第18話

「い、良いのかよ……これを学校の奴らに見られたら大変なことになるぞ!?」


 金髪少女は俺に画像を見せつけてそういう。

 こいつの言う通りそんな事をされれば、俺はこれから毎日男子生徒全員に追われる日々を送る事になる。


 しかしここで怯んでは折角奪った主導権が台無しになってしまう。

 ここは虚勢でも良いから強気で行こう。


「だ、だから好きにしろって」

「ここだけじゃねえ、他の学校にだってお前たちの事が知れ渡るんだぞ!」

「べ……別に構わん」

「く……ぅ!」


 俺の強気な言葉に、金髪少女はもう手立てがないのか遂に黙ってしまう。


 良かった、これで後はこいつがばら撒かない様に誘導すれば――。


「う、うう――うわああああ!」

「うおっ!?」


 黙っていた金髪少女は、突然勢い良く俺に向かってタックルをしてきた。

 予想外の出来事に俺は対応出来ず、そのまま二人で地べたに倒れこむ。


 強く頭を打ってしまい視界がぼやける。

 病人相手に容赦無いなと金髪少女に目を向けると、俺の胸元に顔を押し付けていた。


「お、おい」


 声を掛けても返事が無い。

 まさか先程のタックルで意識を失ったのかと思い肩に触れようとする。


 しかし金髪少女が顔を埋めているシャツの辺りが、じんわりと湿り出した。

 それに気付いた俺はそのまま静止する。


「な、何でびんな……あだぢをビッヂあづがいずるんだよ……」

「……」

「あだぢ何もじでねぇよぉ――!」


 鼻水を啜り、金髪少女は呻く様な声でそう叫ぶ。

 その姿を見るに、金髪少女は今とても苦しんでいる事が伝わってきた。


 言動から察するに、悩みの種は恐らく周囲からの『ビッチ』呼ばわりだろう。


 良くも悪くも周囲の目を惹く金髪と、少し着崩した制服。

 これだけでも印象ははっきり言って良いものでは無い。

 俺も最初の印象はマイナスだった。


 しかし本人曰く、自分は何もしていないらしい。

 これはもしかしたら何か裏がありそうだ。


 そして一つだけ引っかかる事がある。

 どうして『ギャル』では無く、『ビッチ』なのか。

 普通ならギャルという印象を抱くと思うのだが、どうやらそう呼ばれていないようだ。


 そこだけがどうしても分からない。


(はあ……面倒な事に巻き込まれちまったな)


 直ぐにでも話を聞きたい所だが、しかし今はこのままそっとしておいてやろうと思う。

 この状況でこいつが冷静に話せるとは思えない。


 俺は金髪少女の頭を優しく撫でる。

 それに驚いたのか、金髪少女の身体がぴくりと跳ねた。

 しかし俺はそのまま続ける。


「今はいい、後で話を聞かせろ」

「う、うぐぅ……!」


 そう言った後、金髪少女は再び俺の胸元に顔を強く埋めてくる。

 そして声を出さぬように、金髪少女は必死に咽び泣いた。


 彼女の事を阿呆だと言っているが、俺も中々に阿呆だ。

 困っている奴を見てしまうと、自然と身体が勝手に動き出してしまう。


 そんな事を考える俺は、金髪少女の綺麗な金髪をゆっくりと撫でながら、聞かれないように嘆息を吐くのだった。




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