杯)。


そんだけ食べているにも関わらず、160cmの身長に、体重は……って、思春期の女の子の体重を書くなんて、デリカシーに欠けますね★


体つきは全体的にほっそりしてて、高校1年生にしては未成熟な感じ。

本人もそれを気にしてるんだね?

毎日牛乳を飲んでいるのですが、どうやら効果は目に見えるカタチでは出てないみたいで、胸なんかも、えーと、そのぅ、あのー……。


と、ここで視聴者の皆様に十代な、……じゃなくて、重大なお知らせがあります。

バイトの時間なので、私の語りはここまでっ!

ごめ〜ん、帰ってきたら続きやるから、それまで待っててね〜♡


周囲を見回すが、誰の気配もない。

かれこれ待つこと2時間あまりだが、めぼしい獲物には巡り合えなかった。


まあ、昨日の今日で、若い女どもが用心しているのは仕方あるまいか。


それにしても、昨日は酷い1日だった。せっかく獲物を捕えたにも関わらず、あまりにも抵抗されたため、充分な性的欲望を満たさぬうちに殺してしまったのだ。

いや、酷いのは昨日だけじゃねえ。俺の人生そのものが酷いものだったのだ。


小学生の時点で、既に醜さに絶望していた。

女子共は、俺を汚物か病原菌のように扱い、人間として見られていなかった。


決定的だったのは、高校のとき。

さすがに高校生にもなれば、病原菌扱いはされなくなった。俺の容姿も、『醜い』から『並の下』くらいになってたかもしれない。

その頃、好きな女子がいた。

バスケットボール部の、長身で細身、ポニーテールの似合う美少女だった。

明るくて気さくな娘で、朝に顔を合わせると、俺なんかにも笑顔で、

「おはよう」

と言ってくれる女の子だった。

俺はその娘に夢中になった。寝ても醒めても考えるのは、その娘の事ばかり。

暗い暗い闇の中に一筋の光が差し、暗闇に色を付けていく。

人生の暁だと思った。明けない夜は無い。俺の人生にも夜明けが訪れ、陽のあたる場所を歩いていける。


ラブレターを書いた。もちろん、彼女と俺では釣り合わないし、付き合えるなどとは夢にも思っていなかった。

ただお礼が言いたかった。常闇に沈む俺に茜を差し、昼の世界へと導いてくれた彼女にありがとうと言いたかったのだ。


数日後の放課後、彼女は友人女子2人を引き連れ、俺の元に現れた。彼女の顔を見てすぐに、フラれるとわかった。

「気持ちは嬉しいんだけれど、……ごめんなさい」

「いや、別に……。迷惑だったでしょ?」

「迷惑だなんてそんな……」

その直後、彼女の友人がニヤニヤしながら、

「迷惑じゃないんなら、付き合っちゃえば?」

の一言に、一瞬だけ見せた彼女の嫌そうな顔。

彼女はすぐに作り笑いを見せた後、神妙な面持ちになり、

「本当にごめんなさい」

と頭を下げた。

「い、いや、こっちこそごめん。あっ、俺もう帰んなきゃ……」

カバンを引っ掴み、逃げるように立ち去った。


たとえば、コンビニのレジで笑顔を見せる女店員も、内心では俺の事を『醜い生物』だと思っているに違いない。

全ての女は敵だ。もう金輪際、女なんか好きにならない、と決めた。


俺に転機が訪れたのは、およそ2年前。俺に超能力があることに気が付いたのだ。

この能力があれば、女どもに復讐が出来る。

女どもを無残に犯し、絶望の縁に突き落としてから、容赦なく殺す。

これまで、女どもから受けた恨みを、10倍、100倍、1000倍にして返してやるのだ。


周囲がかなり暗くなってきた。さすがに今日は無理かもしれない。引き上げるとするか。

そう思っていたところで、セーラー服の女子高生が目の前を通り過ぎて行った。

