第84話

 すっかり陽も落ちた校庭には、巨大なキャンプファイヤーがパチパチと音を立てて燃え上がっている。

 その周囲を取り囲むように、生徒たちは炎の前で後夜祭を楽しんでいた。


 目的だった最優秀賞を俺たちは見事に受賞、クラスメイトたちは皆集まり楽しげに今日の祝杯をあげていた。

 そんな中、人気のない校舎裏にて俺は同じTシャツを着た少女と二人で向き合っていた。


「……」

「……」


 互いに口を開かず、ただただ静寂だけが俺たちの間を流れる。

 しかしいつまでも彼女を待たせるわけにはいかない。

 俺は一度小さく深呼吸し、真っ直ぐに彼女を見つめた。


「佐浦、俺は……お前の想いには応えられない」

「そう……だよね」


 佐浦のその表情に胸の奥が苦しくなる。

 例えその結果がわかっていたとしても、いざこの目で見るとなると色々とくるものがある。


「やっぱり、私じゃ駄目だね……」

「……?」

「銀さん、だよね?」

「……」


 俺の反応を見て、佐浦は寂しそうに微笑む。

 どうやら佐浦は俺の内心を知っていてあの日告白したようだ。


「……どうしてだ?」


 どうしてそれを分かっていて告白したのか。

 どうしてそこまで強くいられたのか。

 それはただ純粋な疑問だった。

 そんな疑問に、佐浦は優しく微笑む。


だからだよ」

「あ……」

「特別だから……好きだから、だよ」


 特別、その言葉に覚えがある。

 俺が麗奈に放った言葉だ。


「斉藤君にも、特別な人がいるでしょ?」

「……ああ、いるよ」

「なら、早くその人の所へ行ってあげて、私は少し……ここに残るから」


 そう告げる佐浦は力一杯の笑顔で俺を送ろうとする。

 その目尻に大粒の涙を溜めて――。


「……分かった、ありがとう佐浦、俺はお前と友達で……本当に良かった」


 最後にそう伝え、俺は背中を向けて離れて行く。

 少しした後、月夜に照らされた校舎裏には一人の少女が咽び泣く声がこだましていた。



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