第75話

 翌日、朝のホームルームで文化祭実行委員決めが行われた。

 担任曰く、生徒の自主性を尊重するとの事で、基本は立候補制で進めていた。

 多数決で選ばれずに落選……なんて結果にならないだけ安堵したが、それとは別に他の問題が発生した。


「はい! 俺実行委員やります!」

「先生、私もやりたいです!」

「俺も俺も!」


 全体の半分くらいだろうか、担任の狙い通り生徒たちは率先して掌を担任に向けて自身をアピールする。

 まさかこれ程までに強敵たちがいようとは。


 けれどそんな予想外の景色の中、俺も恐る恐る手を上げると、収拾がつかなくなった担任は困り顔で俺たちに提案を出した。


「これ以上は先生だけでは決めかねるので……ジャンケンでお願いします」


 力無く応える担任に、俺は少しばかり同情してしまった。


 ◇ ◇ ◇


「それで、どうしてまた実行委員に?」


 昼休み、久し振りの自席で昼食を取っていると、目の前に座る拓也はパンを片手に尋ねる。


「青春しろと言われてな」

「へぇ、衛介が青春ね」

「……白石には言うなよ」

「ありゃ、バレちったか」


 全く、こうでも言わないと直ぐ白石の耳に入るから面倒だ。

 あいつに知られたらまた新聞のネタにされるから何としてでも隠し通さねば。


「にしても良く勝ち抜いたよな」

「俺も驚いてる」

「こりゃ面白いものが見れそうだ」

「ホントお前ら性格ソックリだな」


 白石と長いこと一緒にいるからか、はたまた白石が拓也といたからかは分からないが、二人の性格は驚くほどに相性が良い。

 俺としてはやめてほしい所だが。


 それにしても拓也の言う通り、良くもまあ勝ち残れたものだ。

 こういった勝負事は苦手なのだが、天が味方したというところか。


「それと、佐浦さんも実行委員になれるとはな、こりゃ衛介パワーが炸裂してるぞ」

「何故俺?」

「……流石にこれは佐浦さんに同情するわ」


 分かりやすく呆れ顔を見せる拓也に、俺は難解な顔で応える。

 俺のパワーとは一体何だろうか。

 それで事が上手く運ぶのなら、是非とも俺にも使わせてもらいたい。


 そんな思惑にまみれていると、昼食を取り終わった佐浦が可愛らしく近付いて来た。


「あ、あの……斉藤君、ほ、放課後実行委員の集まりがあるから……一緒にい、行かない?」

「ああ、いいよ」

「ほ、ホント!? じゃあ約束だよ!」

「お、おう」


 普段内気な佐浦だが、珍しく自分から誘ってきた。

 その勢いに少したじろぐが、佐浦が楽しそうなので一先ずよしとする。


「そ、それじゃあ……また!」

「おう」


 小走りで席に戻る佐浦の背中を見送り、俺たちは再び昼食に戻る。

 すると残り一口になったパンを口に入れた拓也も、席に戻るよう立ち上がる。


「まあ何か困ったことあったら教えてくれよ、力になるからさ」

「了解」


 実行委員になったものの、案は中々浮かばない。

 こういった時には、やはり友人というのは良いものだなと思わせる。


 放課後の前に佐浦と少し考えるか。

 何としても優秀賞を取るために。


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