ちらっと見えた横顔は、クールな印象のかなりの美少女だった。

俺は能力を発動し、彼女の後を追った。


やや足早に歩く少女の1メートル程後ろを付いて歩く。気付かれた気配はない。気付かれる筈がない。

彼女は身長160cm程で、ほっそりとした体つき。きっと、ダイエットなどと称して、きちんと食事を採っていないのだろう。

高校生にしては未成熟に見える。だがそういう、まだ開かぬ蕾をめちゃくちゃにしてやるのが、無性の喜びとなるのだ。


少女が歩くその先に公園がある。昼間はともかく、夜になると明かりが少なく、人などほとんど寄りつかなくなる。

そこで凶行に及ぶ。

そこが、この少女が見る最後の景色となるのだ。


少女が公園へと入っていく。公園を真っすぐ抜ければ、少しショートカットできるのだ。させないけれどな。


背後から、少女の首に左腕を回して捕まえ、右手で彼女の目の前に刃物を見せつつ、

「静かにしろっ!騒ぐと殺す」

と脅すと、無言のまま、こくこくと頷いた。俺の左腕に弱々しい顎の動きが伝わる。

公園内の、明かりが遠くて人が公園に入って来ても発見されにくい場所まで来て、彼女を地面へと突き飛ばした。

彼女はよろけながらも、身体を捻ってこちらを向きながら尻もちをついた。

さぞ、恐怖に怯えている事だろう、と彼女の顔を見る。この瞬間がたまらないのだ。しかし……。


彼女の表情は、怯えた者のそれではなかった。

「やれやれ」

と立ち上がり、両手でスカートをはたく。

「人違いだったら、言ってちょうだい。あなたが松村亨(まつむら とおる)さん? 連続女性殺人犯の」


それまで、蝶を捕えたカマキリのつもりでいたが、なにやら様子がおかしい。背筋に緊張が走り、冷や汗が流れる。

「おいっ、静かにしろ!この刃物が見え……!?」

ぎょっ、とした。目の前にいる少女の右手に巨大な拳銃が見えたのだ。

S&Wスミスンウェッソン M29エムにじゅうきゅう 44フォーティーフォーマグナム。『ハンドキャノン』と称される大口径リボルバーよ。弾丸は『ハイドラショック』の特注品。筋肉質のいい身体つきをしてるみたいだけれども、この銃の前では紙程の防御力しかないわよ?」

少女が涼しげな表情で言う。おそらく、自分が優位に立ったと勘違いしているのだろう。

とはいえ、この銃で撃たれたら命は無いのは確かだろう。撃たれたら、だがな。


刃物を地面へと投げ、両手を上げながら、

「お前は何者なんだ?」

と問う。警察官には到底見えない。

「『パワーハウス』の一員だと言ったら?」

「パ、パワーハウス!?」

詳しい事は知らないが、超能力を持った犯罪者を抹殺する秘密機関の噂を聞いた事がある。その名が確か、パワーハウス……。

「おとなしくしてたら、命までは奪わないわ。『今は』だけれどね」

法に裁かれれば、死刑になる可能性が濃厚の俺に、このまま捕まるという選択肢はない。

「ふん、捕まえられるものなら捕まえてみな!」

俺は能力を発動した。途端に少女の顔が困惑に変わる。


俺の能力について、説明してなかったな。

『認識障害』、すなわち『俺に関しては、五感の全てで認識する事が出来なくなる』能力だ。

俺の身体に限らず、身につけた衣服や手に持った武器などにも働く。但し、空き缶を蹴るなどした場合、それには認識障害が働かず音を立ててしまうから、その点は注意が必要だ。


少女は右手に銃を持ったまま、ボクサーのようなファイティングポーズを取る。両足は肩幅より少し開き、膝を曲げて少し腰を落とし、両のかかとも上げている。猫足立ちとも言われるすきの無い構えだ。

