第19話

 落ち着きを取り戻した金髪少女と共に、俺は学校を出て近くの喫茶店に入った。

 下校時間はとっくに過ぎており、窓の外からは夕焼け空が広がっている。


 落ち着いた雰囲気のあるお店を選んで入ったはいいが、金髪少女を見た他の客は皆不安な顔をしていた。


 本人には悪いが確かにその不良じみた姿では皆警戒してしまうのは仕方ない。

 マスターに至っては何か起こすのでは無いのかと、顔を青くしていた。


 そんな目を向けられながら俺たちは一番奥の席に腰掛け、頼んだコーヒーを待った。

 その間に俺は目の前の金髪少女に目を向ける。


 綺麗だった金髪は乱れ、目縁は赤く跡になっている。

 そして何より先程からずっと黙ったままだ。


 恐らく俺に泣きついた事と、怪我をさせた事に負い目を感じているのだろう。

 そして自身の悩みも混じっていて、今は心が不安定な状態になっている。


 もしここに拓也がいるのなら、金髪少女が自分から口を開くまであいつは待つだろう。

 それが出来る男の気遣いというものだ。


 しかし俺は声をかける。

 それも態と怪我の事を強調して。


「あー痛ぇなあ、超痛ぇ」

「わ、悪かったって……」


 俺の言葉に金髪少女は暗い表情を見せる。

 そうだ、これでいい。


 今のこいつは色んな悩みで脳内がぐちゃぐちゃだ。

 ならばそれを減らしてやればいいだけの事。


 まずは俺に対する負い目を解消して、残った悩みの解決を手伝えば良い。

 そうすれば全て無くなってこいつも悩みから解放されるだろう。


 負い目の解消は簡単だ。

 ただ俺が『許す』と言えば良いだけの事。


 しかし俺は少々意地悪をしてやる。

 だってまだ頭が痛いんだもん。


「これは取ってもらわなぁとなあ」

「……分かったよ」


 よしよし、もうこいつも反省しているだろうからここら辺で――。


「金は無ぇから、か……身体で払うよ」

「は!?」


 そう言った金髪少女は、今にも泣きそうな顔でシャツのボタンをゆっくりと外し出した。

 それを俺は急いで止めさせる。


「何してんだ!?」

「あ、あんたが責任取れって言うから……」

「どんな取り方だよ!?」


 一瞬本当にビッチなのかと思ってしまった。

 しかしそれよりも俺は大勢の周りの視線に気付く。


 店内を見渡すと俺たちのやり取りを見ていた者が沢山いたらしく、皆小声で話していた。


『ここで脱げだなんて、もしかしてあの金髪の子虐められているのかしら?』

『金髪の子顔は良いからきっとそうよ、可哀想に……そして最低ねあの鬼畜屑男』

『こ、こんな所で脱がせるとは……もしかして羞恥プレイか!?』


 一人を除いて、皆俺に冷ややかな目を向けてくる。

 もうここでは完全に俺が悪者扱いされてしまった。


 というか最後の奴誰だよ。


「と、兎に角さっきのは無しだ。欲しいのはお前の身体ではなく、悩みの話だ」

「あ、あたしってそんなに魅力無いかな……」


 今度は寂しそうな表情を金髪少女は見せる。

 それを見た周りの客たちは、再び俺に小言を言っている。


 本当に面倒な場所に来てしまった。


「……そんな事ねぇって、十分魅力的だ」

「どこら辺が?」

「い、言わせるのかよ!」

「いいから! どこら辺?」


 不安そうな顔をする金髪少女は、俺の言葉に必要以上に反応した。

 一体どうしたというのだ。


 それにしても何処がと聞かれると答えに困ってしまう。

 そう思いながら俺は再び金髪少女を見る。


 周りが言っていたように、金髪少女の容姿は控えめに言ってかなり良い。


 モデルをやっていると言われても違和感のない程すらっと伸びた手足。

 地毛であろう美しい黄金の髪も相まって、人を惹きつけるには十分な力がある。


 そして一番の見所は、圧倒的な大きさのその胸だ。

 麗奈も十分な大きさだが、こいつのはもっと大きい。


 恐らくG以上はある。


 ここで『お前のその胸だ』何て言ったら殺されるな。

 なので他に褒める所としたら――。


「……その金髪とか」

「!」


 もうこれしか無かった。

 胸は勿論セクハラだし、顔はもしかしたら勘違いされてしまうので言えなかった。


 髪なら褒めても大丈夫だろうし、社交辞令でも良く聞く。

 これなら異性が褒めても、勘違いされはしないだろう。


 それにこいつの髪は本当に綺麗だと思った。

 今は乱れているが、一本一本丁寧に手入れがされており、枝毛などが全く見られない。


 相当気を遣っているのだろう。

 それが伝わってくる程、兎に角綺麗だった。


「そ、そっか……えへへ」

「どうした?」

「べ、べべ別にあたしの髪を褒めてくれたのがあんたが初めてだったから、嬉しかったとか……そういうのじゃねぇし!」

「……悪い何て?」

「な……何でもねぇよ!」


 先程までしょんぼりしていたのに、今度は大声で怒りだした。

 女と言う生き物は本当に分からないものだと思ってしまう。


 しかし一先ず金髪少女の機嫌が元に戻ってくれて俺は安心する。

 これで漸く話ができるのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る