第31話

「――それは間違いなく『舞』って子の陰謀だね〜」


 放課後、俺は帰宅前に新聞部に顔を出していた。


 狭い部屋に大量の本や書類が棚に並べられているその部屋で、中央に置かれる横長の木製でできた一枚板のテーブルで作業をしていた白石は、黒の油性ペンをこちらに向けてそう告げる。


 昼休みに入手した情報を元に、俺は一つの予測を立てた。

 それは『八神桃は舞という女子生徒のとある陰謀で謹慎処分を受けた』だ。


 昼休みに前を歩いていたあの女子生徒たちの話が本当ならこれで間違いないと思っていたが、白石と答え合せをして推測は確信へと変化した。


 後はその謹慎内容なのだが、まだ情報が足りていないものが多く、そこまでは推測出来ていない。

 するとぐるぐると机の回りを歩く俺を見て、白石は自身の憶測を俺に聞かせた。


「斉藤っちが聞いたキーワードから察するに〜、その舞って子が隼人くんの事好きなんでしょ?」

「恐らくな」

「なら内容は分かったよ、これは舞って子の嫉妬によるものだね〜」

「嫉妬?」


 眉を顰め疑問符を浮かべる俺に、白石は得意げな顔を見せる。

 そして手元の白紙を使って、事の詳細を書きながら語り始めた。


「まず初めに出てきたキーワードの『謹慎』だけど、これは八神さんが謹慎処分を受けてたのは私も知ってるよ。例のSNS投稿の件だね〜」

「SNS投稿って?」

「八神さんが蒼井さんの悪評をSNSで投稿してたんだよ。結構酷い事書いてあってさ、それが教師の目に入って即謹慎になったんだよ〜」


 八神はそんな事をしたのか。

 しかし事実なのは確かなようだ、本人も一応認めてはいた。

 けれど動機が分からない、一体どうしてそんな事をしたのか。


「『謹慎』と『投稿』は分かった。後は『舞と隼人』だが?」

「それは単純な内容だよ。多分隼人君が蒼井さんの事を気になるみたいな発言をしたんでしょ。それが気に入らない舞って子は、その蒼井さんの良からぬ噂を広めれば隼人君も諦めると思って、八神さんを利用したんじゃないかな〜?」

「な、何だよそれ……」


 そんなことをさも当然のように白石は言う。

 しかしもし白石の考えが本当だとしたら――。


『私もあの子も――ハメられたってだけよ』


 いや、多分白石の推測は間違っていない。

 八神は舞って奴に利用されたんだ。


 好きな奴のためなら、無関係の人間を巻き込もうと思えるその思考、俺には全く理解出来ない。

 そんな事をすれば、残るのは嘘と罪だけだ。


「……気に入らないな」

「なら償わせる?」

「それを決めるのは八神と蒼井だ、俺が決断して良いものじゃない」

「クールだね〜斉藤っちは」


 俺が出来るのは噂の抹消。

 それだけだ。

 それ以上のことは蒼井は望んでいないだろう。


 しかし面白くない話だとは思う。

 そんな事をした奴が何のお咎めもないまま、呑気に生活しているのは少しばかり腹が立つ。

 せめて証拠になる物さえ残っていれば――。


「なら言質でも取りますか〜」

「出来るのか?」

「舞って子との場は作れるよ。後は斉藤っちが上手いことその子の口を滑らせれば取れるんじゃない?」


 そう言って白石は胸のポケットから小型のボイスレコーダーを取り出し俺に手渡してきた。

 常備してるのかよ。


「けど斉藤っち、この貸しは高く付くよ〜?」

「幾らだ?」

「何でも一つ言う事を聞いて貰おうかな」

「そりゃ高いな」


 白石がどんな事を命じてくるか分からないが、恐らく楽な事ではないな。

 また面倒が増えてしまうが、必要経費だと思って諦めよう。


「仕方ない、それじゃあよろしく頼む」

「あいあいさ〜」


 座りながら砕けた敬礼をする白石を後に、俺は鞄を持って新聞部を後にする。

 そして人の少なくなった校門を抜け、真っ直ぐ家へと帰るのだった。

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