左右を素速く見回し、警戒している。しかしだ。


俺は正面から堂々と、左手で少女の右手首を掴み、右手で銃身を掴むと、手首と人差し指をへし折るべく力を込めて捻った。……と。

「ごふっ!」

少女の右膝が俺のみぞおちに食い込んでいた。

空手で鍛え上げられたこの肉体に、こんな細身の少女の攻撃など通じるものか、とたかをくくっていた。しかし、少女の一撃は俺の自信を突き崩した。

とはいえ、拳銃を奪う事には成功したようだ。一方で少女の指や手首をへし折るのは失敗した模様。


認識障害があるとはいえ、密着すれば少女の攻撃を受けてしまう。彼女の打撃力は、空手有段者の俺を軽く上回る。

ならばここは、クロスレンジではなく、ショートレンジだな。

拳銃を背後へ投げ捨てると、右拳を少女の鼻っ柱に叩き込んでやった。その端整の取れた美しい鼻から鼻血が出る。

間髪を入れずに、右頬、左こめかみ、胸、みぞおち、左すねと続けざまに攻撃する。全ての攻撃が面白いように命中する。さらに後ろに回り込んで、腰を思いきり蹴ってやった。

なすすべなく地面へと倒れ込む少女。

彼女は強い。俺よりも遥かに。格闘技を嗜む者として、それは直感的にわかる。とはいえ、それは、認識障害が無い場合の話だ。

認識障害を使えば、格闘技の世界チャンピオンでも、この少女同様、みっともなく地面を舐める事となる。


もはや少女に抵抗するチカラは残っていないだろう。いや、意識があるだけでもたいしたものだ。普通の女子高生なら死んでいてもおかしくない程度の打撃は加えている。


倒れている少女を仰向けにすると、馬乗りになる。認識障害の能力を解く。馬乗りの状態ではあまり意味がないし、もし、少女の仲間が現れたとしたら、認識障害を使って逃げなければなるまい。少しでも省エネでいかないとな。

セーラー服をたくし上げる。続いて、ブラジャーもたくし上げた。

弱々しく胸を隠そうとするが、俺がその手をはたくと、すぐに手をどけた。

もはや、まな板の上の鯉なのだろう。胸の方も、まな板とまでは言わないが、ささやかな膨らみが申しわけ程度にあるだけだ。


顔を見てみると、、首を思いっきり右に向け、こちらを見ないようにしている。涙は、……流していないようだ。


彼女の腹部に跨ったまま、後ろ手でスカートをたくし上げ、さらにショーツも取り払った。事を済ませたら、さっさとこの女を殺して、ここを立ち去らねばならない。

パワーハウスが俺の正体を掴んでいる以上、自宅に帰るのは危険だろう。何処か遠くへ逃げなくては……。


っと、今はこの少女の蕾を散らすのを楽しもう。逃亡先では、女を犯して殺すなど、しばらく出来なくなるだろうしな。

身体を後方へとずらして、少女の両足を、両脇に抱えるようにして……。


ドンッ、っという爆発するような轟音が響いた。なにやら火薬の匂い。そして右手に嫌な違和感が。

恐る恐る、そちらを見ると。


一瞬意識を失いかけた。そんな、嘘だろ、オーマイガッ!


「あがあーーーーーーっ!」


右手首から先がなかった。認識した瞬間に激痛が走る。


それでも瞬時に少女の方を見た。

その右手には拳銃が握られていた。


「2丁! ……持っていたのかっ!」

「ええっ。でもこれは、あなたが無造作に放り投げた拳銃よ?もう1丁は、コルトの22口径なの」


即座に、跳ね上がるように、起き上がる。同時に認識障害能力を発動。


正体がバレ、住む場所を失くし、右手首まで失った。逃げる前に、この女だけは殺さないと気がすまない。あの銃を奪って、脳みそを吹き飛ばしてやる!


上着を脱ぎ、右手にぐるぐる巻きつけた。血液から俺の居場所がバレてはまずい。


少女は一歩も動かない。服は脱がせたわけではなかったので、今は汚れたセーラー服を身につけた姿だ。

その状態で、先程同様、ファイティングポーズでひざを曲げて腰を落とし、猫足立ち。右足首には、先程脱がせたショーツが引っかかっている。

つまり今はノーパンなわけだ。

もし彼女が普通の女子高生並の羞恥心を持っているなら、『背後から思いっきりスカートをめくって、恥ずかしがっている隙に拳銃を奪う』という作戦が通用するかもしれない。しかし彼女はスカートをめくられた瞬間に、俺の居場所に見当をつけ、攻撃してくるに違いない。


このままいるとやばいかもしれない。俺は右手を負傷しているし、時間が立てば、女の仲間が応援に駆けつけてくるかもしれない。

長引けば、不利になる。

ならば、殺すか逃げるか、直ちに決めなくては。


俺が失念していた事がある。この女も超能力者だ。

俺の能力はある程度把握されているだろう。

一方、俺は彼女の能力を全く把握していない。そもそも、あの拳銃をどうやって手元まで持ってきたんだ?


