第33話
翌日の昼休み、俺は白石と二人で屋上にいた。
今日の天気予報は午後から雨と報道されており、今も空は何処までも黒い雲が覆っている。
そんな曇天の下、俺と白石は屋上の入り口の裏手にて放課後の話をしていた。
「いや〜何とかなったよ、舞っち直ぐ帰ろうとするからさ」
「よく捕まえられたな、どんな手口使ったんだよ」
「それは秘密〜」
いつのまにかターゲットの事を『舞っち』と呼ぶ白石は、口元に人差し指を立て小悪魔めいた顔でそういう。
正直そこを掘り下げたい所だが、野暮な散策はよそう。
それにしても流石は白石と言ったところか。
対価はそれなりだが、情報の収集で右に出る者は俺の知る限りまずいない。
もしその矛先が自身にも向いたらと思うとゾッとしてしまう。
「はいこれ、舞っちと
「どうも」
「こっちの貸しはかなり高いよ、何せ個人情報だからね〜」
そういう白石は二枚のルーズリーフを俺に差し出す。
それを受け取ったら、二枚ともじっくりと目を通した。
一枚目は『桜山舞』の、二枚目は『枢木隼人』の簡単なプロフィールが書かれたもので、白石の言う通りこれは完全なる個人情報だ。
二人の身体情報は勿論、性格の方や周りの人間関係など事細かく記されている。
桜山の方は女子の為、一部分からぬように何か細工でもされているかと思ったが、体重もバストもきちんと書かれていた。
因みにそこまでの情報を頼んだ覚えは無い。
こんな事が学校の者に知れれば、俺と白石は即退学だ。
なので白石もこういった話には基本的には応じない。
今回受けてくれたのは、短い間ながらも俺を信頼出来ると判断してくれて特別にとの事だった。
こればかりは本当に感謝している。
「時間は予定通りか?」
「そだね、放課後の体育館裏集合!」
「分かった、因みにもう一つの頼んでた話はどうなった?」
「そっちもばっちりだぜ〜兄貴!」
これで下準備は完了。
後はどう話を切り出すかだが、まあその時にでも考えるか。
そう決めた俺は普段使わない購買で買ったクリームパンを口にする。
砂糖たっぷりのクリームが入ったそれはとても甘く、授業で疲れた脳に糖を送るには丁度良いものだ。
それに放課後には桜山との会談もある。
回らない頭では言質を取るのもままならないし、腹が減っては何とやらだ。
俺は一つ目のクリームパンを食べ終えると、続けて二つ目の袋を開いた。
それを食べ終わる頃には、昼休みの終わりを告げる鐘が校内中に響き渡る。
その音を聞いた俺と白石は、午後の授業の為クラスに戻るのだった。
◇ ◇ ◇
放課後、ホームルームを終えた俺は鞄を肩に掛けクラスを出る。
稀に一緒に下校したりする拓也たちには、今日は予定があると伝えてあるので問題無い。
白石は要件を知っているが、拓也と佐浦には何一つ教えていない。
しかしだからと言って態々内容を聞いてきたりはしない。
そこがあいつらの良いところだ。
下駄箱で靴を履き替えたら外に出る。
皆そのまま校門から校外へと向かって行くが、俺一人は校舎裏の道へと逸れる。
これから向かうのは予定通り体育館の方だ。
見上げてみると、黒い雲からぽつぽつと雨水が降ってきている。
余り長引かせると予報通り雨が強くなってしまう。
俺は少し急ぎ足で目的地へと向かった。
そして走ること数分、漸く体育館裏に着くと、一人の女子生徒が腕を組んで立っていた。
暗めの茶髪を肩上まで綺麗に下ろすその人物は、俺をみると少々苛立ちを見せた。
その反応からみるに、どうやら目的の相手で間違い無いようだ。
「あんたが斉藤?」
「そうだ。悪いな時間作ってもらって」
「まじで早くしてくんない? この後カラオケの予定なんだけど」
そう言った桜山は、組んでいる片腕の人差し指を乱暴に叩いている。
あからさまに早く終わらせろと言いたげなその態度に、少しばかり腹が立つが、雨も先程より強まっている。
ここはさっさと本題に入るとしよう。
「悪かった、俺が聞きたいことはたった二つだ」
俺は指を二つ立てそう切り出した。
そしてここから、言質取りの作戦が開始するのだった。
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