第27話
あれから次の日、体調が回復した俺はいつも通り学校に来ていた。
今は四限の終わり頃で、昼休みにはやる事がある。
蒼井にあのあだ名を付けた張本人、八神桃に会いに行かなければならない。
話によれば八神がいるのは反対側のB棟にあるクラスだ。
授業の合間に向かっても時間が足りないので、会うならこの昼休みしか機会がない。
どうして蒼井にあんな名を付けたのかは分からないが、それは本人に直接聞けば良い事。
そう考えていたら、授業終了のチャイムが校内に鳴り響く。
その音と共に、俺はゆっくりと席から立ち上がるのだった。
◇ ◇ ◇
「……何か用な訳?」
「はあはあ……探したぞ」
普段使われることの無い非常階段で、炎天下の中俺は息を荒くして桃色の髪の少女――八神桃にそう言い放つ。
実は八神を見つけるまで俺は校内をひたすら駆け回っていた。
授業終了と同時に俺は直ぐにクラスを離れ、反対側のB棟へと向かった。
そして八神桃がいると聞いていたクラスを訪れたのだが、その姿は何処にもなかった。
仕方無しにそのクラスの奴に聞いてみると、どうやらこの時間はいつも一人で何処かへといなくなるらしい。
つまるところそのせいで俺は会えなかったのだった。
その後は本当に大変だった。
校舎内は勿論、外に設置されてあるベンチや屋上など、めぼしい所は全て回ったが八神の姿は何処にもなかった。
昼休みの残り時間が後僅かになり、諦め掛けていたその時、非常階段に人影を見つけた。
そこにいたのが八神桃だったのだ。
俺は乱れた息を整えて八神桃を見やる。
桃色のショートカットの髪で小柄なその体格は、下手したら中学生かと間違われる程に幼く映る。
しかしその攻撃的な視線を送ってくる赤い瞳や、堂々たるその態度からはとても幼さを感じさせない。
そんな八神桃は俺を見ながら少々苛立っている。
しかしその苛立ちは俺に対するものではない。
何故ならここに来た時から、八神桃は機嫌を悪くしていたからだ。
「探したって何、てかあんた誰よ?」
「俺はA棟の斉藤だ。今日は少し話が聞きたくてな」
「私の方は無いんだけど?」
「勿論タダでとは言わない」
そう言って俺はスマホをズボンから取り出し、とあるサイトを開いて見せる。
するとしかめっ面だった八神は、その画面を見た途端目の色を変えた。
「もし話を聞かせてくれるなら――ここのタピオカミルクティーを一杯奢ろう」
「え!? これって最近駅前に出来たとこじゃん! 美味しいって有名なとこよね!?」
「ああ、だから話を――」「いやー丁度気になってたのよね〜、タダで飲めるとか超ラッキー!」
余程嬉しかったのか俺の言葉などいざ知らず、八神は今日の放課後の予定をスマホに打ち込む。
打ち込み終わると、今度は荷物をまとめて教室の方へと走り出した。
「放課後終わったら駅前で集合ね〜」
「お、おい!」
「あんたも早くしないと遅刻するよ〜」
そう言われ俺はスマホで時間を確認する。
するといつのまにか昼休みが終わる一分前となっていた。
俺はすぐさま走り出し、自分のクラスへと向かうのだった。
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