第21話
「今日は大人しくしてなさい」
「……分かったよ」
次の日の朝。
制服姿の麗奈は、ベッドで寝ている俺にそう告げて部屋を後にした。
俺はそんな後ろ姿を見届けながら、壁に掛けてある時計を見やる。
時刻は七時丁度。
普段なら家を出る時間だが、今日の俺は未だ寝間着姿だ。
理由は勿論、風邪の悪化のせいである。
今日も一応学校に行く予定ではあったのだが、麗奈に行くのを止められた。
無理矢理にでも行こうかと考えたが、間違いなく麗奈の機嫌を損ねるので黙って布団に入った。
すると麗奈は『今日はこっちで寝なさい』と普段自分が使っているベッドを指を差す。
麗奈曰く、寝心地はこちらの方が良い筈との事なので、俺は麗奈の指示通りベッドに横になったのだった。
「結局全然寝れなかったな……」
そう呟きながら、俺は昨日の事を思い出すように目を瞑るのだった。
◇ ◇ ◇
麗奈に膝枕して貰った後、俺は何も口にせず直ぐに布団に入った。
どうやら俺の分のカップ麺は麗奈が伸びる前に完食したらしく、無駄にはなっていなかったの事だ。
というか自分の分も食べているのを見るに、かなり空腹だったのだろう。
しかし布団に入るにしてもまだ二十時で、仮眠した俺は少しばかり元気が余っている。
だからといって布団から出る訳にはいかないので、スマホで時間でも潰そうかと思っていると、麗奈が横から声を掛けてきた。
「そういえば貴方の連絡先、まだ教えてもらってないわ」
確かに言われてみれば教えていなかった。
そう思い俺はスマホのSNSアプリの画面を開く。
これから麗奈と暮らすにしても、何かあった時連絡出来ないと困る事が出てくるかもしれない。
そう思えば連絡先の交換は必要な事だ。
俺は友達追加の画面に切り替えて麗奈を待つ。
すると麗奈が何の操作も行なっていない事に気付いた。
「何してんだ?」
「どうやってやるのか忘れたわ」
「……貸せ」
麗奈から林檎のマークが入ったスマホを受け取る。
俺と同じ機種なので、操作などで手間を取ることはなかった。
友達追加の画面にしたら、俺のスマホのQRコードを麗奈の方で読み取る。
後は麗奈にメッセージを送って貰えば完了なのだが、俺は麗奈の友達の人数を見て絶句した。
(と、友達の数……一人?)
友達の欄には『母』と書かれたアカウントの一つしか無かった。
まさか友人と呼べる人間がいないというのは本当だったのか。
今更だがプロフィール画像をツーショットの物に変えると脅されたが、これなら全くダメージは無いではないか。
よくも堂々とあんな事が言えたものだ。
「……ほれ、後はそっちからメッセージくれ」
「分かったわ」
俺はスマホを持ったまま麗奈のメッセージを待つ。
すると直ぐに『rena』と書かれたアカウントから『こんばんは』というメッセージが届いた。
そのアカウントを登録したら、俺たちの連絡先の交換は無事終了だ。
「このプロフの画像ってミケか?」
「そうよ」
麗奈のプロフィール画像はこの前買ってやった猫のクッション、通称ミケの画像だった。
プロフ画像にしてる辺り、相当気に入っているのだろう。
ここまでされると俺も買ってやって良かったと思える。
そんな事を思っていると、麗奈のスマホからシャッター音と共にフラッシュがこちらに飛んできた。
「何すんだよ」
「メッセージの背景を貴方の画像にしようと思って」
「何だそれ……」
そういった麗奈は早速背景を変えたトーク画面を俺に見せてきた。
いきなり撮られて中途半端な顔をしている自分の画像に少し不満を持つ。
どうせ使われるならもう少し決まった顔をしているものが良かった。
「貴方も私を背景にする?」
そういった麗奈はお手本のような正座をしてこちらを向いた。
凛としたその姿は、まるで証明写真を撮る時のようだった。
「面接かよ……」
「ならこれをあげるわ」
その言葉とともに一通のメッセージが再び届く。
開くと一枚の画像が送られていた。
その画像はいつぞやの脅迫に使用された俺たちのツーショットだった。
「まだ持ってたのか」
「結構可愛く撮れていると思わない?」
そう言われると確かに良く撮れている。
というか麗奈の場合は、元が可愛いのでどう撮っても上手く撮れるのではないのだろうか。
しかしそう思えるくらいにこの写真は良く撮れていた。
全く、消せといっただろうに。
しかし残っていたのなら仕方ない。
お言葉通り使わせてもらおう。
俺はその画像を麗奈とのトーク画面の背景に設定する。
それで漸く作業は完全に終了した。
その後俺たちはお互い床に着いた。
暗闇の中、耳をすますと『すぅすぅ』と麗奈が寝息を立てている。
どうやら直ぐに寝たようだ。
俺は麗奈に見つからぬ様にスマホを弄る。
そして麗奈とのトーク画面を再び開いた。
まだ全然やり取りを行なっていないので、あるのは麗奈からの『こんばんは』のメッセージ一つだけだ。
しかしそれよりも、俺は背景の画像に目を向ける。
寝ている俺の横で、嬉しそうな微笑みを浮かべる麗奈が映ったその画像を見て、俺は口角が少々上がる。
そして心の中で、しみじみと思った。
――マジで可愛いなこいつ。
そう思いながら、気が付くと俺は朝までその画面を見続けていた。
その結果風邪は悪化した。
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