第73話

 ※最近私の周りでコロナウイルス感染者が出ました。

 皆さんは外出の際マスク、それから帰宅したら手洗いうがいを心掛けてください。

 一人でも元気に過ごせるようお祈りしております。

 お待たせしました、これから本編です。


 ◇ ◇ ◇


 結局白石たちの誘いを断った俺は、いつもなら真っ直ぐ帰宅しているが、今日は少し離れた土手に腰を下ろしていた。


 まだ残暑のあるこの季節。

 住宅街は居るだけで汗が噴き出るが、川辺はやはり風が涼しい。

 大自然の冷房とも呼べるその涼風を感じながら、俺は穏やかに流れる河を見つめていた。


 河というのは見ていると心が落ち着く。

 石を投げ入れられようが、子供たちが泳ごうが、真っ直ぐに流れるその姿を見ていると、自分の悩みなどちっぽけなものだと思わせてくれる。

 だから俺はそんな河を見つめていた。


「……何であいつ、何も言わなかったんだろう」


 今でも鮮明に思い出せる。

 麗奈が出て行くと宣言した時、俺は麗奈に理由を尋ねた。


 てっきり俺はもう少し居座ると思っていたが、麗奈は次の日に荷物をまとめて出て行くと告げた。

 その言葉を聞いて、俺は心底動揺した。


 麗奈は絶対に出ていかない。

 そう勝手な予想が立っていた分、その言葉は深く突き刺さった。

 それと同時に、俺の根底にあった謎の違和感は、その形をさらに大きくした。


 けれど今ならその違和感が理解できる。

 これは……。


「……これが、恋愛ってやつなのか」


 俺には絶対訪れることのない感覚だと思っていた。

 昔から独身貴族になると決めていた俺に、まさか想いを寄せる相手が出来ようとは。


 俺はスマホを開いて麗奈のアカウントをタップする。

『電話をかける』『トークを開く』どちらかで麗奈と連絡をすれば答えてくれるかもしれない。

 しかし同時に拒絶されるのが少し怖かった。


「……ホント女々しいな俺」


 散々麗奈の気持ちを聞いておいて、きちんと答えられなかった罰なのかも知れない。

 俺は黙ってスマホの画面をロックする。

 そして再び河へと視線を向けた。

 すると川辺の方にいる一人の少女に目が止まった。


 少女は恐らくこの付近に住み着く野良猫と戯れていた。

 漆黒とも言える黒猫に、少女は草の猫じゃらしを使って戯れている。

 あれは確かエネコログサだったか?

 しかしそんなことよりも気になるのはその少女の方だ。


 遠くからでもわかる美しい銀髪は、川風に靡かれヒラヒラと宙を舞う。

 身に付ける制服は俺と同じ学校のもの。

 あれは間違いなく……。


 俺は急いでその少女に近づいた。

 すると少女は俺に気づき、黒猫から視線を外す。


「あら、衛介」

「……麗奈」


 俺はそこで思わぬ再開を果たしたのだった。

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