第9話

「さっきも言ったが我儘文句、両方禁止だ」

「分かったわ」


 部屋に入った俺たちは、部屋の中央に位置するテーブルで円卓会議を行なっている。


 結局のところ、俺はもう一泊を了承したつもりだったが、麗奈曰く家出期間中の宿泊との事だった。

 まあ話を最後まで聞かなかった罰だと思うしかない。


 それにどうせ麗奈の事だ。

 ここで断っても次の日も玄関前で待ち伏せるのだろう。

 もうそんな姿は見たく無い。


 そんなこんなで夕飯時になる。

 細かい話は食事をしながらでも出来る為、俺は一度キッチンに向かった。


 因みに夕食の担当も今度からは分担して行うつもりだ。

 幾ら美少女の同級生とは言え、居候には変わらない。

 やる事はやってもらおう。


 そんな考えを浮かべながら、出来上がった食事を円卓に運ぶ。

 綺麗に並べたら合掌して夕食の開始だ。


 しかし合掌をして束の間、俺は麗奈の行動に青筋を立てる。


 今日の夕飯は野菜炒めにした。

 数種類の野菜が入った野菜ミックスなるものが売られていたので、今回はそれを使って作った。


 その為好きな野菜もあれば、嫌いな野菜も勿論入っている。

 麗奈はその嫌いな野菜を丁寧に皿の上で弾いていた。


「子供か!」

「これだけは絶対に許せないわ」


 キャベツや人参などの比較的食べやすい物は大丈夫の様だが、苦味の強いピーマンだけは見つけた瞬間、親の仇の様な形相で野菜集団から引き抜きを行なっていた。


 ピーマンがお前に何をしたと言うんだ。

 というか早速我儘してるではないか。


 そんな弾かれたピーマン達は、皿の端っこに山になっている。

 それを見ていると何だが妹達を思い出してしまった。


 妹達も嫌いな野菜があり、それは麗奈と同じくピーマンだった。

 毎度食事に出る度に、皿の端に寄せる作業を真っ先に行っていたのは記憶に新しい。


 そんな妹達にどうにかしてピーマンを食べて欲しい両親は、妹達の好物に混ぜ込んだりと工夫を施していた。


 その功が奏したのか、いつしか妹達はピーマンに苦手意識を持たなくなっていた。


 俺も麗奈には是非ピーマンを食べて欲しい。

 このまま大人になって、ピーマンで困る姿は何となく見たくないからだ。


 しかしこの形相。

 相当嫌悪している。

 もしかすると簡単な話ではないかもしれない。


「そんなに見つめて……食べたいの? 仕方ないわね、私の分をあげるわ」

「おま、押し付けんな!」


 麗奈を見ていたら、何やら俺がピーマンを物欲しそうに見つめていると勘違いされた。


 山になったピーマン達は、麗奈の手によって無事俺の皿に着地する。

 その山を見て俺は深い嘆息を吐く。


 これ以上ピーマンの事で時間を取られていては進むものも進まない。

 今は麗奈の苦手食材に目を瞑り、今後の方針を固めることを先決にしよう。


「これからは共同生活になるが、お前は居候な訳だ。ある程度家事は行なってもらう」

「分かったわ」


 明日は休日だ。

 麗奈がどれ程家事が出来るのかは未知数。

 それを測るには絶好の機会だ。


 しかし寝具などの生活用品がこの部屋には俺一人分しか存在していない。

 恥ずかしい話、来客用の布団すら無いのだ。


 まずは生活用品から揃える事にしよう。

 無論費用はそこまで出せない。

 何故なら俺の実費での負担だからだ。


 それに何度も言うがどんなに外見が良くても俺は騙されない。

 あいつは居候だ。

 女の子に優しくするが、それとこれとは話が別だ。


「明日は必要な物の買い出し、その後は家事をやってもらうからな」

「任せて頂戴」


 そう答えながら、麗奈は無表情のまま食事を続ける。

 この様子だと心配する事はどうやら無さそうだ。


 そう思いつつ、俺も食事を再開する。

 しかしその直後、無表情を維持したままの麗奈の発言に、俺は口内の白米を吹き出した。


「そう言えば私、今履いてるパンツしか下着が無いのだけれど」

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