第6話

 朝から散々な目にあった俺は、道中にあるコンビニで買い食いしながら下校していた。


 ホットスナック片手にのんびり歩いていると、昨日麗奈と出会った小さな公園が目に入る。


 今日は子供達が遊んでおり、麗奈が座っていた遊具もきちんと使用されていた。


 そんな賑やかな公園を見ながら、俺は麗奈の事を事を思い出す。

 昨日は俺の家に泊めてやったが、あの調子だと恐らくまだ家出は続くのだろう。


 そうなると次の宿を探す必要がある。

 麗奈はこれからどうするのだろうか。


 しかしそれは彼女が決める事。

 俺が何を考えても意味など無い。


 それに麗奈なら友人などの当ては幾らでもいるだろう。

 初めから要らぬ心配という訳だ。


 俺は子供達が遊んでいる様子を見ながら公園の横を通り過ぎる。

 しかしその所為で公園の入り口にいたの人影に気づけず、勢いよく衝突してしまった。


「すみません……って」


 ぶつかった相手は制服姿の少女だった。

 見慣れた制服を身に纏うその少女は同じ学校の生徒らしく、学年は俺と同じ一年だ。

 学年を判別出来たのは、リボンの色が一年の青色だった為だ。


 しかしそれよりも目の前の女子生徒の格好に目を向ける。

 派手な金髪に着崩した制服。

 一言で表すなら『不良ギャル』という奴だろう。


 そんな奴に絡まれたら面倒事になるのは確実だ。

 俺は直ぐ様目を逸らし、その場から離れようとする。


 しかしその女子生徒の脇を通る際に、その者から声を掛けられた。


「あんた、あたしを見て今目逸らしただろ?」

「……それが何か?」


 疲れている為、口調が少し喧嘩腰になってしまった。

 そんな俺の言葉に、目の前の女子生徒は拳をふるふると震わせる。


 その表情に俺は面倒な事になった事を確信した。


 朝から様々な同級生に質問攻めを食らい、帰りは変な奴に絡まれる。

 これ程不幸な一日は中々無いだろう。


 兎に角俺はこれ以上刺激しないように、相手の反応を待つ事にした。


「……かよ」

「は?」

「そんなにあたしが――ビッチに見えるかよ!」

「……は?」


 怒号をあげるその女子生徒に、俺は間抜けな顔をしてしまった。

 しかしそれは仕方ない。


 何故ならその女子生徒の言葉の意味が、全く分からなかったからだ。


「お前何言ってんだ?」

「あ……あんたもあいつらと同じで、あたしのことをビ……ビッチだと思ったんだろ!」

「悪りぃ帰るわ」

「ちょ!?」


 人という者は見た目だけでは分からないものだな。

 目の前の女子生徒は柄の悪い不良ギャルかと思っていたが、ただの阿呆だった。


 そんな阿呆に構ってられる程俺は暇じゃない。

 帰って早く新居で独りを満喫するんだ。


「ま、待てよ!」

「……何だよ?」

「あたしの質問に答えろよ!」

「お前はビッチじゃない、ただの阿呆だ」


 そう言って俺はその場を離れる。

 最後に振り返ってみると、女子生徒は俺の言葉に衝撃を受けたのか、その場で立ち尽くしていた。


 それを見た後、俺は再び家路につく。


「流石に疲れた……」


 本当に今日は散々な目にあった。

 朝からずっと対応ばかりで、身を休める時間が取れなかった。


 家に着く頃にはとっくに夕方になっており、俺はくたくたな身体でマンションのエレベーターに乗り込む。


 部屋の階数のボタンを押したら、エレベーター内の壁に寄りかかった。


 頼むからもうこれ以上何も起きないで欲しい。

 今日は部屋に着いたらゆっくりと湯船で疲れを癒し、上がったら冷たいアイスを食べよう。


 そう決めた俺は到着したエレベーターから降りて部屋に向かう。

 しかし俺はこれまでにない程の大きな嘆息を吐いた。


 何故なら部屋の玄関前で――昨日見かけた銀髪少女が座り込んでいたからだった。

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