第83話

「……は?」


 今拓也は何ていった?

『何て答えるつもり』だったか?

 何故そんなことを、あの場にいなかった拓也が知っていると言うのだ。


「まさか……いたのか?」

「それこそまさかだろ、単に勘さ」


 勘……ね。

 何処となく怪しい気もするが、白石じゃあるまいしついて来ている訳がないか。


「それでどうすんだよ?」

「……断るつもりだ」

「そっか」


 それを聞いた拓也は、紙袋の中から一本のイカ焼きを取り出し俺に差し出してきた。


「なら、何に悩んでんだ?」

「佐浦とは……これからも友達としてやっていきたいんだ」


 勝手かもしれないがこれは紛うことなき俺自身の本音だ。

 佐浦との料理は楽しかったし、普段の会話もとても話しやすい。

 俺らのグループの中でも一番気が合う人物だ。


「ならそう言えばいいじゃん?」

「それは……流石に勝手だろ」


 君の想いには答えられない、けれどこれからも仲良くしてくれ。

 そんな自分勝手を相手に押し付けるなど俺にはできない。


「なら、付き合えばいいんじゃね?」


 その言葉に、俺は横でイカ焼きを食べる拓也を睨むように見つめる。

 人が悩んでいると言うのに、適当な返答をされて流石に少し苛立ってしまった。


「拓也……俺は真面目に話してるんだ」

「俺も話してるんだけど?」

「だったらもう少し真面目に……」

「――衛介さ、佐浦さんの気持ちを考えてあげてるか?」


 その言葉を放つ拓也の表情は、先程の文化祭を楽しむ朽木拓也の顔では無く、今まで見たこともないような真剣なものになっていた。

 今の一度も見たことのない拓也のその顔つきに、俺は生唾を飲み込む。


「内気な佐浦さんが勇気を振り絞って衛介に想いを伝えたんだ、それに対して衛介は本気でぶつかってやるのが、俺は筋だと思うけどな」

「拓也……」


 そうだ、佐浦は昨日俺に勇気を出して告白した。

 それなのに俺は、それを踏みにじるような行いをしようとしたんだ。

 そんなのは許されない。


「結果は分からない、けど想いは届くさ」

「……そうだな」


 例え今後佐浦と友人ではいられなくなっても、それは仕方がないのこと。

 でも大事なのは想いを伝えることなんだ。


 佐浦、そして麗奈がしてくれたように――。


「……時間だし先に戻るわ」

「おう」

「拓也、ありがとう」

「へへっ、いいってことよ」


 嬉しそうにはにかむ拓也を背中に、俺は一人教室へと戻る。

 さっきまでのもやもやした気持ちは今はもうない。

 寧ろ清々しいくらいだ。


 決めたんだ。

 俺は佐浦とこれからも友達でいたいと。

 だから今日、俺は彼女の想いを断る――。

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