第14話

 夕食後、最早日常と化した交代での入浴を行う。

 今回は俺が先に入ったので、今は麗奈が入浴している。


 今度から風呂の順番も一週間で交代する事になった。

 俺としてはどちらでも良いのだが、麗奈は自分がいつも先なのが気になる様だ。


 確かに家主を差し置いて先に入るのは気が引けてしまう。

 同じ立場なら俺もそう思う。


 自分の家だと思ってくれとまでは言わないが、風呂と寝る時くらいはゆっくりしてほしい。

 なので俺は麗奈の提案を呑んだ。


「にしても料理が苦手とはな」


 ベッドで横たわる俺は毎度お馴染み、イヤホンを耳に曲を聴いている。

 今回はこの前と同じミスをせぬよう音量は下げている。


 正直あのオムライスを食べてから少し体調が悪い。

 それもそのはず、外側のオムレツは焦げの塊だったんだ。

 身体に良いわけがない。


 しかしここで不調を晒しては、麗奈が気に病んでしまう。

 何とかして上手いこと隠さなければ。


「上がったわ」

「お、おう――って」


 髪をタオルで乾かしながら麗奈はクッションに座る。

 そんなごく当たり前な行動に俺の体は固まった。


 正確にはその格好に固まった。

 それは今日の昼に二人で選んだパジャマだった。


 麗奈が少しでも過ごしやすい様にと選んだのは良いが、男の俺からすれば目に毒な格好だ。


 実際今も何処に目を向ければ良いか分からない程である。


 張りのあるその白い脚に吸い寄せられて目が離せない。

 まるで鉄を引き寄せる磁石の如く、俺の眼球はあの美しい脚へと引き寄せられた。


 特にあの太腿は強い磁場を発生させている。

 あれを見てから眼球を逸らしても、強烈な引力で引きつけられる。


 これからあの格好を数ヶ月見ると思うと、気が休まらないのは俺かもしれない。

 そんな事を思いながら、俺はちらちらと麗奈の太腿を盗み見ていたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 休日も終わって今日は月曜日。

 俺たちは並んで登校していた。


「いいか、俺たちの事は他言無用で頼むぞ」

「分かったわ」


 歩き慣れた住宅街の道中、俺は麗奈に口を酸っぱくしてそう言う。

 絶対に起きて欲しくないのは俺たちの関係の漏洩ろうえいだ。


『学校一の美少女と同居している』など、バレたらどんな事が起きるか分からない。


 間違いなく全男子生徒の標的になるだろう。

 下手したらファンの奴らに命を狙われるかも知れない。


 兎に角それだけは阻止せねばならない。


 そうこうしていると、人通りの多い道に出そうになる。

 その手前で俺たちは足を止めた。


「これからはここで別れよう」

「分かったわ」


 登校も極力別れて行う。

 二人で歩いている所を見られれば、また別の面倒事が増えるからだ。


 前に一度見つかった時は大きな騒ぎになってしまった。

 もしもう一度起きようものなら、今度は疑いの目を向けられてしまう。


 そうなった時は、下手したら俺か麗奈がストーカーされるだろう。

 それが一番有効的な確認方法だからだ。


 可能性が高いのは俺の方か。

 それも勿論絶対に阻止せねばならない事だ。


 俺は麗奈から離れ、少し遠回りの道を歩く。

 麗奈にはいつも通りの最短ルートで向かってもらう。


 少し学校に着くのが遅れるが、それでも時間には間に合う距離だ。


 朝机でゆったりするのと、麗奈との関係がバレる事なら、喜んで遅刻ギリギリの道を選ぶ。

 もうあの質問攻めは懲り懲りだ。


 それにしても身体が重い。

 まるで重りをつけている様な感覚だ。


 麗奈には何としてもバレないように振舞っていたが、体調は最悪で身体がふらつく。

 恐らく風邪を引いたのだろう。


 最近は冷水をよく浴びる事が多かったからな。

 まあ決め手は昨日のオムライスだと思うが。


 今日は朝から保健室で休ませてもらおう。

 帰る前まで休めば治る筈だ。

 そう思いながら、重い身体を何とか前に進める。


 そんな状態の所為で俺は、背後にずっと居たに気付けずにいたのだった。


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