第5話
朝食も終わり準備も完了すると、家を出るに丁度良い時間となった。
テレビを見ている麗奈に声を掛けるが、見入っているのか反応が無い。
なので俺は勝手にテレビの電源を落とした。
「良いところだったのに……」
「時間だ、出るぞ」
テレビを消されて不満なのか、渋面の麗奈を連れて部屋を後にする。
玄関を出たら予定通り徒歩で学校に向かった。
昨日麗奈と通った道を戻って行けば、余裕を持って学校に着ける。
再度ルートを確認したら、ゆっくりとアスファルトの道路を歩き始めた。
夏休みまでもう少しのこの季節。
頬を撫でる風は熱風の様に熱く、照り付ける日差しは朝からスタミナを奪ってくる。
今すぐ冷房の効いた新居に帰りたい。
そう思えてしまう程に、今日の蒼天に不満を持つ。
しかしそんな事よりも、新居を出てから俺の横ににぴったりと張り付く麗奈の方が気になっていた。
「……どうして俺の横を歩く?」
「どうせ同じ学校に向かうのに、
俺の問いに不思議そうな顔を麗奈はする。
確かに俺達が今歩いている道は、新居から出て最短距離だ。
それならばその道を使うのは効率が良く、逆に他の道を使うメリットが全くと言っていい程無い。
同じ道を歩くのは必然だ。
しかし俺は麗奈と一緒に登校しているこの状況をあまりよく思っていない。
こんな美少女と歩いているところを他の奴に見られでもしたら、終わりの見えない質問攻めにあうに決まっている。
何とかして共に登校するのを避けるべく、俺は鞄の中身を確認するふりをして足を止めた。
別に一緒に登校している訳ではないので、俺が足を止めようと麗奈は勝手に前に進むはずだ。
しかし俺の予想は外れてしまい、足を止めた事に気付いた麗奈は、振り返って俺の元に態々歩み寄ってきた。
「早くしないと遅刻するわよ?」
どうやら麗奈の方は一緒に登校しているつもりらしい。
その表現を見た俺は、麗奈と別行動する事を諦める。
そして結局、校門前まで朝を共にしたのだった。
◇
無事に学校に着いた俺は、自身の席に腰を下ろす。
するとそれと同時に複数のクラスメイトが俺の机を囲ってきた。
周りの者たちは各々の質問を、順番など気にせずどんどんしてくる。
言葉は違えど、話の本質は皆一緒だった。
『どうして斉藤衛介が学校一の美少女、
皆はそれを知る為に、朝から俺の机に向かってきた様だった。
そして俺はその全ての質問に対して『偶々一緒になっただけ』と一点張りで、強引に話を終わらせた。
しかしこの手の話題に皆興味があるのか、今度は他のクラスの奴らまで俺の所に訪れ、授業後の休みの時間も延々と質問攻めを食らった。
結局それは放課後まで続き、最後の一人が終わった俺はくたくになっていた。
漸く解放された俺は、鞄を肩にかけてふらふらと教室を出た。
「はあ、疲れた……」
予想はしていたが、どうやら麗奈は学校一の美少女らしく、麗奈を知らぬ者はいない程の人気っぷりの様だ。
今年の入学初日からその美貌は知れ渡り、同級生は勿論、上級生や一部の女子までも魅了した。
そんな麗奈を独り占めしたいと思った輩が大量にいたらしく、もう一学期が終わると言うのに、未だ告白する者が後を絶たないとも聞かされた。
そしてその告白を全て断っていたにも関わらず、ぱっと出た転校生と共に登校していたのだ。
皆気にならない筈がない。
「頼むから過激派の奴らに目をつけられません様に……」
心底そう願う俺は今朝通った道をなぞりながら、新しい住まいに帰るのだった。
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