第29話

「……ハメられた?」

「そう」


 退屈そうに話す八神に俺は再度聞き返す。

 ハメられたとはどういうことか。

 それも蒼井だけではなく、八神自身もとは一体――。


「これ以上は追加料金を頂くけど?」


 空のプラスチック製の容器を俺に向けて八神はそう言った。

 これ以上は予算オーバーなので、続きが気になる所だが今回は見送ろう。


「……分かった、今日は話してくれてありがとな」

「タピオカの為だもん」

「ブレねぇな」


 そう言って八神はゆっくりと立ち上がる。それに続いて俺も腰を上げ、二人で駅の方へと歩き出した。


 今回分かったことは蒼井奈帆のあだ名の名付け親はという事だ。

 何故一応なのか、それはその八神本人が何処か他人事の様な態度を取っているからだ。


 それに最後に言っていた『嵌められた』という発言がどうしても気になる。

 そこさえ分かればこの噂の真相にたどり着けるはずだが――。


 しかし蒼井の悩みというのはビッチ呼ばわりの改善であって、犯人探しでは無い。

 そこだけは絶対に履き違えてはいけないのだ。


「あんたもこっちなの?」

「いや、あっち」


 八神が指差す方向とは真逆の方に指を差す。

 すると『あっそ』と一言口にした八神はすたすたと歩いて行く。

 そしてそのまま改札の方へと向かっていった。


 俺はその後ろ姿を見送った後、駅の外に出て自宅の方へと歩き出す。

 そしてイヤホンを耳に付けて、八神との会話を思い出した。


 蒼井のあだ名は何者かの陰謀によって付けられた。

 そして八神もそれに巻き込まれた。

 そう捉えられるような内容だった。


「そういやビッチの理由を聞き忘れたな」


 一番重要視していたものを聞き忘れるとは、俺も抜けているな。

 これは聞いておかねば根本的に解決するのが難しいかも知れない。


 また明日八神に聞くしか無いか。

 その時はまたタピオカドリンクを持っていかねばならない。

 出費が嵩むな。


 そんな事を思いながら、俺は家路につくのだった。

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