逃げよう。悔しいが、100%勝ち目が無い。そう思ったときだった。


「あ〜あ、逃げられちゃったわね。また怒られるんだろうなー」

そう言いながら、ショーツに左足を通して、履き始めた。拳銃を傍らに無造作に置くと、スマートフォンを取り出した。

「あっ、お母さん。あたしだけど……。うん、うん、ごめん。……」


絶好のチャンスが訪れた。あの44マグナムを奪い、後ろから脳みそを吹き飛ばしてやるのだ。

とはいえ、銃を撃った事などない。左手で、あの大口径拳銃を撃てるのだろうか?

いや、出来るか出来ないかじゃない。殺るか殺らないか、だ。

右肘で左手首を押さえながら撃てば、なんとかなるんじゃなかろうか?

今ここで逃げたら、この女を殺せる機会は、一生無い。殺す、殺してやる。


しかし、この無防備さは怪しい。あの拳銃は誘いの隙、毒まんじゅうに違いない。

なら、女と拳銃の間に回り込み、刃物で切りつける。すると、女は拳銃に手を伸ばそうとするだろうから、そこで背中から心臓を一突き。最後にその美しい顔を吹き飛ばしてやるのだ。


そっと近付き、拳銃と女の間へと入る。逆手に持った包丁を天高く振り上げ……。

バシュッ。

少女の左手のピストルが火を吹いた。

俺の腹部を貫通しているらしい。

さらにもう一発は、左手に命中。その衝撃で包丁を手放してしまった。

背を向けて逃げた。

「止まらないと死にますよ?5……4……3……」

右へ左へジグザグに移動しながら逃げた。見えない俺に当たる筈がない。

「2……1……さよなら★」


ふぃーっ!やーっとバイトおわたー♡ナレーションさいかーい♪


えーと、何処からだっけ?あら?けっこう進んでるねー。小人さん?まあ、深く考えないようにしよう。


世梨華ちゃんは、特殊な通信機器を取り出すと、連絡を取り始めました。

それにしても、制服が汚れてるねー。どこかで相撲でも取ったのかな?


連絡して数分すると、世梨華ちゃんの前に突如、人が現れました。テレポーテーションという能力です。現れたのは40代半ばくらいのおじさんで、まるで清掃員みたいな格好をしています。

「はーい、世梨華ちゃんお疲れさまでーす」

「お疲れさまです」

「あーっ、派手に殺っちゃったねえ。ばらばらのぐちょぐちょじゃない。わー、モツはみ出てるし……」

「ごめんなさい。姿が見えない相手だったので、マグナム使わないと仕留められなくて……」

「あー、いーの、いーの。全然平気ーっ。いつも丁寧な仕事する世梨華ちゃんが、ここまでやったんなら、相当な難敵だったんだろうねー」

「あのー、お任せして大丈夫でしょうか?」

「もちろんだいじょぶ、だいじょぶ。30分後には、一滴の血も残さず、綺麗にしとくから。変質者に気をつけて帰ってね〜♡」

世梨華ちゃんが、帰る準備を整えている間にも、現場はみるみる綺麗になっていきます。

世梨華ちゃんは、軽く会釈して公園を出ると、帰路につきました。

辺りは既に暗く、空にはお月さまが浮かんでいました。


実はこの世梨華ちゃん、ただのくいしんぼ女子高生に見えますが、秘密があって……。

えっ、殺し屋でしょ、って。なんで知ってるんですかー!

まあ、説明する手間が省けたし、いっか☆

最後だけ、きちんと締めとこう。


そして世梨華ちゃんは末永く幸せに暮らしましたとさ。

めでたし、めでたし。

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