第2話木曜日のサニーレタス
「桜木、何時に終わりそう?ケーキとか買ってからいったほうがいいよな?」
18時過ぎ向かいの席でパソコンの電源を落としながら上田が言った。
何のことだ?という前に今日は先輩の家に招待されていることを思い出した。
昨日は後輩、藤田の食事に付き合い家に着いたのは日付けが変わった頃だった。今日はツタヤに行って久しぶりにレオンを借り、ビールを買って家でゆっくりしようと思っていたのに・・・。
「そうだな、確か姪っ子さんも来るとか言ってたよな。駅前の地下で買っていこうか。」
「てかさ、写真見たけど姪っ子ちゃんめっちゃ可愛いぜ。ラインとか教えてくれるかな〜。」
自分で話を振っておきながら、もう違う話になっていて拍子抜けしたがこちらが忘れていたことに気付いていないようで安心した。
開いていたページを保存し名札を引き出しにしまいながらデパートの中にどんなケーキ屋があったか思い出しながら退勤した。
南千住の駅に着くと先輩が改札の前で待っていた。
「桜木く〜ん!上田く〜ん!こっちこっち!」
Tシャツとジーンズという会社でいる時よりラフな格好であったが先輩のさっぱりした性格によく似合っていた。先輩は所謂、独身貴族というもので広いマンションに1人で悠々自適に暮らしている。会社の幹部とよくやりあってはいるが後輩の面倒見が良く、裏表のない先輩に僕と上田はとても信頼をおいていた。
「竹本さん遅れてすいません!こいつがケーキめちゃくちゃ悩んでて。」
「え!ケーキ!?うわあ、ありがとね!!栞すごく喜ぶと思う!」
悩んでいたのはお前だろと心の中でツッコミつつ僕たちは竹本さんの家に向かう。栞という名前が姪っ子さんの名前だとういうことに気付いたのは2人が歩き始めた後だった。
社長の愚痴や仕事の報告、近くのコンビニに先輩が好きと言っていたお菓子があったことを話していたらあっと言う間にマンションに着いた。
定期的に集まるこの会に姪っ子さんが来るのは初めてでどうやら明日の休み一緒に買い物に行くから今日先輩の家に泊まるらしい。
「栞さ、同年代の男の子の友達があんまりいなくて・・・。悪い子じゃないんだけど態度が悪く感じたらごめんね。」
部屋の鍵を開けながら申し訳なさそうに言った。同年代ということは20代半ば。なら他人に愛想くらいよくできるだろうと疑問をもちながら大丈夫ですよとだけ言い僕は上田に続き4回目くらいであろう先輩の家に入った。
廊下を抜けた広いリビングに着くとソファので本を読んでいる女の子がいた。
「栞!お待たせ。こちら会社の後輩の桜木くんと上田くん。こっちは姪っ子の竹本栞、今年26歳!同い年くらいだよね?」
「ゆうちゃん、私今年25歳だよ。」
まるで硝子を扱う様な動作で、本を丁寧に置きながら呆れた様に言った彼女の声は冷たいのに先輩を見る目はとても優しく、先輩のことをかなり慕っていることが手に取るようにわかる。
肩にかかるくらいの柔らかいブラウンの髪をゆるく束ねていた姿は小柄で華奢なせいかベットで横になる病人の様にも見えるが、頬は薄く桃色がかっていて潤んだ瞳は若さそのものに見える。20代の半ばと言っていたが幼くも見えるし、悲しげな横顔は年相応にも見える。何もかもアンバランスだ。
ふと目が合い、思ったよりも強い眼差しにケーキを持つ手に力が入った。
僕はここから動けない @anna_____0527
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