第3話 僕は現状を把握したい


6のクラスでVR双六をやるという運びになった。天音は残って参加したいと言い張ったが、僕が許さなかった。本来なら天音も6のクラスに在席するのが妥当なのだが、僕が監督する条件で7のクラスに在席を許されている。無理強いしているわけではなく、天音が僕と離れたがらないのだ。僕にとってはおしめの世話をしなくてはいけないから、多大な負担をかけられるだけで特にメリットもない。天音の身請け先が決まる日が待ち遠しい。


7の一組の教室の前にさしかかると、気だるそうな笑い声が漏れ聞こえてくる。僕は教室の後ろの扉を一気に開けた。その瞬間、教室は時間が停止したように静まり返る。


教室の中には服装も年齢もバラバラの少女たちが散在している。ある者は、ミニスカートからはちきれんばかりの太股を晒して机の上に座っているいるし、和服でお高くまとっている奴もいる。はたまたバニーガール姿で色気を振りまいている少し頭の足りない可愛い奴も。


色とりどりに着飾った豚たちの巣窟は、いつ見ても壮観だ。


ここで最新の社会情勢を簡単に説明しておこう。2050年代後半の日本は人口の減少を食い止められなかった。それに伴い、地方の過疎地域が四割を越えた事を受け、政府は第二の日本列島改造論(数年前から田中角栄ブームを煽って下準備をしていたのが巧妙だ)を打ち出した。


具体的には都道府県を廃止し、道州制を導入した。


もちろん全ての国民が納得したわけではない。権限の委譲とは名ばかりで交付金は削られたし、関東以外の人たちは自分達が見捨てられたと感じられただろう。スムーズに政策に従ったのは主に富裕層であり、地価の上昇もあって明確な階層化を指摘する声も上がったが、本格的なロビー活動には至らなかった。なんだかんだいってもこの国の国民はお上の意向に従うのが好きなのだ。


政府も無策に国土を二分したわけではない。人口減少により放棄された土地に自衛隊の基地や、研究施設、工場を建設し、住民が戻ったケースもある。


ある防衛大臣の言葉を引用しよう。


「原発より基地の方が安全です」


本当に安全かどうかはさておき、政府はアメリカに基地の建設を急かされていたというのが実状である。


アメリカは中国の台頭を憂えていた。中国は独自の高速通信技術に加え衛星技術、軍事技術もアメリカに比するまでに成長している。さらに経済的軍事的橋頭堡の役割を果たす一帯一路政策は阿片のように大陸を飲み込みつつあり、その勢いを削ぐのは急務であった。


日本はアメリカと一蓮托生というより、惰性で要請に従い、基地を建設した。その見返りとして、新技術を得るのが目的だった。極秘裏に開発された超高速通信技術6Gはまだ試作の段階でさらなる改良の余地があったが、世界を覆す可能性を秘めていた。


ここで思い出すことはないだろうか。僕らの学校には6Gというクラスがある。


ようやく僕ら豚と関連する話題に差し掛かった所で、一端話を終えたい。続きはまた次回。

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