第30話

 翌日の朝、朝食を食べている中ふと思った事を麗奈に聞いた。


「そう言えば昼っていつもどうしてるんだ?」


 麗奈がここに来て数日、必要最低限の物は揃えたが、昼食までは頭が回らなかった。

 俺は基本学食だが麗奈はいつもどうしているのだろうか。


「食べてないわ」

「は?」

「いつも人気ひとけの無い所で、時間が終わるまで待っているの」


 いつもと変わらぬ無表情のまま、麗奈は朝食を食べ進めながらそう言う。

 何だそれは、それでは昼休みは今までずっと食べていなかったとでも言うのか。


 てっきり麗奈の事だから、周囲の女子男子から声が掛かっているものかと思っていた。

 それなのにいつも一人だと言うことは、まさかそれら全てを一蹴していたのか?


「どうかしたの?」

「……いや、何でもない」


 なんて事ない顔でそう言えてしまう麗奈に、俺は少し寂しさを感じた。

 そして麗奈が学校のアイドルなのでは無く、友人も居場所もない『孤独姫』なのだと理解した。


 俺は基本独りが好きだが、それは独りの時間も欲しいという事であって、ずっと孤独が良いという訳ではない。

 俺だって寂しいと思う時もある。


 麗奈もきっとそう感じている筈だ。


 今日の昼は拓也たちに麗奈の所へ行って貰おう。

 俺の方はまた八神に合わなくてはならないから行けないが。


 それにしても――。


「……貴方、今面倒って顔してるわよ」

「ああ、丁度面倒だと思ってた」

「でもその顔、私を助けてくれた時の顔だわ」

「……そうですかい」


 そういう麗奈は少し口角を上げて微笑む。

 その顔に照れてしまった俺は、木製のお椀で顔を隠した。


 俺を弄るときはいい顔しやがって。

 本当、いい性格してるな。


「ご馳走さまでした」

「お粗末さまでした」


 合掌した俺たちは洗い物をシンクに持って行く。

 それを洗ったらいつも通り靴を履き、二人で玄関を出るのだった。



 ◇ ◇ ◇



 普段通り午前の授業を受けて昼休み、俺は昨日と同じく授業終了の鐘と同時に立ち上がった。

 目的は勿論、八神との接触だ。


 今回は聞けなかったビッチの由来を聞くつもりだ。

 そう思いA棟の廊下を歩いていると、こちらに歩いてくる女子たちの会話が耳に入り、その内容に足を止めた。


『八神さん、やっと謹慎終わったんだ。ちょっと可哀想〜』

『いや絶対思ってないでしょ?』

『あはは、バレた?』


 女子生徒二人が愉快に話してるその内容に耳を向ける。

 八神が謹慎?

一体どういう事か。


 俺はその女子二人に気づかれぬ為に、スマホを弄るふりをして後を追う。

すると女子たちは歩きながら話を続けた。


『まあ教師に稿を見られたらそうなるよね』

『バレたのが私たちじゃ無くてホント良かった〜』

『それにしても舞も良くやるよね、幾ら隼人くんの為とはいえさ』


 その後も二人は話していたが女子トイレに入ってしまい、聞き取れたのはそこまでだった。

 しかし収穫はあった。


 謹慎、あの投稿、そして『舞』と『隼人』。

 これから予想できるのはたった一つ。

 それは――。

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