第7話

 玄関前で座り込む銀髪少女は、俺に気付くとお尻を摩りながら立ち上がった。


 どうやら学校が終わった後に直ぐにここに訪れ、俺が帰るまでここで待っていたらしい。


「遅かったわね、お尻が痛いわ」

「知らん、それより何の用だ」

「あなたに話があるの」


 そういった麗奈の表情は、普段の無表情とは違い少し緊張していた。

 頬は強張り、青い瞳はどこか弱々しく映る。


 そんな様子に俺は真剣な話だという事を理解する。

 そして麗奈の準備が整うまで、無言で言葉を待った。


 大きく深呼吸し、息を整えた麗奈は、その口から言葉を紡いだ。


「衛介、私を貴方の……」

「断る」


 しかしその途中で俺は麗奈の言葉を切った。

 予想外の出来事に驚愕する麗奈だが、話を切られて不満げな表情を見せる。


「……まだ言い切っていないのだけれど?」

「何を言われるか何となくわかる、断る」


 夕日に照らされた男女二人が、真剣な眼差しで互いを見つめ合う。

 何ともロマンチックなこの状況で、放たれる言葉など限られてくる。


 大体は恋愛絡みのものだろう。


 しかし俺が麗奈と出会ったのは昨日だ、。

 昨日の今日で恋愛感情が湧くなどあり得ないし、そこまで仲良くなった覚えは無い。

 となると、残る選択肢は『頼み事』しか無くなる。


 とはいっても出会ってまだ日が浅く、頼める事などせいぜい小銭を借りるくらいだろう。


 しかしそんな中、俺と麗奈は特に仲の良い友人同士でしか行わない行為をしている。


 それをもう一度する為に、麗奈はうちの玄関前で待機していた。

 因みに内容は態々言葉にするつもりは無い。


「そう、残念だわ」


 俺の答えに麗奈は目を伏せる。

 すると今度は胸のポケットからスマホを取り出し、一枚の画像を見せてきた。


「ならこれを明日、SNSのプロフ画像にするわ」


 そこには俺ががっつり寝ている姿が写っていた。

 夏用の薄い掛け布団を掛け、気持ち良さそうに寝ている。


 それはまだ良い。

 問題なのは横に写っているもう一人の人物だ。


 白髪とは違い、一本一本艶のある銀髪。

 深海の様に美しく、不気味ながらも人を魅せる力を持つ碧い瞳。


 それらを併せ持つ学校一の美少女と謳われる銀麗奈が、俺の腕に頭を乗せて笑顔で写っていた。


「こ……これは?」

「この笑顔を作るのに苦労したわ」

「消せ、今すぐ消せ!」


 俺は大声を上げて麗奈に言い放つ。

 声は反響し、廊下の奥の方まで響き渡った。


 そんな声を至近距離で受けた麗奈だが、涼しい顔をして話を続ける。


「ならこのスマホを奪って消したら?」


 すると麗奈はスマホの電源を落とし、再び胸のポケットに仕舞った。


「さあ――どうぞ?」


 そう言った麗奈は俺を煽るかのような表情で、両手を広げて挑発してきたのだった。

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