第17話
「さ、佐浦!?」
「ナイス茜! 私もそれ聞くつもりだったの!」
「はは……佐浦さんもスイッチ入っちゃったか」
佐浦は麗奈を見つめ、俺はその佐浦に驚く。
白石はメモ帳とペンを持って麗奈の返事を待ち、腹を抑えている拓也は苦笑していた。
どうして佐浦がそんな事を言い出したのかは分からないが、白石の方は前に一度流れた噂『斉藤衛介は銀麗奈の彼氏説』からの事だろう。
これは一度俺と麗奈が一緒に登校したという事から流れたものである。
勿論その噂はデマだ。
白石としては『あの銀麗奈に男?』という記事がもし書ければ、間違いなく注目を浴びると考えての行動だろう。
流石新聞部期待のエースと言われている事だけはある。
そんな事を考えていると、いつのまにか麗奈に見つめられていた。
その視線に気付いた俺は堪らず目を逸らす。
結局俺は先程の麗奈の言葉がまだ忘れられずにいた。
割り切ったつもりだったのが、麗奈の顔を見ると思い出してしまう。
その所為で麗奈の顔を今はまともに見れない。
頼むからこれ以上俺にダメージを負わせないでくれ。
「そうね、好きかどうかと聞かれたら――好きよ?」
「な!?」
その麗奈の発言に俺たちは騒然とする。
まさか何の迷いも無く『好き』と答えるとは思っていなかった。
やばい、脳が熱を持ち過ぎてオーバーヒートを起こしそうになっている。
今はもう意識を保つのに精一杯だ。
「『転入生、あの銀麗奈に好印象! やはり噂は本当か?』……これはいい記事が書けそうね!」
「衛介、お前転入早々人気のある者だな」
「……やかましい」
白石は楽しげにメモ帳に記事の内容を書いていき、拓也は面白い物を見た顔で俺を見ていた。
覚えておけよ白石と拓也。
体調が戻ったら絶対何かの形でやり返してやる。
「そ、それでも負けません!」
「あら、ふふ」
小柄な佐浦は立ち上がり、麗奈を見てメラメラと闘志を燃やしている。
俺たち以外にこれ程感情を露わにしたのは初めて見た。
そんな佐浦を見て、麗奈は何処か嬉しそうに笑う。
まるで初めて出来た友人とのお喋りを楽しんでいる様に見えた。
きっと麗奈も、ここまで人と仲良く話した事が無かったのだろう。
今はとても楽しそうだ。
もしかしたら佐浦と麗奈はいい友達になれるかもしれない。
これからもお互い仲良くやってほしいと思う。
「……けどもう限界」
「さ、斉藤君!」
机に突っ伏す俺に、佐浦は大きな声で俺の名を呼んだ。
その声を最後に、俺は意識を失ったのだった。
◇ ◇ ◇
目を覚ますと、見慣れない天井が目に入る。
腹の上には白い布団が掛かっていて、俺はベッドに横になっていた。
どうやらここは保健室の様だ。
時計が近くに無い為時間は分からないが、かなり寝ていたのか今は多少身体が軽い。
熱も下がっているので、俺は現状を知る為カーテンの仕切りを開いた。
「おっ、目覚めたか?」
カーテンを開いた先には一人の女子生徒がいた。
どうやらその少女は俺が起きるのを待っていたらしい。
良くも悪くも人目につく金髪の少女は、いつか出会った阿呆少女だった。
どうしてここにいるかは知らないが、俺はその顔を見てから態と大きな嘆息を吐いた。
「な……何だよ!」
「いや、面倒な奴に捕まったなと」
「本人の前でそういう事いうな!」
病室だというのに金髪少女はぎゃあぎゃあと大声を上げる。
その甲高い声が頭の中で響き、頭部に痛みが走った。
「悪かったから静かにしてくれ……」
「あ、すまん……ってあんたが怒らせたんだろ!」
「分かったから、それで何の用だよ?」
頭を抑えながら俺は金髪少女にそう問う。
態々俺が起きるまで待っていた程だ。
一体何の用があるというのか。
「あんたこの前、私のことをビッチじゃないって言ったよな?」
「そうだっけか?」
「そ、そうだよ! だからあんたには私がビッチじゃないという事を奴らに伝えて欲しいんだ!」
「……は?」
目の前の金髪少女の言葉の意味が分からず、俺は呟く様にそう言った。
一体何を言っているんだこの金髪少女は。
「だから私がビッチじゃない事を、学校のあいつらに証明してくれ!」
「悪りぃ帰るわ」
「ちょ!?」
俺は金髪少女の脇を抜けて保健室を出ようとする。
しかしこの前とは違い、金髪少女は俺の腕を掴んできた。
「何だよ……」
「あんたこれ見てまだそんな事を言えるか?」
そういって金髪少女はポケットからスマホを取り出す。
そして一枚の画像を俺に見せつけてきた。
「ほれ、これをばら撒かれたく無いだろぉ?」
そこには今朝のものであろう、俺と麗奈が並んで歩いている姿が映っていた。
後ろ姿ではあるが俺たちの横顔が写っているので、証拠としては十分だ。
目の前の金髪少女はスマホを揺らしながら煽る様に俺を脅迫してきた。
その姿に俺は呆れてしまう。
恐らくこいつは脅迫が成功したと思っているのだろう。
このままこいつの言いなりになれば、今後も上手いこと使われる事は間違いない。
そうなれば俺は一生こいつの奴隷だ。
なので俺は賭けに出る事にした。
はっきり言ってこれは少し危険だが、俺の予想が正しければ間違いなく勝てる勝負だ。
何故ならこいつは阿呆だから。
「好きにしろ」
「え……」
「ばら撒きたければ好きにしろ」
「う、あ……え?」
俺の反応が意外だったのか、金髪少女はまごつく。
しかし俺はその反応に確信した。
――やっぱこいつ阿呆だな。
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