賽の河原・血の池地獄・三途の川

むらさき毒きのこ

第1話

 

 青森県、恐山。大きな門の向こうは人間界と霊界のゲートウェイだ。なんて思いながら、ばあちゃんと来た道を歩いてみた。

 灰色の岩山に、小さな石を積み上げて出来たオブジェが、複数点在する。その横には、色とりどりの風車。

「賽の河原だよ、壊しちゃだめだよ~」

 私にもわかる言葉で、ばあちゃんが言った。福井県で生まれ育った私は、青森のばあちゃんが何を言ってるのやら……「めんこいなあ(かわいい)」「わらす(こども)」しか理解できなかったのだ。

 賽の河原とは、幼くして亡くなった子供が永遠に積む石山だと、誰かが言っていた。本当かどうかは、知らない。

 赤い、どう見ても鉄が沢山溶けているように思える池が、湯気を立てている。小さな池で、ああ……と別の場所を眺める。その辺りには煙と共に硫黄の匂いが漂っていて、むしろそちらの方が目を引く。

「悪い事したら、血の池地獄に落とされるよ~」

 ばあちゃんがそう言いながら、嬉しそうに山を駆け下りていった。その、ブーメランのような角度で曲がった背中を見ながら私は、笑ってしまった。

「ばーちゃん、なんでそんなに走れるの?」

 骨粗しょう症と診断され、普段は杖をついているのに……不思議な事もあるもんだ。

「ばーちゃん、待ってよ!」

 私は、ばあちゃんを追いかけた。地平線いっぱいに広がる、湖。白い空、灰色の水。何だか、霞みがかってきそうな……

「三途の川だよ~。みんなここを渡って、行くんだよ~」

 そう言いながら、私の横でばあちゃんは鮭とばをかじり出した。私も一緒に……


 そう言えば。こんな風にばあちゃんと、話した事あったっけ。

 長女を産むタイミングで死んだばあちゃん。葬式に行けなかった。次女を産むタイミングで、父方の祖母が死んだ。葬式に行けなかった。長男を産んだタイミングで、夫の父の、兄が死んだ。

 思わず、生命の「輪廻」について考えてしまう。この世とあの世、それは、すぐ近く、すぐそばで重なりあう……

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