第66話 ss 其の弐
「ねぇ見てよ茜〜これ可愛くない?」
「あっ可愛い……杏子ちゃんに似合うんじゃないかな?」
「も〜、茜は可愛いな〜!」
「や、やめてよ杏子ちゃん!」
駅付近にある大きなショッピングモールの水着売り場で、俺たちは現在商品を眺めていた。
小柄な自分にのし掛かるように抱き付く白石に、佐浦は恥ずかしそうに抵抗する。
しかし白石の力は更に強まり、なくなく佐浦は抵抗することを放棄した。
そんな女子女子しい場所に、俺は一人後ろから付いて行く。
周りは見渡す限り水着、水着、水着。
男性用の物が並んでいれば救いだったが、ここは女性のものしか並んでおらず完全にアウェイである。
「せめて拓也がいれば……」
拓也はというと、上の階に用事あると言って一人で買い物に行ってしまった。
俺も付いて行こうとしたのだが『水着選びに〜男子の意見が欲しい〜』と白石に捕まってしまい、仕方なく付き添っているのである。
「どうしたの斉藤っち〜、何かエロい水着でも見つけた〜?」
「頼むからこれ以上俺を目立たせないでくれ……さっきから周囲の目が辛い」
外から見てくる若者の男子たちは羨ましそうに見てくるが、他の女性たちからは『三人も女の子を侍らせる最低男』と刺すような視線が飛んできていた。
女性店員もそのような目で俺を見てくるので、今直ぐこの店から出て行きたい。
というか帰りたい。
「じゃあ私たちの事は良いから〜、銀さんの水着を選んで来なよ〜?」
「俺が?」
「うんうん〜、なんか銀さん斉藤っちには気を許してるしさ〜」
「……気のせいだろ」
確かに初めて出会った時からすれば、警戒心は大分無くなっているかも知れない。
まあ今更警戒されても困るのだが。
「……分かったよ」
「確かあっちの方で見てるはずだよ〜」
店の角を指差す白石は、未だ佐浦と戯れあっている。
これ以上一緒にいると、また視線を集めるので早速俺は麗奈の方へと移動した。
ずらりと並ぶ水着の中に、綺麗な銀髪を発見。
近付いてみると、腰を折って水着を眺めていた麗奈が悩ましい顔をしていた。
すると俺に気付いた麗奈は、普段通りの顔で俺を見てきた。
「あら、もう多妻ごっこは終わったの?」
「どうしてそうなる……」
「佐浦さんを見ていた貴方、鼻が伸びていたわよ」
「そこは鼻の下だろ」
鼻が伸びるのは嘘を付いた時だけだ。
それに俺の鼻にそんな機能は搭載していない。
「俺は一刻もこの店を出たい、頼むから早く選んでくれ」
「そう、ならどっちの方がいいと思う?」
そう言って麗奈は手に取った二つの水着を俺に見せる。
どちらもビキニスタイルのその水着は、片方はフリルがあしらわれた可愛い系、もう片方は装飾のないシンプルなスタイルのものだった。
「どっちも似合うと思うぞ」
「はい出ました、要するに『どっちでも良い』」
「……ならこっちだ」
中間を選択した俺に、麗奈はジト目で不満を垂れる。
またぐちぐち言われるのは目に見えているので、俺は直ぐさまシンプルな方を選択した。
「……こっちの方がお前に似合う」
「あらそう、ふふ」
満足したのか、麗奈は小さく微笑むと、更衣室の方へその細く綺麗な指を向ける。
そして直ぐに真顔に戻り、こんなことを口にする。
「じゃあそこの更衣室の中で待っていて」
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