第53話

「不味い、はっきり言って食えたものじゃないな」

「……そう、ですか」


手に取ったスプーンを置き、俺は麗奈に厳しい言葉を贈る。

 ポーカーフェイスを保っていた麗奈だが、俺の一言によってその綺麗な顔を曇らせた。

 先程あれだけ威勢の良い事を言っていた分、反動も大きいのだろう。


 そんな弱った麗奈を見た二人蜜柑と柚子は、畳み掛けるように言葉を投げる。


「これで分かったでしょ、あんたはお兄に相応しくないって!」

「そうですね、料理すらままならない方に、お兄様をお渡しする訳にはいきません」


 まるでシンデレラの姉様方の様に、二人は麗奈を罵倒する。

 まさかこんな所で嫁姑問題を拝むことになろうとは。

 お前たちは俺の母親か。


「二人共、言い過ぎだ」

「でもお兄だってそう思うでしょ?」

「……まあ未来の主人さんは大変かもな」

「ふふ、やはりお兄様もそう思っていたのですね」


 不適に笑う柚子は見下す様に麗奈を見る。

 そんな視線に当てられて、麗奈は唇を強く結んだ。

 綺麗だった顔は悔しさの余り酷く歪み、エプロンの端を掴む指は、白くなる程強く握られている。

 そんな姿から、彼女の悔しさが嫌という程に伝わってきた。


「麗奈、前回焦がしたから今回は火を弱めて作っただろ」

「……」

「そのせいで今回は全体的に半生になってる、もしかしたら腹を壊すかもしれないぞ」

「……」


 説教なんてらしくないが、麗奈にはきちんとした料理を作ってもらいたい。

 それに俺は、別に麗奈が料理下手とは思わない。

 ただ基本を知らないだけなのだ。


「だから――に期待する」

「……え?」


 そんな俺の一言に、麗奈はその美しい碧眼を丸くするのだった。

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