エピローグ

 次の日の魔法界の新聞は、この戦いの話でいっぱいだった。復活をもくろむ悪の魔法使いの計画が失敗し、世界は想像を絶する恐怖から未然に救われた――どの新聞にも、こんな感じのことが長々と、ドラマチックに味付けされて書かれていた。でも話を大げさにするお得意の書き方じゃ、本当のことはあまり分からないと思う。だから、そのあとのことも話しておこう。


 ヴィルナードはすべての魔力を失った。その時に生命力も削られたらしく、彼は刑務所じゃなくて病院に入れられた。でも、きっと彼はあそこで最後まで暮らすんだろうとぼくたちは思っている――生きるためのちからを取り戻すことは、どんな魔法を使っても不可能だからだ。ヴェリーナは、ノエル=リリー・ジャクソンの名前で魔法界の学校に転校することになった。それも魔法界一厳しいと有名な、全寮制の学校だ。きっと卒業するころには父親のことも諦めておとなしくなってくれるだろう。

 バークレーさんは何年かぶりに帰ってきて、ニューヨーク中の新聞が――そう、人間界のもだ――大騒ぎになった。もっとも、ローレンス・ジャクソンが急に失脚したのと入れ違いに姿を現したから、全部バークレーさんの仕組んだことなんじゃないかと疑っている人もいる。でもバークレーさんはそういう人たちを気にしない人だから、「そういうこともあるさ。」と言って笑っていた。


 ミス・パールの魔法を受けたエルは両手が真珠になっていた。物も持てて、細かい動きもできて、白く輝く無機物の両手だ。でもエルはあまり気にしていないらしく、今では手袋にこるようになっている。当のミス・パールはあの騒動の隙に逃げたみたいで、あの後どこを探しても見つからなかった。今でも、彼女がどこにいるのか誰も知らない。それでもぼくは、やっとみんなそろって暮らせるようになったことがうれしかった。それにアレクサンドルがこっちに残ることを決めて、ぼくたちみんなを驚かせた。母さんとぼくはアレクサンドルに家の中を見せて回った。あの時の母さんの顔と言ったら、あんなに楽しそうで嬉しそうな顔を見たのは初めてだ。それに彼の存在は人間界でもそれなりに知れ渡っていたから、これまたニューヨーク中の新聞が大見出しをつけて彼のことを記事にした。


 全てが元通りになってしばらくたったある日、父さんの同僚がうちに来た。

「本当にいい家族だな、ジム。うちもこんな感じなら苦労しないんだがなあ。」

「いや、うちも大変だよ。毎日賑やかなのは良いんだが、若いのが多いと苦労も多いよ……」

 1階から聞こえてくる父さんたちの話し声を聞いていると、ぼくの手元で光が炸裂した。

「カイル!集中しなさい!」

 母さんの厳しい声がする。ぼくは父さんたちの方を指差して言った。

「でも、ぼくたちのこと、いい家族だって言ってるよ?」

「それはいいから、呪文にもっと集中しなさい。私の息子がその程度の魔法も使えないなんて許しませんよ!」

 そう言いながらも、母さんはどこか嬉しそうだった。ぼくは本のとおりに両手を動かしてボールを作ると、スニェークに向かって放り投げた。スニェークがくわえてぼくに渡すまで、ボールは消えなかった。

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春の壺 故水小辰 @kotako

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