週刊短編小説

@western

第1話 妥協出来ない美女。

 その美女は男に関して妥協が出来なかった。あるときは、一粒のご飯粒を茶碗に残しただけで別れ、あるときは誕生日プレゼントが自分の欲しくなかったものでなかっただけで別れたこともある。

 

 ある日、その美女は唯一の女友達と一緒にカフェに来ていた。


「また彼氏変わったの?」

 友人の第一声はそれであった。


「うん。付き合ってから三日経ったときなんか違うなぁってなっちゃって。」

 美女はあっけらかんと言った。もう付き合った男の数は3桁を超えていた。その分別れて、新しく付き合った時の質問の応答はマニュアル化されていた。


「いいよねぇ、美女って。私なんて彼氏作るのに三年かかったよ〜(笑)」

 友人が自虐をした。


 美女は愛想笑いをしつつ、興味は微塵みじんもないが、一応友の彼氏のことについて聞いた。


「その彼氏さんってどういう人なの?」

 

 すると友人はにんまりしてこう答えた。

「ホントに良い人すぎて私には勿体無いくらいだよぉー///会社の社長だし、高学歴だし優しいし〜」


「ホントに?騙されてない?それ。」

 美女は疑った。何故なら友人は不細工ではないが、美女ほど顔は整っていないからだ。それに家事もあまりできない。このような状態で社長なんて引っ掛けられるはずがない。


「ホント!ホント!これ見てよ。」

 友人は美女にスマホを見せた。そこには友人と見たことのある男が写っていた。


「あれ……?この人どこかで見たような気が……」


「あ〜多分テレビだよ。良くイケメンIT社長として取り上げられるから。」

 すかさず友人が答えた。

 

 美女は友人にその社長の名前を教えてもらい、その名前を検索すると、確かに友人と共に写っていた男はその社長だった。


「ホントだ。いっぱいテレビや雑誌に出てる……。ねぇ、この社長とどこで知り合ったの?」


「知りたいぃ?」

 友人はニヤニヤしながら聞いた。


「ま、まぁ。良い人が見つかるなら……」


「じゃあ特別に教えてあげる。」

 そう言って友人はスマホを操作し、あるサイトを開いた。


「眠り姫?」

 美女はサイトの名前を疑問系で読んだ。


「そう。眠り姫。訳あって眠っちゃったお姫様が王子にキスして起こされるやつ。」

 友人が雑な眠り姫の解説をした。


「それは知ってるけど……こんなので良い男と会えるの?」

 美女はサイトに不信感を覚えた。


「うん。現に私は出会ったし。それにね、お金はほとんどいらないの。」

 友人は誇らしげに言い、とりあえずサイトに明記されている場所に行くよう言った。


 後日、美女は指定の場所に行くと、そこには一棟のビルが立っていた。中に入ると、


「〇〇様からご連絡を頂いております。☓☓様ですよね?」

 と受付の女性が言った。返事をすると奥に連れて行かれた。奥は研究所のようになっており、数人の美女が透明なカプセルの中で眠っていた。


「あの…これは…?」

 質問すると、ひょこっとお爺いさんが出てきた。眼鏡をかけていて、髭をはやした、これぞ研究者という様な人だ。


「これは眠りカプセルです。この中で眠ると、時を忘れ、老化もしなくなり、気づいたときには理想の男性が起こしてくれますよ。」

 研究者はゆっくりとした口調でそう説明した。美女は理想の男性という単語にうっとりし、すぐさまカプセルに入ることを決めた。料金は期間限定で無料だった。


 「…理想の男性を思い描いてください。」

 カプセルに入ると機械音だが女性の声がした。美女は身長185以上、年収6000万円以上、美男子コンテスト優勝者を思い描いた。妥協はできなかったのだ。


 「それでは…しばしの安らかな眠りを…」

 機械がそう言うのと同時にガスが出てきて、美女は眠りについた。


 ★300年後


「所長…あの女性、いつまで眠っているんですか?」

 助手の女性が聞いた。


「ああ…NO13の人?あの人はひい爺さんの頃からずっと売れ残りだから、一生無理だよ。なにせ条件がね…」


「流石にでは厳しいですよね笑。」

 助手は苦笑いしながら言った。

 

「それに今は遺伝子操作が一般になったからあの女くらいの女性なんて死ぬほどいるし…」


「でも、どうするんです?この研究所も来月には閉めるんですよね?」


「あぁ…」

 同業他社が爆発的に増えたため価格競争がおき、研究所は利益をあげづらくなっていた。


「他の研究所も引き取ってくれないし…しかないか…」


「それって殺人じゃないですか?」

 助手は不安そうに聞いた。


「大丈夫だよ。300年前の戸籍なんて破棄されてるし…あの女を知るやつはもうこの世にいないしね笑」

 所長は皮肉を言った。


「そうですよね笑。じゃあ今晩には処分しときますね。」


「ああ。よろしく頼む。」

そう言って、所長は帰った。


 ★その晩


「カッカッカッカッ」

 ヒールが床を叩く音が研究所内に響き渡る。

 

「ポチッ」

 助手はNO13のカプセルの前まで来ると、赤色のボタンを押し、笑った。カプセルは青色のガスが充満し、カプセルの中にいる女は眠りながら、足をばたつかせていた。


「ふ…ふ…ふふ ひっひっひっ…はあっはあ〜」

 助手は大きく笑った。


「私はねぇ…あんたのことが大嫌いだったのよ。なにもしないくせに…男を次々と引き寄せ、しまいには私の彼氏さえ取って捨ててしまうあんたがね!!」

 助手…いや女の友達はそうカプセルの前で絶叫した。


 「やっとこの日が来てくれた…苦しい遺伝子操作まで受けて、生き続けた甲斐があったわ…ねぇ美恵子…今どんな気持ち?あ!死んでるから分からないよねぇ笑」

 女の友達は既に死んだ女の頬に自らの頬を当てて言った。


「うふふ…うふふふふ。あんたが妥協しないからよ…あんたが妥協できないからこうなるのよ。」

 その女の友達ねっとりとした声は研究所内にゆっくりと響いた。


…その女は、妥協できなかったのだ。

 


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